心霊ちょっといい話『もう一人の住人』など短編全5話

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心霊ちょっといい話『もう一人の住人』など短編全5話 不思議な話
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母とのつながり

 

主人から聞いた話です。

彼のおかあさんは、彼が小学校一年生のときにガンで亡くなったのですが亡くなったその日から、おかあさんが彼の夢に毎日出てきたそうです。
話し掛けてくるわけでもなく、近寄ってくることもなく、
夢の景色の片隅に遠く、生前のままの母の姿で、やさしく微笑みたたずんでいる・・・

末っ子の彼のことが一番気がかりだったのでしょう。
心配で心残りで、いじらしくて不憫で・・・彼のそばから離れられなかったのではないでしょうか。
死んでもなお強く残る母親の深い愛情を思うと、胸が熱くなりました。
えぇ話やぁ~と、うるうるしながら彼に
「おかあさん、会いに来てくれてよかったね。」と言うと
後悔を口にする時の表情をしながらうつむきかげんに
「うーん・・・それがさ。嫌だったんだよね。怖かったんだ。ちいさかったし俺。」

おかあさんの闘病は壮絶なものだったようです。
あまりに悲惨な姿だったので、幼い彼に見せるのはよくないだろうと、おとうさんは彼に一切母親の病状を見せなかったそうです。
ところが、おかあさんが死んだ直後、きっとおとうさんもパニックだったのでしょう。
なんの心の準備もできていない彼を病室に連れて行き、いきなり死に顔を見せたのでした。

おかあさんのその顔は・・・壮絶な苦しみの果ての表情は凄まじく、やさしかった生前の母親の面影を吹き飛ばし、悲しみではなく、死に顔の恐怖だけが頭に焼きつく結果となってしまったようです。

「夢の中のかあさんはさ、やさしくにこにこ笑ってんだけどさ。どうしても頭から離れないのよ。あの恐ろしい死に顔がね。いつあの顔になるのかと思うと怖くてさ。」

幼い彼は、それでも我慢しようと思ったそうです。
「ちっちゃくてもわかるよ。かあさんの気持ちはね。それに男だし。怖いなんて言えないもんな。」

半年がんばったそうです。毎日トラウマと戦ったのですが、やはり限界が・・・。
夜眠るのが恐ろしくて睡眠不足になり、握りこぶし大のハゲができてしまったんだって。
周りの大人たちは、おかあさんの死の悲しみからだろうと激しく同情してくれるけど、理由は絶対言えない。。。。。

そんなある日、おじいちゃん(おかあさんの父親)の家に泊まりに行って
おじいちゃんと一緒にお風呂に入っているときのこと。
彼は唐突に「この人だったらなんとかしてくれるかもしれない。」と思ったそうです。
そして意を決してとつとつと、じいちゃんに訴えたのだそうです。

話を聞き終わったじーちゃんの顔は忘れられないと彼がいいます。
悲しいような怒ったような、なにかを断ち切るような厳しい顔だったとか。
「どうしても怖いんか?」
「うん。」
「そうか・・・・。もう二度とかあさんに会えないが、それでええんか?」
「うん。いい。」
「そうか・・・・。」
悲しみを含んだ深いため息をついてから、おじいちゃんは彼をしっかり抱き寄せ、
「よし。じーちゃんにまかせろ。今日からもうかあさんは絶対出てこないからな。」
にっこり笑ったおじいちゃんの目に涙が滲んでたそうです。

おじいちゃんが何をしたのかわからないけど、本当にその夜からふっつりと、おかあさんは出てこなくなったそうです。
大人になり、怖がったことを申し訳なく思った彼は、何度かおかあさんにもう一度会いたいなぁと話し掛けたそうですが、
やはりあれから一度も出てきてくれないんだそうです。
きっと安心して成仏してるんだよと私は思いました。

