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【伝奇・伝承】ちょっと怖い民話・昔話19選

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【伝奇・伝承】ちょっと怖い民話・昔話19選 地域にまつわる怖い話・伝説・伝承
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ちょっと怖い民話・昔話19選

地元の民話を収集したので紹介する
https://yutori7.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1268388375/

 

□ 1 □

 

昔々、岩手県盛岡市のあるところに、非常に仲の悪い嫁姑があった。
ある日、その嫁姑がどちらも同時に妊娠するという珍事が起こった。

嫁はともかく姑までお元気なこって、とみんな噂したらしいが、姑はともかく嫁の妊娠が気に入らない。
そんなわけで、この姑はあろうことかあるお寺のお地蔵様に「嫁が流産しますように」と毎日お参りし始めた。

このお地蔵様というのが愚直なほどに物分りがよかったらしく、果たして嫁は臨月に流産してしまった。
姑は喜び勇んで身重の体をものともせず、そのお地蔵様にお礼参りにきた。

「お地蔵様のおかげであの憎らしい嫁が流産しました。ありがとうございます」と手を合わせていると、
お地蔵様が突然、口を利いた。

「なぁ姑よ。自分の嫁、孫が流産したというのがそれほどに嬉しいか?」

姑がその問いに「大変嬉しく思います」と返すと、お地蔵様は「そうか」と一言だけ返答した。

すると、にわかに姑はその場で産気づいてしまった。
姑が艱難辛苦の果てに生んだやや子は、なんとただの石の人形になっていたそうな。

 

□ 2 □

 

昔、あるところに姉と妹がいた。
その母親が死んで父親は継母を貰ったが、案の定姉妹を疎んでいた。

あるとき父親が上方の御用で、何ヶ月か家を空けることになった。
そこで父親は姉妹を呼びつけて、

「父さん、用があって、ずうっと遠さ行ってくるがら、お前たちは、母さんの言うことを聞いておとなしく待ってるんだよ。
そしたらお土産買ってきてあげるから。何買って来たらえぇが?」

と聞くと、姉妹は大はしゃぎで
「竜宮の玉手箱がほしい」「広めの鏡がほしい」と口々に言った。
父親は「ようし、それなら買ってくるから、待ってろよ」といって家を出て行った。

継母はこれ幸いと、娘たちを始末する計画を練った。

昼間は継母は仕事に出ていないので、姉妹は二人で遊んでいることが多かった。
それを見た隣家のおばさんが不憫に思って、ある日赤飯を炊いて子供たちに振舞った。

それを聞いた継母は激怒し、「俺がお前たちに食事をさせないと言いふらして回ったんだろう」と折檻した。
「なんと言い触らして回ったんだ」と継母が問い詰めても、子供たちは

「俺だちは何も言わねぇ。ただ隣に来て赤飯を食えと言われだから食べに行っただけだ」と言い続けた。

 

次の日、継母は山に行って赤い毒の実を取ってきて、それを赤飯のように炊いた。
そして「今度は母さんが赤飯を炊いたから食べなさい」と言って子供たちに振舞った。

何も知らぬ子供たちはそれを皆食べてしまった。その隙に継母は外出し、子供たちはうんと苦しんだ。
継母が家に帰ってきたときには、子供たちは血反吐を吐き、紫色になって死んでしまっていた。

継母はそれをムシロにくるんで、裏の口から橋の下に下りていって、そこに穴を掘って娘たちを埋めてしまった。
隣近所の人たちには「どこさか遊びに行って、まだ帰らねぇ」と言っておいた。

ある日、父親が頼まれたお土産物を持って帰ってくると、娘たちがいない。
母親を問い詰めても「隣村に泊りがけで遊びに行って、まだ帰ってこねぇ」の一点張りであった。

父親は隣村なんて今まで行ったこともないし、付き合いのある人もいないので不審に思ったが、
何の証拠もないので、一人寝付けずに囲炉裏に火を焚いて娘たちの帰りを待っていた。

すると、深夜になって、裏の口から二羽の鶯(ウグイス)がチョロチョロと入ってきた。
(今時、鶯なんて出てくるとは、奇態なごともあるもんだ)と思っていると、鶯が鳴き始めた。

 

広めの鏡も欲しくないし

竜宮の玉手箱も欲しくないし

お父さんの顔見たい

ホーホケキョ

おかしな鳴き方をするもんだと思って見ていると、また同じように鶯が鳴く。
父親も気にかけて後を追っていくと、鶯は裏の口にある橋の下に降りていく。

父親が見てみると、橋の下が土盛りになっているではないか。
胸騒ぎを感じた父親が土を掘り返すと、変わり果てた娘たちが埋められていた。

あまりのことに父親は紫色になった娘たちを抱きしめ、いつまでもいつまでも泣いた。

しかし、泣いても泣いても娘たちが生き返るわけでもない。父親は継母を呼びつけて、厳しく問いただした。

すると、継母の顔が見る見る変形し、恐ろしく、人間ではないもののようになっていった。
継母は父親が見ている目の前で鬼になり、そのまま山の方に逃げていって、それきり行方が知れなくなったそうな。

