先程までの嫌な空気が段々和んでいく方向に変わって行くのを感じていました。
Tさんは、敷地の端、広葉樹(すいません名前がわかりません)のあるところの
近くまで行って私に「ここで良いでしょうか?」と尋ねられました。
「良いと思いますよ、その樹が墓標にもなるでしょうし」
Tさんと奥様は、大きさ別に丁寧に骨を運び、
その後一緒に牡蠣殻もすべて運ばれました。
そして改めて、その樹の下を掘り始められました。
私は何かほっとした感じになって、気を緩めていました。
その時でした。穴を掘っているTさんが
「あっ!」
と大き目の声を上げました。
「どうしました?」
と私が近付こうとTさんに向かい始めた時、
穴を掘って出る土を運んでいて私の後方にいた奥様が
「あっ!」
と大きな声をあげました。
え?何?なにがおこったの?
どちらの方向も見ましたが、咄嗟にどっちに動いたら良いのか分からず
またフリーズ状態になってしまいました。
「お坊さん、こっち、こっち」
そう言いながらTさんが掘っていた穴(ご自分の下半身が隠れる位の深さ)
から飛び出したのが見えたので、条件反射でそちらに向かいました。
Tさん「お坊さん、穴、穴」
Tさんが穴の中を指差します。が、何もありません。
掘られた普通の空間があるだけでした。
「どうしました?」
Tさん「え?あれー?いない?さっき、あの男が私にむかって拝んでたんですよ、
掘った中から、私の足元から私にむかって、拝んでたんですよ、
突然出てきて、だから流石にびっくりして」
「あ、奥さん!」
私は慌てて奥様の方を振り返って奥様の状況を確認しました。
奥様は私たちの上、樹の上の方に視線を向けていました。
私は近付いて「奥さん大丈夫ですか?」と聞きました。
奥様 「はい、大丈夫です、大きな声だしてすいません、
あの・・・さっきまであの樹の上に
あの男の人がいて、それでビックリして声が出てしまって、
主人を見てる感じで樹の上にいたんです。
でも、お坊さんが近付いたら消えていって・・・お坊さん、見えましたか?」
「いえ、私には今回は見えませんでした」
奥様 「あの・・・天国にいったんでしょうか?」
「えーっと、天国というのは私たちの言葉ではないのですが、浄土ですね、
極楽浄土って聞いたことないですか?
まぁあれです、言葉はともかく、そうだったら良いですよね
埋葬終わったら、改めて法要致しましょうか」
そう言ってあらためて樹をみましたが、特段変わったものはありませんでした。
この様な場合への対応は元々私たちにはありませんので、
自分なりにふさわしいと思う経を唱え、私なりのお弔いの形をとらせて頂きました。
先日に余計に気をまわして用意した抹香
(線香ではなんとなく場違いな気がしたので)を
しかも上等(という表現は適切ではありませんが)白檀を焚き、
お二人にも経本をお渡しし、同音でお浄土への成仏を、人間、動物、
その穴に埋葬されたと思われる全てのものに対して祈らせて頂きました。
まだ夕方にはなっておらず、この分だと明るい時間に帰宅できるなと思っていました。
またリビングに戻り、一応、無駄かもしれないが、埋葬した骨に人骨が混ざっている可能性を
役場に話した方が良いこと、勿論、不可思議な現象については無駄に話さないこと、
もし、役場の人間が相手にしないならそれで良いし、
何かあれば私にも連絡をしても構わないなどを話していると、奥様がこう言いました。
奥様 「庭の件は、本当にお坊さんのお陰で助かりました、ありがとうございます」
「いえ、こういうご縁も正直珍しいですが、お役に立てたなら幸いです」
Tさん「本当にありがとうございます」
「いえ、いえ」
奥様 「それでですね・・・
最初に主人がお話した「お墓みたいなもの」のことなんですが・・・」
・・・え?
「ちょっと、待って下さい・・・今、庭でおこなったことじゃなかったんですか?」
Tさん「すいません、実はあれは1つなんです」
「え?だって骨とか、あの男性とか」
Tさん「ええ、でもお墓みたいなものじゃないですよね・・・
骨捨て場みたいなところだったですが・・・」
「え?じゃあ、別なんですか?」
奥様 「はい、申し訳ありません、お墓みたいなものは、2階にあるんです」
ええええええええええええええええええええええええええええええ?
はぁああああああああああああああああああああああああああああ?
嘘でしょ?