彼はそうとうおかあさんから甘やかされたようで、大人になった今でもシャツのそで口のボタンはひとりでとめれません。
幼い頃、ボタンは必ずおかあさんがとめてくれたんだそうです。
「おーい。ボタンしてーーっ」って言われるのがめんどくさかったけど、おかあさんの話を聞いてからは、めんどくさがらずにやってあげてます。
あなたの息子さん、大事にしますねって思いながら。

 

 

オウムの最後の言葉

 

お母さんから聞いた話。

昔、あたしの家族はアパートに住んでいたのですが、管理人さんは1Fに住む老夫妻。
よく飴をくれたりと可愛がってもらったものです。

この老夫妻にはもちろん離れてはいても家族がいたと思いますが1番の家族は長い間一緒に過ごしている1匹の年老いたオウム。
特に奥さんが可愛がっていてオウムも「ママ」と話したりするくらいなついていたそうです。

鳥って結構長生きするらしく、本当に年寄りで羽根とかも結構ボロボロ
「お前と私、どっちが先に逝くかしらね?」などと話しては
夫婦でよく笑って、楽しく過ごしていました。

ある日、奥さんが居間で縫い物をしていると年老いたオウムが突然「ママ!ママ!」と甲高い声で何度も奥さんを呼ぶそうで奥さんも「はいはい」なんて言いながら、ベランダのほうにおいてあるオウムのカゴのほうへ悪くなった足をゆっくり動かしながら行ってみるといつも止まり木にいるオウムがカゴの下に目を閉じて横たわるように倒れていました。

もう年寄りだとは言え、いつも元気よく毛づくろいしていたオウムがぐったり横たわっていたので奥さんはとても動揺していましたがどうしたらいいのか分からない。
奥さんがカゴを覗き込むとオウムはパッチリと目を開けて

「ママ、ママありがとね。ありがとね」
と言って、眠るように死んだそうです。

長くなりましたが、繰り言とは言え言葉を覚える鳥ってすごいな~と幼心ながら感動してしまいました。

 

 

夢だからと言って安心は出来ない

 

私はその夢の中で追われていました。
追ってくるのは黒っぽいスーツを着た痩せ型の中年の男。
今もはっきりとそいつの顔を覚えています。
私は確かにその男を知っている気がするのですが、その男の名前も、どこで会ったかも思い出せません。
ただ「捕まったら死んでしまう」と漠然と感じ、必死で逃げていました。
でも車で逃げても、走って逃げても、どこに行っても必ずその男は目の前に現れるのです。
夢の中なので時間の概念はないのですが随分逃げ回っていました。
現実の感覚でいうと丸一日くらいでしょうか?
その間、休むことなく逃げ続けました。
そして精神的にくたくたになった頃、
それまではいつも逃げられる程度の距離に現れていた男が、突然目の前に現れたのです。
そして絶対に逃げられない距離から私につかみかかってきたのです。
”もうだめだ!殺される!”
と思った瞬間
「起きなさい!」
という大きな声で目が覚めました。

飛び跳ねるように身体を起こすと、そこに何年も前に亡くなった祖母が立っていました。

祖母は
「危なかったねぇ。夢だからって馬鹿にしちゃいけないよ。 本当に死んじゃう事だってあるんだ。 いつも助けてやれるわけじゃないんだよ。 今日は運が良かっただけ。気をつけないとね。」

そんなような事を言ったと思います。
気がつくと祖母は消えていて、私の心臓はバクバク、、身体中に油汗をかいていました。
もしかしたら祖母が立っていたのも夢で、全部夢かもしれません。
でも今も鮮明に思い出せるあの恐怖は、私の中でただの夢とは思えないのです。
祖母が助けてくれなければ、多分私は死んでいたと今でも信じています。
おばあちゃん、ありがとう。

 

 

もう一人の住人

 

築数十年の我が家。
数年前に、一人で住んでいる私の横で大人の男の声がしました。
振り返ったけど誰もいなかったんです。そこからが始まりでした。
帰って来たら便座が男性ポジションになっていたり、物が動いていたり。
最初泥棒かと思ったんだけど何も取られず襲われもせず。
幽霊なのか人間が実は住み着いているのかどっちなのかは分かりません。

