『狐の嫁入り』|不思議な話・奇妙な体験まとめ

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『狐の嫁入り』|不思議な話・奇妙な体験まとめ 不思議な話
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狐の嫁入り

 

俺の実家は山と湖に囲まれた田舎にあるんだけど、
小学校六年の時の夏休み、7月28日にツレ二人と湖に流れ込む川を溯って、イワナ釣りに行く事になった。
雲一つも無いようなよく晴れた日で、冷たい川の水がやけに気持ちよかった事を覚えてる。
俺らにとっては何度も通いつめた谷。ポイントも殆ど分かっていて、
イワナ止めの滝に着く頃にはビクも一杯になっていた。
知らない人の為に一応書いておくが、イワナ釣りってのは川を溯りながら釣りをし、
これ以上は魚が登れないような落差の大きい滝(イワナ止めの滝)まで釣り上がり、
そこで釣りは終了、川を下って帰るんだけど、
その日の俺らは魚も十分釣れたので、邪魔くさい帰り道も、足取りは軽かった。
冗談を言ったり、川に入って泳いだりもしながら、大きな淵まで下ってきた時、いきなり小雨が降って来た。

 

天気予報では降水確率0%だったので不思議に思ったんだけど、
それより驚いたのは、太陽は依然としてギラギラ輝いていて、どこにも雨雲なんて無かったこと。
おかしなこともあるもんだとかツレと話していると、突然、谷にこだまするほど大きな音で
「ケーーーーン」と動物の鳴き声の様なものが辺りに響いた。
で、次の瞬間。
川の対岸の薄暗い杉林の中に、川上に向かってゆっくり歩いてく、10人ほどの人の行列が現れた。
黒い紋付き袴を着た男達だったんだけど、行列の中程に一人だけ、白無垢を着た女がいた。
俺らはもう完全に凍り付いていたんだけど、なんか本能的に「逃げるべき」と思ったわけ。
ツレの一人が走りだすと、もうみんな一目散。川にそって全力疾走した。
湖面が見えてくる頃には、不思議な雨もいつの間にか上がっていて、漸く生きた心地がしたんだけど、
出てきた場所はなんと湖の対岸。溯った川とは全く別の川の河口だった。

 

小さい湖だから、家に帰るにはそれほど大変ではないんだけど、
恐怖のあまりどうやって帰ったのか全く記憶が無い。なんとか家に辿り着くと、俺の顔を見るなり、祖母が血相変えて飛んできて、
「そんな死人みたいな顔して!山で何を見てきた!」
と、怒鳴ると、いきなり念仏を唱え始めた。一緒にいた祖父にことのあらましを話すと、
「狐の嫁入りか。多分心配は無いと思うけど、魚は返しに行け」
と言うので、祖父に連れられて湖まで行き、ビクの中の魚をぶちまけた。
魚はもうとっくに死んでいて、白い腹を見せてプカプカと浮いていた。

高校を出て大学に入った年の夏休み、帰省中にあの時の二人と海釣りに行く事になった。
しかし、出発直前になって俺は寒気と吐き気と高熱に冒されて、行く事が出来なくなった。
一晩寝ると症状は嘘のように回復したが、人生最大の悲しい知らせが待っていた。
友人二人が道中の車の事故で亡くなっていた。

 

二人が他界してから10年以上が経った先週、いつもの通勤電車の中、
目の前に座っていたサラリーマンが読んでいた渓流釣りの雑誌をぼんやり見ていると、突然、
もしかすると二人はあの時、魚を返さなかったのかも知れないという考えがふつふつと沸き上がってきた。
二人は祖父母を早くに亡くし核家族で、誰も魚を返さなければいけない事を教えてくれなかったのではないか。
だからあの時魚を返した俺だけが、事故の日、高熱を発して難を逃れたのではないか。
なぜ俺は魚を返さなければいけない事を二人に伝えてやれなかったのだろう。
もうどうしようも無い事だとは分かっていながら、そう考えるといてもたってもいられなくなった。
で、その日のうちに会社に休暇願いを出して、ようやく仕事が片付き、やっと今日から休み。今、帰省中。
あの二人とよく一緒にファミコンしたりして遊んだ部屋でこれ書いてる。
明日は二人の墓参りに行って、伝えられなかった事を謝るつもり。
あと、あの時俺を助けてくれた祖父母の墓にも参ってこよう。
窓の外から湖の波の音がやけに聞こえてくる。
二人の時も祖父母の時も、葬式で死ぬほど泣いたはずなんだけど、なんかまた泣けてきた。

 

今、起きた。まだ五時半かよ。
二時間くらいしか眠れなかった。
なんか変な夢見るし、寝覚めは最悪。

大学時代の友人も会社の同僚も、嫁ですら全く信じてくれません。
また、魚を返したので俺だけ難を逃れたってのは、単なる偶然だと思います。
あの日の俺の突然の症状も、軽度の食中毒のものによく似てます。とても暑い日だったので、いかにもですね。
ただイワナ釣りに行った日、不思議な雨に遭い、杉林の暗やみで不気味な行列を見たのは紛れもない事実です。
ただ一緒にそれを見た二人も、何か知ってるようだった祖父母も他界してるので、証明出来ないのが残念です。

 

俺が他人にこの話聞かされても多分信じ無いので、まぁ仕方ないです。
幽霊だったらまだしも、狐の嫁入りなんてね。

中学・高校と何も変わった事は無かったですね。あの出来事の後も、ツレ二人と「あれは一体なんだったのか」みたいな話はしましたけどね。
ガキの頭じゃわかるはずもなく…。
他人に言っても全く信じてくれなかったので、三人ともその話をあまり人にしなくなりましたね。
ただ、二度とあの谷にイワナ釣りに行くことはなくなりました。

あの鳴き声は雉子じゃなかったですね。子供の頃からよく山へは行っていたので、何度も雉子の声は聞きましたが、文字にすると確かに同じになっちゃうんですが、あれは明らかに異質なものでした。
それと、あの時の祖父母の様子が引っ掛かるんですよ。
俺の顔を見るなり「何を見た!」って怒鳴った祖母。
祖父の言った「狐の嫁入りか。心配ないと思う…」と言う言葉も、狐の嫁入り以外の何なら心配だったのか…とかね。
考えすぎですかね?

 

やっぱり気になるんで、これからお墓に行って、帰りに町の図書館に寄って、似た昔話でも無いか調べてみます。
何か面白い話が見つかればまたここに書いてみます。

そういえば、亀を捕まえたときも返しにいけと言われた気がするし、祖母も俺があまりにまっ青な顔してたんで、ビックリしただけに思えてきた。
図書館に○○町の昔話って本があって、一通り流し読みしてきたんだけど、その谷に関する話は一つだけ。それも谷の名前の謂われになった、
俗に言う貴種流浪譚みたいなやつで、俺の見たものとは無関係そう。
地域の年寄にでも聞けば、何か知ってるかも知れないけど、親戚の年寄もあらかた他界してるし、高校出てすぐ町出たから、集落の年寄とも付き合いがない。

 

□ □ □

 

墓に参って来たら、なんかスッキリした。
今日は実家で晩飯食ってから、嫁の待ってる家に帰り、明日から仕事に行く事にするよ。

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