天使の階級と七大天使 ― 名前一覧と羽の数
本記事では、キリスト教の神秘思想で語られてきた「天使の階級(九階級)」と「七大天使」、そして天使の羽の数について、できるだけシンプルに整理して紹介します。
天使の階級とは?
6世紀ごろの神秘思想家とされる偽ディオニシウス・アレオパギタは、著作『天上位階論』の中で、天上の霊的存在を三つのグループ・九つの位階に分けて説明しました。
この整理が後の神学者や教会にも受け継がれ、「天軍九隊」「九つの天使の階級」として知られるようになります。
天使の九階級(ナイン・オーダー)
偽ディオニシウスによる天使の階級は、上から順に次の九つに分けられます。番号が小さいほど神に近く、抽象的で光そのもののような存在とされ、番号が大きくなるほど人間に近い、現実世界に関わる役割を担うと考えられました。
- ① 熾天使(セラフィム / Seraphim) ― 神への燃え立つ愛と炎を象徴する、最上位の天使。
- ② 智天使(ケルビム / Cherubim) ― 深い知恵と叡智を象徴し、神秘を守る天使。
- ③ 座天使(スローンズ / Thrones, オファニム / Ofanim) ― 神の玉座・意志の座を表す天使。
- ④ 主天使(ドミニオンズ / Dominions) ― 下位の天使たちを統治し、秩序を保つ役割を持つ。
- ⑤ 力天使(ヴァーチューズ / Virtues) ― 奇跡や勇気、高潔さを司る天使。
- ⑥ 能天使(パワーズ / Powers) ― 宇宙の法則や神の掟を実行に移す、力の天使。
- ⑦ 権天使(プリンシパリティーズ / Principalities) ― 国家や共同体を守護し、その在り方を見守る天使。
- ⑧ 大天使(アークエンジェルズ / Archangels) ― 神と人間のあいだで重要なメッセージを伝える代表的な天使。
- ⑨ 天使(エンジェルズ / Angels) ― 人間にもっとも近く、日常世界を守護するとされる天使。
三つのヒエラルキー(上位・中位・下位の三隊)
上位三隊 ― 「父」のヒエラルキー
神のすぐそばで神の栄光を讃える天使たちで、最も抽象的で崇高な存在とされます。
- 第一階級:熾天使(セラフィム) ― 神の玉座の上方に位置し、絶え間なく「聖なるかな」と賛美を捧げる存在。
- 第二階級:智天使(ケルビム) ― 神の知恵や真理の深みに通じ、楽園への道を守る守護者として描かれる。
- 第三階級:座天使(スローンズ/オファニム) ― 「神の玉座」「意志の座」を象徴し、燃え盛る車輪のような姿で表現されることが多い。
中位三隊 ― 「子」のヒエラルキー
世界の秩序や奇跡、神の摂理が正しく働くように調整する、いわば「運営側」の天使たちです。
- 第四階級:主天使(ドミニオンズ) ― 下位の天使たちの働きを統べ、神の意志が乱れないように統治する。
- 第五階級:力天使(ヴァーチューズ) ― 奇跡や勇気を司り、正しい者を力づける存在とされる。
- 第六階級:能天使(パワーズ) ― 神の掟を実行し、悪しき力から世界を守る「防衛線」のような役割を担う。
下位三隊 ― 「聖霊」のヒエラルキー
人間社会や歴史に直接関わり、個人や共同体を導いたり守ったりする、より身近な天使たちです。
- 第七階級:権天使(プリンシパリティーズ) ― 王や国家、都市など大きな共同体の守護者として描かれる。
- 第八階級:大天使(アークエンジェルズ) ― 重要な啓示や使命を伝える特別な使者。ミカエルやガブリエルなどが代表的。
- 第九階級:天使(エンジェルズ) ― 個々の人間に寄り添い、祈りや日常に関わる守護天使としてイメージされる。
九階級の天使 ― 個別の特徴
① 熾天使(セラフィム)
セラフィムは「燃える者」を意味し、神への愛と情熱によって全身が炎のように輝く天使です。
『イザヤ書』では、一体ごとに六枚の翼を持ち、二枚で顔を、二枚で足を覆い、残りの二枚で飛びながら「聖なるかな」と賛美している姿が描かれています。最も神に近い存在であり、天使の九階級の中で最高位に位置づけられます。
② 智天使(ケルビム)
ケルビムは知恵と洞察を象徴する天使で、旧約聖書ではエデンの園の入口を守る存在として登場します。
『エゼキエル書』では、四つの顔と四つの翼を持ち、その翼の下に人間の手のようなものがある、非常に象徴的で神秘的な姿として描かれています。神の秘密や深い叡智を守る存在とされ、第2位に位置づけられます。
③ 座天使(スローンズ/オファニム)
座天使は「玉座」や「車輪」を意味し、唯一神の玉座を支えたり、神の戦車を運ぶ者と考えられてきました。
しばしば炎と光に満ちた車輪の集合体として描かれ、「意思の支配者(Lords of Will)」とも呼ばれます。物質的な姿を持つ天使としては最上級であり、第3位の上級天使とされます。
④ 主天使(ドミニオンズ)
主天使は「統治」「支配」を意味する名を持ちます。神から託された威光と権威をもって、下級の天使たちの働きを調整する役目を担うとされます。
シンボルは笏(しゃく)で、統治者としてのイメージが強い階級です。ザドキエル(Zadkiel)やハシュマル(Hashmal)に率いられると伝えられることがあります。
⑤ 力天使(ヴァーチューズ)
力天使は「高潔」「美徳」を意味し、奇跡や癒やし、勇気といった「善き力」を象徴する天使です。
地上で起こる奇跡を通して人々を励まし、正しい行いをする人々の前で神の力を示す役割を持つとされます。伝承によっては、キリストが昇天する際に付き添ったのも力天使たちだと語られます。
⑥ 能天使(パワーズ)
能天使は、宇宙や歴史の中で「神の掟が正しく実行されるかどうか」を管理する階級とされます。
悪霊や堕天使との戦いにも関わり、神に背いた力を鎮めたり滅ぼしたりする役目を担うと考えられています。その厳しい役割ゆえに、この階級から堕天使が多く出たとも言われます。
⑦ 権天使(プリンシパリティーズ)
権天使は、国家や都市、民族といった大きな共同体の守護者として語られることが多い天使です。
指導者たちの行いを監視し、正義に基づいた決断へと導く役割を持つとされ、歴史の流れや国家の興亡にも関わる存在と捉えられてきました。
⑧ 大天使(アークエンジェルズ)
大天使は、二枚の翼を持つ人間に近い姿で描かれることが多く、神と人間のあいだをつなぐ「特別任務の使者」です。
ミカエルやガブリエルのように、終末や重要な啓示に登場する天使が代表的で、神の軍勢の指揮官、あるいはラッパを吹き鳴らす天使としても象徴されます。
⑨ 天使(エンジェルズ)
もっとも人間に近い階級で、いわゆる「守護天使」のイメージにあたる存在です。
日常の中で人を守ったり、良心の声として導いたりすると考えられ、個々の人間の運命や祈りに深く関わる存在として親しまれてきました。

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