 

 

□ 3 □

 

宮沢というところは昔、丈の低い柳が一面に生い茂る潅木地帯であったという。
昔俺の村では春、農作業をする前に野火入れと言って下草を焼くことが慣例となっていた。

その日も村の若いもんが宮沢に出て盛んに野火入れを行っていたが、夕日も沈みかけたとき、
薄明かりの中に突然として白い人影が踊った。若者はびっくりして「人がいるぞ!」と叫んだ。

見ると、六部(お遍路)の格好をした一人の男が、四方から押し寄せる火に狼狽していた。
この街道沿いの野原で、六部は野宿をしようかと野原に寝転んでいたのである。

六部は盲目であった。若者たちが騒ぎ立てる間にも、火は野原にどんどん広がってゆく。
六部は「この野郎共、俺が居ることを知っててわざと火をつけやがったな!」と大声で喚き散らした。

「何だと! 人聞きの悪いことをいいやがって! そんなに死にたいならお望みどおり殺してやる!」

六部の言葉に若者の一人が激怒し、あろうことか持っていた火を六部の四方から放ってしまった。

 

見る見るうちにあたりは炎に包まれた。六部は火に抗おうにも盲目なのでどうすることもできない。
そのうち方向もわからなくなり、ついには白装束にも飛び火し、六部は火達磨になった。

「熱い熱い! 焼き殺される!」と七転八倒する六部を見て、若者どもはいい気味だと大笑いに笑った。
思えばちょっとした感情の行き違いが若者たちを人殺しにしてしまったのである。

六部は見る間に焼けただれ、もだえ苦しみ、ついに地べたに倒れ伏した。
六部の顔は真っ黒に炭化していたが、突然六部はカッと目を見開き、若者たちを睨みつけた。

六部は盲だったので、その目は白く濁っていた。炭のようになった顔に白い目がぎょろりと光っていた。

「俺はここで殺される。何の咎もないのに殺される。努々忘れるな。これから七代に渡って、
お前たちの一族に盲を絶やさぬ。七代祟ってやるぞ!」

その怒号を最期に、六部は力尽きた。身に纏っていた白装束は完全に焼け爛れ、
全身の脂が焼けてブスブスと沸騰していたという。

その鬼気迫る死に顔を見て若者たちは今更のように怖くなり、一目散に家へと逃げ帰った。

その後、六部の宣言どおり、若者たちの子孫に目の悪いものが続出し、
ついには里が盲だらけになってしまった。

今はそれもなくなったので、きっとこの話は七代は昔の話なのだという。

 

□ 4 □

 

実際に起こった話

明治の初めの頃。天気の日であった

突然、落雷のような轟音が響き渡り、人々は驚いて家を飛び出した
上空には一本、棒のような白い雲が尾を曳いていたが、それ以外は何も変わることのない、ただの青空だった
大人たちが不思議がっていると、近くで遊んでいた子供たちが悲鳴を上げた

「あれあれ、ヤタザル(海馬を入れるザル)のような頭に二本の角がある化け物が飛んでくる!」

子供たちは恐慌状態に陥って大人たちの足にすがり付いて泣き始めたが、
大人たちには何も見えない。ただ青空に一本の雲があるだけである

と、突然その雲の先がするすると地上に降りてきたかと思うと、大人たちの頭上をかすめ、
村はずれの西畑というところに落下した。大人たちはまた驚き、急いで墜落地点に向かった

西畑の畑に、白煙と共にクレーターのような大穴がぽっかりと空いていた
しかし、やはりそれ以外はやはりなにもない、いつもどおりの畑であったという

ちなみにバアちゃんもこの件については家族に聞かされて知ってるらしい。ばあちゃんの話によると、
「昔、傘に尾のついたものが空を飛んでいった」らしい。ちなみに昼間のことだったという

 

 

□ 5 □

 

『遠野物語』に登場する霊峰・早池峰山の主は女神だが、実質取り仕切っているのは怪物だという
この怪物というのが面白い奴で、三面大黒という、一つ目一本足のデカい怪物なのだそうだ

昔、遠野周辺では金山が非常に賑わっていて、そこで産出された金は
奥州藤原氏の建てた中尊寺金色堂にも使われたという

北上山地はとにかく鉱物資源が豊富で、北上山地を越えれば日本有数の鉄鉱山である釜石鉱山もある
この釜石鉱山では餅鉄という非常に良質な鉄が採れ、日本初の反射炉による近代製鉄もここで行われた

で、このイッポンダタラという化け物だが、これは元々山師だったらしい

コイツが一つ目なのは、長年熱く焼けた鉄を見るうちに片目が潰れたからだという

コイツが一本足なのは、鉄に風を送るふいごを踏み続けて片足が腐ってしまったからだという

ちなみに、こいつは今も全国に居て、最近でも田んぼに残った足跡が発見されて話題になったりしてるらしい

 