声がするようになってから、悩まされていたネズミ被害がすごく減りました。
前は足音がしたら部屋のものが汚されていたけど、今はせいぜい天井裏の走る音が聞こえるくらいに。
買ったままどこにしまったか分からない乾物がありました。
それを言いながら探していたら、風呂から上がったらドアの横に置いてありました。
人間にしても悪い人じゃないと思います。

今年に家を取り壊すことになりました。
もう歪みもひどく一度天井も落ちていて、畳も抜けそうなので仕方ないと思います。
でも壊したら彼がどこかへいけるのかそれだけが心配です。

 

 

母と娘

 

おかんが癌で亡くなって6年になる。
癌を見つけたときにはもう余命一年の宣告。親父と相談の上、おかんには告知しなかった。一年、騙し続けた。
私はその時二番目の子供を妊娠中。大きい腹でおかんの病室に通った。
ある日おかんが私の腹をなでて、まだ見ぬ孫の名をつけて呼んだ。
おかんの死後、丁度一ヶ月の日に娘は生まれた。母がが呼んでくれた名前を娘につけた。すごく愛しそうに呼んでくれた名前だから、迷わなかった。
母は夢に出てくることも姿を見せることもなかった。妹のところにも。
私は、母を騙し続けたことに、とても罪悪感を感じていた。例えモルヒネが処方されて「お姉ちゃん(母は私をこう呼んでた)、この薬は何?」と聞かれても、ただの鎮痛剤じゃね?とかいって誤魔化してた。一日ずつ命が減っていく母に、それを悟られまいと必死で嘘ついてた。
母は私を恨んでる。何の心の準備も出来ず、亡くなったのは私のせいだ。
親父は母の闘病中から娘より若い愛人を作って母のことは全部私に任せていたので、余計責任を感じてた。
私の所に出てこなくても当たり前だよな、そう思ってた。

先週、娘とお風呂に入っていると、娘がこう言った。
「ママ、私の名前はママのおばあちゃんがつけたんだよね」
ああ、話したことあったかな、と思って、そうだよ、と答えた。
「私、この名前大好きって言ったら、おばあちゃんが嬉しいって言ってたよ」
驚いた。いつおばあちゃんに会ったの?と、聞くと、
「いっつもいるよ。ミルちゃん、って白いネコさんとお庭とかに」
ミルちゃんは、母の死後すぐに死んだ、母の可愛がってた飼い猫。
写真も家には残ってないし、娘が知る筈もない。
思わず娘に聞いてしまった。おばあちゃん、ママのこと怒ってるでしょ。
って。娘は「明日聞いてあげるね」って答えた。
娘には見えるけど、私に見えないのが何よりの証拠。娘のとこには出て、私のとこには夢にすら出ない。嬉しいけど、悲しかった。
でもその夜、夢を見た。おかんだった。実家の両親の部屋で、生前座ってた椅子に座ってた。膝にはミルちゃん。夢の中で、私は母に謝った。
ごめん。騙しててごめん。号泣した。
「……ごめんねぇ、お姉ちゃんつらかったよねぇ」
「お母さん怒ったりしてないよ?毎日病室で色々笑わせてくれて、楽しかったよ」
母が手を握ってくれた。暖かかった。一層泣けてきて、自分の泣き声で目が覚めた。起きても母の手の感触が、体温が手に残ってた。
朝起きてきた娘が言った。
「おばあちゃん、ママとお話したんでしょ?おばあちゃんが言ってたよ。良かったねママ」

今も娘は母が見えるらしいけど、私には見えないまま。でもそれでもいい。母が傍にいることが分かったから。
もうすぐ母の命日が来る。お墓と仏壇掃除して、母が大好きだった作家の新刊でも供えてやろうと思う。

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