何だったの今までの出来事・・・充分不思議体験させて頂きましたし、
ビビリで退魔師でもないけど、相当頑張りましたよ・・・私・・・
うわぁ・・・無事に家に戻れるかな・・・
そのままの心境が相当表情に出てたんだと思います。
Tさんが土下座に近いポーズで
「お願いします、さっきもお坊さんのお陰で救われたんです、
だから大丈夫だと思うんです」
と仰いました。
「いや・・・流石にちょっと・・・あの・・・
さっき言った通りあれもまぐれみたいなもんですから・・・」
こんなこと現実としてあるんかいな・・・案外夢かもしれんなぁ・・・
現実逃避みたいな思考になって来ました。
そういえば、庭の骨の話の時も1つって言ってたなぁ・・・
「あの・・・正直に仰って頂きたいんですが、
さっきの骨とその2階のことと、あと他にも
何か、あるんでしょうか?」
Tさん「いえ、あとは、というか、本当にお願いしたかったのは2階の件で、
後はそれだけです。
お坊さんが来て先に、あの男のことが起きたんで、
2階の話をしてる余裕がなかったんです
本当にすいません」
「でも、さっきの話だと、去年庭から骨が出てから色々起こり始めたって・・・」
奥様 「はい、そうです、2階のも、それからなんです・・・」
「だったら、もうおさまってるかもしれませんよ」
Tさん「はい、そうだったら良いと思ってはいるんですが、
念のため一緒に2階に行っていただきたいんです」
「ちょっと待って下さい、2階に関連して起きる症状というか、
現象をまだお聞きしてないんですが」
Tさん「あ、そうですね・・・」
「というか・・・本当に失礼な発言だと思うんですが、
そこまで色々あってよく引っ越しませんね。
私一応僧侶ですが、相当怖いです。
というか、本気で引越し考えた方が良くないですか?」
Tさん「・・・。」
奥様 「すいません・・・」
「あ、すいません、言い過ぎました・・・申し訳ありません」
精神的にもだいぶヤラレテ来ているのが自分でも分かりました。
何だか普段感じない苛々を感じていました。
「Tさん、実は車中でお聞きしてた件で気になった箇所があったんです」
Tさん「はい、なんでしょうか?」
「あの・・・お二人で住んでいらっしゃって、
お子様はいらっしゃらない、近くに人家もない
なのに、Tさんは、「周りに聞こえたら」と仰いましたよね、
それは2階に関係あるんですね?」
Tさん「・・・はい」
「奥さん、奥さんとの会話にも、先程庭の件でお話してて気になった箇所があるんです」
奥様 「・・・はい」
「Tシャツかどうかの話の時、男の人は、っておっしゃいました」
奥様 「・・・はい」
「ということは、さっきの男性以外にもヒト的なものが
他にいるってことですね、その2階に」
奥様 「・・・はい、2階にだけ、ってことではなくなってきてるんですけど・・・
主にそうです、すいません」
うーん、本当にどうにかなるんかいな・・・そう思いながらもう片方では、
何だか非常に腹立たしくなって来ていて、妙なやる気というか、
勘違いな使命感みたいなものを感じていました。
「あの、2階で起きたこと、起きてること、
お二人が困ってることを具体的にお聞きしたいんですが・・・」
Tさん「はい・・・すいません・・・始まりはお話した庭のバーベキューのあと位からです。
最初は、今はあの廊下のところの部屋で寝てるんですが、
前は2階の海が見える部屋で寝ていたんです。
すごく見晴らしも良くて・・・それがあの後から突然、
人の気配とかじゃなくて、あのお墓みたいなものが部屋に出てきたんです。
2階の寝てた部屋に突然浮かんでたんです」
「浮かんでた?」
Tさん「はい・・・やはり見て頂くのが一番良いと思うんですが、
上手く言えないんですが、SF映画みたいにCGですかね、
あんな感じで部屋にぼんやりお墓みたいなものが浮かんでいたんです、
もう驚くしかなかったし、そこから音とか声みたいなものが
聞こえてくるんです」
奥様 「音とか声とかじゃないんです、主人の言ってるモノから、
人みたいなモノも出て来るんです、出てくるというか、
こんな感じで(両手を突き出して)ぼやーっと出て浮かんで、
たまに下に下りて来たりもするんです」
Tさん「嘘じゃないんです」
「ええ、ここまで来れば勿論少しも疑ったりしてませんから安心してください、
で、どれくらいの大きさで、どんな形なんでしょうか?」
「出来たら紙か何かにかいていただけますか?」
奥様が紙とペンを持ってきて下さり、Tさんが描いてくださいました。
Tさん「こんな感じです、だよなぁ」
奥様 「はい、こんな感じで大きさは、どうでしょう・・・
これくらい(両手で四角をつくりながら)です」
紙には長方形と正方形が組み合わさった確かに墓石に見えるモノが描かれていました。
大きさはだいたい30~40cm四方くらいな感じでしょうか・・・
「あと、これがあって起こる嫌な目というか、そういうのは・・・」
Tさん「もう存在そのものです、そんなモノが四六時中部屋にあって、
いや浮かんでて、そこから音とか声とか、人みたいのも出てくる、
そういうの、とんでもなく嫌ですよ」
「物理的にというか、体に感じる痛みとか苦しみとか、そういうのはないんですか?」
Tさん「そう言われたら、そういうのは無いですが、
ストレスが酷いです、精神的に苦しめられてますし」
奥様 「だから、もう半年近く2階には上がってないんです何しろ怖いんです」
「わかりました、というか分かってないんですけど、2階に行ってみましょう、
ただ、私に解決出来るかどうか、本当にわかりませんから、
そこはご了承下さいそれと、私以外に誰かにこの話しましたか?」
Tさん「いえ、骨までは知ってる人はいますが、
ここまで話したのはお坊さんがはじめてです」
三人で2階に上がる階段へと向かいました。
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