三面大黒は頭のてっぺんに口があるそうで、我が町の伝説ではこれの正体は山姥だという

毎晩毎晩、ある寺の和尚が囲炉裏でモチを焼いてると、こいつが来て片っ端からモチを食ってしまう
そこで和尚が一計を案じて、白いゴマ石をモチのように囲炉裏で焼き、徳利には酒の代わりに油を入れておいた

んで、その日もこの「主」とやらが来て、ゴマ石をモチだと思って頭の口から食ってしまった
和尚がすかさず酒を薦めると、口の中で油が発火し、この化け物は悲鳴を上げて寺を飛び出していった

しかし、内臓を悉く焼かれたこの化け物も巣には帰りつけず、ついに道端で力尽きた

そのうち、天日に炙られてこの化け物の死体が腐敗し、物凄い異臭を放つようになった

で、ケガレを嫌う早池峰の主が洪水を起こしてこの化け物の死体を押し流してしまった
この洪水は麓の町をも綺麗さっぱり洗い流し、化け物の死体もバラバラになってどこかへ流れていった

この洪水の時、荒れ狂う泥水の中を、白いお髭の老人が流される家屋の上に泰然と座り、流されていったという
んで、後にこの白い髭の老人はここらの神様であろうといって、それ以来、
この町では北上川の洪水を白髭水と呼ぶようになったそうな

 

 

□ 6 □

 

昔、あるところに福の神と貧乏神がいた。
偶然道連れになった二人の神は、なんやかやと世間話をしながら往来を歩いていた。

とある家の前に来たときだった。福の神と福の神はお互いに「お前がこの家に入れ」と言い争いになった。

そのときだった。その家の母親が「お福、お福や」と娘の名前を呼んだ。
貧乏神は「ほら福の神。お前の名前を呼んでるではないか」とせせら笑った。

仕方ないので福の神がその家に入ろうとしたときだった。
そこの家の母親が突然怒鳴り声を上げた。

「なんだお前は! 人が仕事を言いつけているのに返事もしない。
立ち上がろうともしない。お前みたいな娘は貧乏神だ!」

それを聞いた福の神は「ほら、お前を呼んでるぞ」と笑った。
貧乏神は仕方なく、その家に居つくことにした。

せっかく福の神が入ろうとしていたのに、大きな声を出してしまったことで貧乏神が居つくことになった。
だから、家の中で大声を上げると貧乏神が寄り付くようになるそうな。

 

我が町の山深いところに蒼前神社というのがあるが、その神社はある川の淵の前に立てられている。

昔、この淵の傍で仲のよい兄弟たちが遊んでいたところ、突然淵から怪物の手が出て、
兄の方をあっという間に淵へと引きずりこんでしまった。

弟の方が泣きながら家に帰って両親にこのことを伝え、すぐに村人総出で兄の救出作戦が始まった。
しかし、農民だけではなんともしがたいので、すぐに隣町から川漁師を呼んで潜らせることになった。

逞しい川漁師が淵に潜ると、果たして川底に正座している兄を見つけた。
数度の挑戦の末に兄を漁師が引きずり上げると、兄の体は怪物に襲われたとは思われないほど綺麗な顔をしていた。
まさか生きてるのではないかと皆がざわついた瞬間、両親はわっと泣き崩れた。

兄の口には、体が浮かび上がらないようにと、川石がぎっちりと詰められていたのだという。

 

 

□ 7 □

 

この蒼前淵にまつわる別の話。

話我が山村で昔、盗みがあった。

あるとき、その家の家主が蔵に行ってみると、籾殻が床一面に散らばっていた。米泥棒である。
狭い山村のこと、すぐにどうかして犯人が捕まったが、その男は身寄りが一人もいない男であった。

盗人は「堪忍してけろ、堪忍してけろ」と涙を流しながら懇願するので、家主も男の身上を哀れんで、
「このことは許す。他言もしない。だからもう二度と盗みはするなよ」と盗人を許してやった。

しかしある日、このことがある男のところに知れてしまった。その男というのが非常に厄介な男で、
些細なことに難癖をつけては事を大きくしてしまうというので、村人からも恐れられていた。

この男は早速その盗人のところに行くと、まずは盗人をののしり、「盗人は死罪だ」と行って
必死に懇願する盗人を強引に家から連れ出してしまった。

盗みに入られた家主は「俺が許したのだから許してやれ。それに、あの男の家には身寄りがない。
あの男を死罪にしたら、あの家は断絶してしまうぞ」となだめすかしたのだが、この男はしつこいもので、
「お前、盗人を庇うのか。盗人を擁護する者も同罪だぞ」と騒がれれば、さすがの家主も引き下がるほかなかった。

 

