『不可思議なご依頼』|長編【洒落怖 名作】不思議な話・奇妙な体験まとめ

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『不可思議なご依頼』|長編【洒落怖 名作】不思議な話・奇妙な体験まとめ 不思議な話
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入口から右周りに歩いていくと海の見渡せる景色の良い庭に出ました。

敷地の一番端っぽいところに不似合いなブルーシートが広げられていました。

もう僧侶という立場ではない感覚でした。

何か不思議なことが起こっているらしいし、
実際に音と振動は聞いて見た、それは間違いない。

ビビリの私なのにこのあまりにもハッキリした不可思議な現象の興味が強まる一方でした。

 

ブルーシートに近付くと周辺の芝生が少し枯れた色になっていました。

雰囲気は十二分でした。

Tさんにブルーシートをめくって頂く前から
念珠を握り口にしなかったですが経を唱えていました。

ブルーシートがめくられると、Tさんの言うとおり、
不快になる程大量の骨と牡蠣殻などがありました。

Tさん「ほら、あるでしょ、この通り、お坊さん、見えるでしょ?これ、ここ、これ」

ん?この嫌な光景を目にしながらまた不思議な違和感を覚えました。

臭いがしない・・・
「Tさん、これだけ骨やらゴミ、というか色々なものがありながら臭いしませんよね?」

Tさん「ずっと土に埋まっていたからじゃないですかね?
それよりもお坊さん見えますよね?」

「はい、見えますよ。私の携帯で写真撮って良いですか?」

Tさん「はい、どうぞどうぞ、お願いします」

ひょっとして撮影出来ないっていうよく聞くパターンか?と思いながら撮影ボタンを押すと

カシャッ

無事に撮影出来ました。

「Tさん、ちょっと触っても良いですか?」

Tさん「もちろんです、どうぞどうぞ」

私は素手では流石に触る気がしなかったので、
近くにあった小さなスコップで一番手前にあった骨を触ってみました。

コツン、

感覚はありました。実在している物体でした。

その後、他の骨を触ってみましたがやはり感覚はありました。

その時、奥様が「あっ!」と小さく叫びました。

声の方を見ると奥様が自宅の窓(後で確認したらキッチンの窓でした)、を指差して

「あれ、あれ」と私に見るようにという仕草をしました。
Tさんの奥様が指をさされた先を見ると文字通り呆気にとられました。

それを見たときには驚くことも声が出ることもなかったです。

そこにはTさんのお宅の窓枠を両腕で握って振っているような動作をする
灰色の作業服を着た男性がいました。

この世のものではないというのは流れでも雰囲気でも充分理解出来ていたのですが、
何というか、真昼間の大都市の上空に細部までハッキリ見える
UFO(私は信じてます)が現れたというような感じで、あまりにもハッキリ見えすぎて、
驚いたり出来なかったんです。

多分数秒だったと思いますが、フリーズしていたと思います。

その私にTさんが

「お坊さん、あれです、あのシャツの男、あれもなんです」

と慌てながらでも小さな声で話されました。

「え?シャツ?」

私にはハッキリと灰色の作業服の男性が見えていますが、
Tさんは「シャツの男」と仰いました。

「Tさん、シャツの男ですか?」

Tさん「え?お坊さん見えてないんですか?あれが」

「いえ、男性は私にも見えているんです」

Tさん「え?」

「でもシャツじゃなくて灰色の作業服なんです」

Tさん「え?汚れたTシャツじゃないですか・・・泥まみれの」

 

自宅を出てここまで約4時間、
こんな短時間しかも立て続けに不可思議なことが起きて、
加えて、これまでこんなに、恐らくこの世のものでないかたが
ハッキリ見えたことはありませんでした。

作業服のしわまで、窓枠を掴んでいる腕の手の甲の汚れまでハッキリ見えていました。

でもTさんは汚れたTシャツと言う・・・
一気に色々なことが起き過ぎて頭が上手く働きませんでした。

先に書いた通り、私達の教義では加持祈祷や呪(まじな)いの類は一切禁止されています。

漫画の孔雀王みたいな退魔師みたいなことは勿論出来ません・・・

Tさんも、奥様もきっとそういうことを
望まれているんだろうとは瞬時に感じました。

どうしよう・・・と思ったときに独鈷杵を思い出しました。
袖から慌てて取り出して、そのまま作業服の男性に
念珠と一緒(本当は駄目なんですが)に向けて、名号を唱え、
更に加えてご本尊の梵字の音読みを口にしてみました。

(これは正しい作法ではありません、咄嗟にやってしまった滅茶苦茶な自己流です)