男は盗人を蒼前淵の崖に立たせ、泣き叫ぶ盗人を後ろ手に縛ると、無理やり頭から袋を被せた。
ここに突き落とそうというのである。

そのときだった。今まで泣き叫ぶばかりだった盗人が不意に泣き止むと、袋を被せられた顔を
こちらにぐいと向け「おい」と低く怒鳴った。

「俺は何の関係もないお前にここで殺される。この恨みは忘れん。いいか、よく聞け。
お前の家に生まれる跡取りは20になる前に皆、殺してやる。努々それを忘れるな」

その声はすでに普段の盗人の声ではなかったという。男は「この盗人め! まだ口を利きやがるか!」と憤慨し、
盗人の背を蹴飛ばして蒼前淵に突き落とした。

盗人はそれでもなんとか顔を水面に出そうと必死の様子だったが、男は岸に泳ぎ着こうとする盗人を
持ってきた竹竿で押し戻し、「早く死ね! 早く死ね!」と罵った。

それでも盗人は、常人ならとっくに息絶えてもおかしくない時間の間、必死に抵抗したという。
男は怒り、傍にあった稲杭を引き抜くと、盗人に向かって投げつけた。

稲杭が盗人の肩に深く突き刺さると、蒼前淵は盗人の血で真っ赤に染まった。
盗人はそれでも岸に向かって泳ごうとしたが、ついに力尽き、蒼前淵の底へと沈んで見えなくなった。

それからというもの、男の家では謎の不幸が続出し、せっかく生まれた息子も20になる前に急死してしまった。
男の一族郎党の男子は20になる前に皆死に、その不幸は七代に渡って続いたそうだ。

 

 

□ 8 □

 

岩手県のある町のある山の中に、誰も奥まで入ったことがない洞窟があった。
この穴の壁面にはちょっとした壁画があり、大昔は蝦夷が生活していたのだろうという。

あるとき、ある猟師が「この洞窟の奥を確かめてやろう」と言って、お供の白犬を連れてこの洞窟へ入った。
なんてことはない洞窟だったが、暗闇を暫く歩くと急に辺りが開け、光が差し込んできた。

そこには、広い空間があったのだという。
猟師は、これが世に言うマヨイガの類ではないだろうかと考えたそうだが、その割には花一本咲いておらず、
何か綺麗な御殿や姫がいるわけでもなく、やけに殺風景だったという。

猟師が犬を連れて歩いてゆくと、小川が流れており、それを飛び越えると、
どこからともなく機織の音が聞こえてきた。

 

人がいるのか、と猟師が先を急ぐと、そこには粗末な機織小屋があった。
音は間違いなくそこから聞こえる。猟師がその機織小屋に入ると、一人の姫がこちらに背を向けて機を織っている。

猟師が声をかけようとすると、女がフッと笑うのが気配でわかった。
女が振り返った途端、猟師はたまげてしまった。

女の顔には、ひとつしか目がなかった。目がひとつであること以外は人間と変ったことはなかったそうだが、
遠目にも女の肌の毛穴まで確認できたというから強烈である。
猟師が絶句していると、女はその一つ目顔でニィ……と笑いかけてきたそうだ。

猟師はほうほうのていで洞窟から逃げ出し、そのことを周囲の人々に語った。
それからはその洞窟に入ろうと言い出すものはいなくなったという。

そのとき連れて行った白犬はあまりの恐怖に毛が赤くなってしまい、死ぬまで赤犬のままだったという。

 

 

□ 9 □

 

あるところに、父母と娘二人の家があった。
姉妹のうち妹の方は後妻の子供で、姉娘は当然の如く母親に苛められていた。

ある日、父親が畑から帰ってきたときだった。父親は鍬を畑に忘れてきたことに気がついた。
「おや、畑に鍬を忘れた。今からまた戻って取ってこよう」

それを聞いた心優しい姉娘は、「父さんは疲れたろうから私が取ってくる。父さんは休んでいてください」と言い、
畑に走っていった。

畑に行くと、確かに鍬はあったものの、その鍬の柄に三匹の鳩が止まっていた。
姉娘は「鳩も疲れて眠るところなんだ。ごめんね」と言い、どこかから止まり木を見つけてくると、
一匹ずつ鍬の柄から降ろし、その止まり木の方に止まらせてやると、鍬をかついで持って帰った。

鳩たちは姉娘の行いに感心し、「驚くほど優しい娘だ。何かお礼をしよう」と呟いた。

果たして姉娘が家に帰ると、後妻の母さんは驚いた。
「お前、その服はどうしたんだい」と訊かれて、姉娘も自分の身体を見て驚いた。
姉娘はいつの間にか立派な振袖を着ていたのだった。

「お前、人様のものを盗んできたのか」と問い詰める後妻の母親の言葉を、姉娘は必死に否定した。

「盗んでねぇ。私はこれこれこうしてきたんだ」と事の仔細を話すと、父親は
「それはお前の行いに鳩が感じて、礼をしたんだ」と言い、姉娘を褒めた。

 

後妻の母親は姉娘を恨めしく思って、父親に「明日も畑に鍬を忘れてきてくれ」と懇願した。
父親が言われたとおり鍬を忘れて帰ると、継母は妹娘に「ほら、鍬を取ってきなさい」と送り出した。

妹娘が畑に行くと、昨日と同じように、鳩が三匹、鍬の柄に止まっていた。
それを見た妹娘は「畜生の癖に人の鍬に止まって休むなんて!」と怒り、
そこにあった木の棒を振り回して鳩を追い立て、鍬を持って帰った。

三匹の鳩は「なんとも意地悪な娘だ。『畜生の癖に』と言ったところを見ると、
よっぽど畜生が好きらしい」と話し合った。

妹娘が帰ってくると、父母は大いに驚いた。帰ってきた娘の顔は、キツネそのものの顔になっていた。
尻尾まで生えてしまった妹娘は、そのうち本当のキツネになってしまい、どこにか逃げていってしまったという。

 

□ 10 □

 

昔、久四郎、乙之助という兄弟がいた。久四郎は漁師で、美しい妻がいた
やがてこの久四郎には一人の娘が生まれたが、娘が小さいときに夫の久四郎がポックリ死んでしまった
親類たちは協議の結果、久四郎の弟の乙之助が残された妻と娘を引き取ることを決定した

やがてこの新夫婦に女の子が生まれたが、乙之助と妻はこの妹ばかりかわいがり、
久四郎の娘は虐待するようになった。村人は「同じ腹から生まれた娘になんとむごいことを」と噂し合った

しかし、そのうちこの妻は胸を患うようになった。医者や薬の甲斐もなく、ただただ
「絞められる、絞められる、苦しや苦しや」と七転八倒し、ついには死んでしまった

悲しみに暮れた乙之助は、近所の川から黒い石を持ってきて、妻の戒名を彫って寺に葬った

 

しかし、妻が死んで翌年の盆に墓参りに行って、乙之助は仰天した
兄の久四郎の墓から何本もの藤蔓が這い出し、妻の墓をギリギリと締め上げていたのである

乙之助は兄の怨念に恐れおののき、とにもかくにもこの藤蔓を切ろうと、歯でこの蔓を噛み切った

その瞬間、この蔓から鮮血が噴き出し、ビチャ、と乙之助の顔にかかったのである
乙之助は悲鳴を上げ、服の袖で顔の鮮血を拭うと、家に逃げ帰った

しかし、それでもまだ兄の怒りは治まらなかったらしく、その日から乙之助の顔の鮮血を浴びた部分が
真っ赤に腫れ上がり、ギリギリと締め付けるような激痛を発し始めた

この腫れはやがてカサとなって肉を腐らせ、ついには妻と同じように胸まで締め付けられるようになった

今までの行いを見ていた村人は誰も乙之助には同情してくれず、ついに乙之助は死んでしまった

今でもこの寺には久四郎とその妻の墓が残っているが、いまだに妻の墓は藤蔓でぐるぐる巻きにされており、
すっかりとくびれて今にも上が崩れ落ちそうになっている

 

 

□ 11 □

 

昔、桑原と言うところに、市兵衛という雷が大に苦手な男がいた。
この男の雷嫌いは凄まじく外で働いていても雷が鳴るとすぐに家に逃げ込み、
押入れに隠れてしまっていたという。

ある日のこと。市兵衛が外に出ていると、突然雷が鳴り出した。
市兵衛は肝を潰して家に逃げ帰り、押入れの中に閉じこもって震えていたそうだ。

その日の雷はやけにしつこく、いつまで経ってもなかなか止まなかった。
そのときだった。ひときわ大きく雷が鳴り響き、市兵衛の家に落雷した。
市兵衛はあまりの恐ろしさに気絶してしまった。

ふと気がつくと、押入れの暗がりで何かが走り回っている。
ネズミか? と市兵衛が捕まえてみると、それはネコともネズミともつかぬ得体の知れない生き物だった。

「貴様、俺は雷で機嫌が悪いんだ。お前は何者だ?!」と市兵衛が大声を出すと、
その生き物は甲高い声で「俺は、雷様の息子だ」と言った。

 

市兵衛は驚いたが、同時に雷様の息子と聞いてますますイライラしてきた。
「雷の息子がここへ何しにきた?」と問うと、雷様の息子はぶるぶると震えた。

「俺は父親に言いつけられて太鼓を叩いていたが、調子に乗って太鼓を叩いているうちに
雲の切れ間から足を滑らせて落ちてきたのだ」

雷様の息子の説明を聞いて、市兵衛はますます腹が立った。

「貴様、人がこんなに雷が嫌いなのにわざわざ人の家に落雷させやがって。
お前をぶち殺して煮て食ってやる」と市兵衛が首を絞めると、雷様の息子は泣き出した。

「助けてくれ、もう雷は落とさないからどうか命だけは」と懇願するので、市兵衛も慈悲を取り戻し、
「ならば命だけは助けてやろう」と放免してやることにした。

「恩に切ります。ここはどこのなんというところですか」雷様の息子が聞くので、市兵衛は憮然として
「ここは桑原、俺は市兵衛というものだ」と言うと、雷様の息子は「桑原の市兵衛のところに二度と雷を落とさない」
と堅く約束して、空の上に帰ると言い出した。

「どうやって帰るんだ」と市兵衛が聞くと、雷様の息子はこの辺りで一番高い木のところに連れて行ってくれと言う。
市兵衛が家の周りで一番高い木の上につれてゆくと、雷様の息子はするするとその木を登り、見えなくなってしまった。

それから、雷を避けるときには「桑原、桑原」とか「市兵衛、市兵衛」と唱えると、雷はそこを避けるのだそうだ。

 