どうかお浄土に・・・と必死に願いました。

その間にシッカリと作業服の男性に目を向けました。

白髪なのか乾いた泥なのか白髪交じりに見える頭部、
やや日焼けしていると感じる腕と首周りなど今でも思い出せます。

でも、顔がよく見えません。

少し、半歩移動すれば普通なら横顔くらい見えそうな距離感、位置だったのですが、
何故か顔がよく見えません。作業服のしわまで見えているのにです。

何となく、ですが、もっと強く念じた方が良いんではないかと思い、
ほんの少しだけ、目を閉じてそれまで以上に強く名号を念じてみました。
これもほんの数秒です。

するとTさんの「きえた」という声が耳に入りました。
奥様の「あぁ・・・」という声も聞こえました。

目を開くと作業服の男性はいなくなっていました。

前に突き出した両手を下ろすと、Tさんと奥様から次々に

「ありがとうございます」

と言って頂きました。

何が上手く行ったのか全く分かりませんでしたが、
とりあえず窓枠を掴む作業服の男性はその場からいなくなりました。

その時、不謹慎ながら

「あ、携帯で画像か映像を撮ればよかった」

と思いました。

Tさんと奥様にお聞きしましたが、やはり撮影などはされていませんでした。

男性が掴んでいた窓枠に近付きました。

ひょっとしたら掴んだ形跡が残っているかもと思ったからです。

勿論、何もありませんでした。

あんな泥だらけの腕で掴んだのに。

ということは、矢張り実体のあるものではない、ということになります。

そこからまた急に怖くなって来ました。
どうすればキチンと対応出来るものか、必死で考えました。
どうすれば良いかを考えている時にふと、ブルーシートの中が気になりました。

作業服の男性が消えたってことは、もしかしたら、
骨が消えているんじゃないか?

それをTさんに伝えてシートをめくって頂きました・・・骨はありました。

じゃあ、作業服の男性と関連はないのか?

また分からなくなってしまいました。

奥様にも促され、一旦リビングに戻ることにしました。

その場で丁寧に合掌をして室内に戻りました。

Tさんも奥様も先程の偶然を想像以上に勘違いされ、
私の事を漫画の退魔師みたいな風に思っている期待感みたいなものが
ひしひしと伝わって来ました。

私はそういう事が出来る僧侶ではないこと、
先程のことは単なる偶然であることを正直に言いましたが、
これまでのストレスもあったのでしょう、
それでもさっき目の前で出来たから的な解釈をされた様でした。

お茶を頂、改めて整理をしようと提案しました。

 

まず、去年の夏か秋に骨がみつかり、
それから不可思議な音や窓の揺れ、先程の男性が現れる様になった。
しかも、骨は写真に写り、触れる実体物なのに役場の職員が来た時に限って消えていた。

「他にはありますか?」

Tさん「あの・・・誰もいない場所から人の声が聞こえることもあります」

「どんな風に、何を言ってるかわかる感じでしょうか?」

Tさん「あー、とか、うーん、とかそんな感じの男性の声だよなぁ」

と奥様に同意を求めました。

奥様 「ハッキリした人の会話みたいなのは聞いたことないんですけど
動物の泣き声とも違うんです。
主人の言うような人だって思えるような、人の声に聞こえる声なんです」

「で、先程のお庭での件ですが、私には作業服を着ている様にみえたんです。
様にというか、灰色の作業服がハッキリみえました」

Tさん「私がこれまでみてきたのは、さっき言った通り
いつも汚れたTシャツ着てます、なぁ」

奥様 「そうですね、私も男の人は汚れたTシャツを着ている人です」

何で見え方に違いがあるんだろう?
そういえば、この部屋で最初に窓が揺れているのを見たとき、
ガラスの向こうには何も見えなかった、これも何か矛盾してる・・・
庭で見たあんな風な掴み方してたらこちらから丸見えのハズなのに・・・

しかし、まさか人が揺らしてる感じで揺れていたのが本当に揺らす様なことしてたとは・・・

「この土地って元々はどういう土地だったんですか?」

Tさん「私も気になって調べたんですけど、記録が残っている分ではもともと耕作地で
バブルの時期あたりに宅地に転用したみたいなんです。
元の所有者に聞いても書類維持に必要で小屋みたいなものは建てた事はあるが、
ウチみたいな本格的な建て屋は初めてとのことでした。
何か因縁や怨念、事件があったとかは無い感じなんです。」

「でもこの付近、他に人家が少ないですよね?」
Tさん「そこが気に入った部分でもあったんでこれまでは全く気にしてませんでした」

「近所、っておかしいですが、近くに住んでる人達に何か聞いたりはしましたか?」

何だか僧侶というかもう警察か探偵みたいな感じになってます。

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