 

□ 12 □

 

島根県邑智軍矢上町原山というところの話

その地では毎年5月に、山の神が早乙女になって大石という家の田植えの手伝いに来たという。
ある年、田植え肴の刺身に山葵をすり込んで出したところ、山の神は一切の刺身を食べただけで、
あとは少しも食べなかった。

山の神は山葵は嫌いなので、翌年からもう手伝いに来なくなり、まもなく大石家は没落したという。

 

 

□ 13 □

 

その昔、山の神様が目玉を量産し、それまでめくらであった山の生き物たちに眼をあげることにした。

山の神が「明日の朝、みんなに目玉配るから、欲しい奴は並べ」というので、
それまで目がなくて苦労し通しだった山の生き物たちは喜び勇み、山の神の前にぞろぞろと列を成した。

しかし、どういうわけか目玉の数が足りず、残りはフクロウとミミズというところになって、
目玉が二つしかなくなった。本来なら一人に二つずつ、合計四個なければならない。

山の神様が「申し訳ないが、目玉が二つしかなくて一人一個しかやれないが、どうする?」と聞くと、
フクロウとミミズは残念がったそうだが「それでもいいです」と言って、一人一個ずつ目玉を貰った。

こうして、フクロウとミミズはなんとも不気味な一つ目の生き物になった。

 

しかし、小狡い性格だったフクロウは、なんとしても目玉が二つ欲しいものだと考えた。
そこで、山の神の下から帰る途中、ミミズに「ちょっと休んでいかないか」と声をかけ、ある木の下で休んだ。

もともと歩くのがあまり得意ではないミミズのこと、木陰に休んだ途端に疲れて寝てしまった。
フクロウはこれ幸いと、ミミズの顔についた目玉を取ると、自分の顔にくっつけた。

「あぁ、やっぱり目玉は二つあるに限る」とほくそ笑むと、フクロウはバサッと羽を羽ばたかせ、
ミミズの手が届かない空の上へと飛び立ってしまった。

 

驚いたのはミミズだ。暫く経って起きてみると、フクロウはおらず、しかもせっかく貰った目玉もなくなっている。
「あの野郎、俺を騙して目玉を盗んでいきやがった! 許せん!」と憤激した。

しかし、ミミズはいまや再びめくらになりフクロウがどこにいるかもわからず、おまけに空を飛ぶことも出来ない。
そこで、ミミズは休んでいた木の上にフクロウがとまっているものと当て込んで、木の根元に穴を掘り始めた。

「木の根元を掘ってこの大木を倒せば、あの腐れフクロウも面食らって落ちてくるに違いない。
待ってろ、今すぐ目玉を取り返してやるからな……」と呟きつつ、ミミズは木の根元へと深く潜っていった。

 

後日、フクロウが仲間の鳥の許へと行くと、仲間の鳥たちは驚いた。フクロウの顔に目玉が二つ、くっついていたのだ。

「お前、山の神様から目玉をひとつしかもらえなかったはずだが、そのもうひとつの目玉はどうしたんだ?」

ある鳥が聞いても、実は盗んだものですとは言えないので、フクロウは答えない。
鳥だけでなく周りにいた山の生き物たちも事情を察し、大いに怒った。

「お前は前々から狡い奴だとは思っていたが、まさかミミズから目玉泥棒をするとは。
お前のような盗人はお山から追放だ!」

口々に野次られ、なじられ、フクロウはすっかり居た堪れなくなって仲間の下から逃げ出してしまった。
もう顔を上げて日の下を歩くことも出来なくなり、人気が消えた夜の世界でしか自由に生きられなくなった。

こうして、ミミズは地中で、フクロウは夜の世界で生きるようになったそうな。

 

 

□ 14 □

 

村の近くに鬼が住むという洞窟があった。
その鬼は村にやってきては畑を荒らしたり、家畜や若い娘をさらっていくので村人は困っていた。

あるとき事情をしらない旅の男がその洞窟で雨宿りをしていた。
すると鬼が出てきて
「ここは俺の寝床だ、出て行かないと食ってしまうぞ」
と言う。
旅人は雨宿りさせてもらう代わりにもっていた笛を吹いてみせた。
その笛がたいそうきれいな音色だったので、鬼は聞き惚れて
「その笛をくれたら雨宿りさせてやろう」
と言った。
旅の男が笛を渡すととたんに雨はやみ、男はすぐに洞窟を出た。

鬼は笛を吹いてみたが、どうやってもあのきれいな音色が出ない。
息を吸ったり吐いたり様々試してみたがうまくいかなかった。
これは何か秘訣があるに違いない。
そう思った鬼は男を追いかけようと洞窟を出た。
しかし男が洞窟を出てからずいぶんたっているため、男を見つけることはできなかった。
それでも諦めきれない鬼は、男を探してあてどない旅を始めた。

こうして村に鬼が現れることはなくなり、村人は安心して暮らせるようになりましたとさ。
めでたしめでたし。

 

 

□ 15 □

 

毎年降誕会の辺りに北国海路に吹きすさぶ強い風をとうせん坊風と呼ぶが、
これは岩手県花巻地方にある高松寺に縁がある風だと(伝説上では)言われている。

昔、この寺に宗元という途轍もなくろくでなしの外道坊主がいた。
この坊主がある日、「我に大力を授け給え」と祈ると、霊験があったらしく、
口の中に玉が入るというまことに不思議な夢を見た。その日から、宗元は怪力を得てしまった。

仏様の願い通り、この力を怪力を世のため人のために使えばいいものを、
この宗元は性の悪い悪戯に使うようになり、ついには「鬼宗元」と言われて嫌われるようになった。

春、宗元が近くの町にある高水寺に花見に行くと、桜の老木が今を盛りと花をつけていた。
宗元はこれで悪戯してやろうと、怪力でこの巨木を捻じ曲げ、自分はその幹に腰を下ろし、
何食わぬ顔をして人々が集まってくるのを待った。

童や女がこの花を不思議に思って寄って来た瞬間、宗元がひょいと腰を上げると、
この桜の木は物凄い勢いで跳ね返り、それで何十人もの死人が出てしまった。

 

こんな悪事を働いてさすがにここにいられるわけがなく、宗元はこの地を逃げ出し、
能登の動石(いするぎ)山に隠れ、「とうせん坊」と名乗った

ところがここでも悪行を重ねまくった宗元は、この地からも逃げ出し、越前の三国の浦に逃れた
しかし、ここでも宗元の悪行は収まらず、それどころかますます外道っぷりを極めるようになってしまい、
この地の人々は非常に苦しめられた。

「もはやこの鬼を生かしてはおけぬ」と、この浦の人々は決意し、卯月の八日、花見だと偽って、
宗元をある断崖絶壁に呼び寄せた。

何も知らぬ宗元が策に嵌って泥酔し、足腰が立たなくなったところで、決死隊の若者四人が飛び出し、
自らを道連れにして宗元を崖下へと突き落とし、ついに討ち果たすことに成功した。

しかし、この宗元はどこまで外道なのか、死んでなお執念深く海の怪異となって生き続け、
時化を狂わせるようになり、今に恐れられるとうせん坊風となったのである。

しかし一番面白いのが、この宗元が突き落とされ、若者四人が死んだ断崖絶壁が、
自殺の名所と世に名高い福井県坂井市の東尋坊の絶壁だということである。

 

□ 16 □

 

昔あるところに、女と男が隣り合って住んでいた。

この女というのが今で言うストーカーで、毎日何かと用を作っては男の家に行っていた。
男はこの女のことが大嫌いだった。

ある日、相次ぐ女のストーカー行為に嫌気が差した男は夜逃げすることにした。
「夜逃げればもう会うこともないだろう」と思った男は、ある夜スタコラと逃げ出した。

男は後を追ってこれないよう、道なき山野を通って何日も逃げ回った。
何日逃げ回ったことだろう。男はちょっと休みたくなって、近くの山で休むことにした。

「あぁよかった。まさかここまでは追ってくるまい」と男が思ったそのときだった。
なんと隣の家の女が追ってくるのが男の目に見えた。

「捕まったらタダじゃすまないだろう」

男は血相変えて逃げ出し、ある山寺を発見した。
そこの寺でかくまってもらおうと、男はその山寺に飛び込んだ。

 

仔細を説明すると、よっぽど鬼気迫った男の雰囲気を感じ取ったのか、
そこの和尚さんも神妙な顔になり、男を寺に匿う事に決めた。

とは言っても、小さな山寺のこと。人一人を匿えるところなどそうあるものではない。
和尚がそこらを見渡すと、小さくはあったが形だけは立派な釣鐘が目に入った。

「おう、ちょうどいい。あの中に入って隠れておけ」と、和尚は外した釣鐘の中に男を隠し、自分は部屋に戻った。

ほどなくして若い女が山寺を訪ねてきて、「今ここに男が来ただろう。お前が匿っているのはわかっている。今のうちに男を出せ」
と脅しを掛けてきた。和尚はなるたけ冷静に振舞いつつ、「そんなに疑わしいなら随意に探してみるがいい」とつっぱねた。

女は襖や押入れを丹念に検め始めたが,
男は見つからない。
そのうち、女の顔が変形し、顔は真っ赤になり、目はギラギラと光り、見る見るうちに恐ろしい顔になった。

そのときだった。女は鐘撞堂の釣鐘が降ろしてあるのを目ざとく見つけた。
するとたちまち女の身体は大蛇になり、釣鐘に巻きつくと、ギシギシと締め付け始めた。

外で大変なことになっているとも知らず、和尚さんはしーんと静まり返った寺の中で息を殺していた。
しばらく経って、和尚さんは「物音もしなくなったし、女はもう帰ったに違いない」と立ち上がり、鐘撞堂に向かった。

さぁ大変。あの若い女が釣鐘に巻きつき、ギシギシと締め付けているのを見て、和尚さんは腰を抜かした。
和尚さんはあまりの恐怖に足腰が立たなくなり、ほうほうの体で自分の部屋に逃げ帰ると、ただただ震えていた。
大蛇はその日一日、釣鐘を抱いたまま動かなかったという。

 

次の日、和尚さんが震えながら外に出てみると、大蛇はいつの間にかいなくなっていた。
ほっと一安心した和尚さんが釣鐘から出してやろうと近づくと、釣鐘は触れないほどに熱く焼けていた。
和尚さんは血相変えて麓まで走り、村の人たちを呼んで釣鐘をどけてもらった。

すると、なんとひどいことだろう。若い男は釣鐘の中で蒸し焼きになって事切れていた。
若い女は男を慕う執念の余り大蛇に変身し、男を殺めてしまったのだった。

和尚さんは男を哀れに思い、村人を恃んで男を埋葬し、御霊を手厚く弔った。
しかし、あの日の恐ろしさをどうしても忘れることが出来なかった和尚さんは、
何とかしてこの悲劇を後世に伝えたいと考えた。

当時、子供たちの間では鞠つきが流行っており、和尚さんははっとひらめいた。

「そうだ。この悲劇を鞠つき唄として子供たちに記憶させよう」

それから和尚さんは鞠つきのための鞠つき唄を考え、その唄を子供たちに教えた。
子供たちはそんな悲劇を歌った唄とも知らずに、その唄をずっと後世まで語りついだ。

 

そのお寺――等照寺の和尚が遺したという唄は次のような唄である。

ストントお寺は 等照寺

釣鐘外して 身を隠し

サンゼンキューシで 蛇に負けた

イマンデショウ

イマンデショウ

 

 

□ 17 □

 

奈良時代
山のふもとの村に猟で生計立ててた若者がいた。
若者は母親と2人で暮らしてたんだが、母親がその日ちょっと具合悪かった。
で、「よーし今日は大物狩って母ちゃんに元気になってもらうかー」って感じで張り切って家を出たのよ。

若者が狩りに行く時に、いつもお供に連れてく犬がいて、その日ももちろん連れてった。
で、山の奥の方に入ってくと犬が何かを発見したみたいで、若者がそっちを見るとめっちゃ大きな鹿がいた。
若者は「こいつは上物だ、きっと母ちゃんも喜ぶぞ」って喜んで、鹿に気付かれないようにそっと近づいていった。

もうちょっとで鹿に飛び掛かれる…そしたら手元のナタで…ってところでいきなり足元にいた犬が狂ったように吠え出した。
当然鳴き声に驚いた鹿は逃げる、それを見て若者ブチ切れ。
「お前のせいで獲物に逃げられたじゃねーか!」と、持ってたナタで犬の首を切った、切られた勢いで宙を舞う犬の首。

「おー綺麗に跳んだなー」なんて思う若者。
でもよく考えてみると何かおかしい、いくら勢いよくてもそんな遠くまで首が跳ぶものなのか、しかも変な方向に向かって。
そんな事考えてると犬の首が落ちた茂道から何かが出てきた。
蛇だった、それもさっきの鹿なんか比べものにならんくらい巨大なやつがこっち睨んでる。
「あ、俺死んだ」って直感的に思った若者だけど、なんか大蛇の動きがおかしい、よく見ると首だけになった犬が蛇の喉元に噛みついてる。

それで、若者は睨まれた時に腰抜かして動けなかったんだけど
蛇は犬に噛まれて、のたうちまわって若者に対しては何もできない状態。
しばらくすると大蛇がドシーンって音立てて地面に倒れて動かなくなった、犬の首も蛇から外れて地面に落ちた。

若者は、自分を助けてくれようとした犬を、感情に任せて殺してしまった事を後悔して
犬の首と体を持ち帰ってきちんと供養した。

「この言い伝えからあの山は犬鳴山と呼ばれるんじゃよ」

 

 

□ 18 □

 

昔、揖斐川のほとりの被差別部落には川渡しがあって、船を待つ間、
部落民たちは江戸や難波の物価の話や、江戸であった打ち首の話をして盛り上がっていた。

で、ある日の黄昏時のこと。向こう岸から黒塗りの立派な籠が一丁と、
それを囲む侍衆が向こう岸から船で渡ってきたという。最初は遠目でわからなかったが、
よく見るとその籠は戸を閉めた上にサラシの布で巻かれ、それを十文字に縛り上げた異様なものだった。

只ならぬものを感じて、部落民たちは道の傍に平伏して通り過ぎるのを待つことにした。
しかし、その中に爺さんとばあさんがいて、ヒソヒソ話を始めた。

「あの家紋は彦根の井伊様の家紋じゃ。籠の中身はさしずめ打ち首になったというお殿様の体じゃろう」

しかし、生憎ばあさんは耳が遠かったので、何度も何度も聞き返す。さらに悪いことに爺さんは癇癪持ちであった。
そのうち、爺さんの癇癪がついに爆発し、「ありゃ井伊様の首なしじゃ!」とつい大声を上げてしまった。

 

そのとき、アシ原の影で立小便していた武士が、その声を拾ってしまった。
その武士の表情がさっと変わった。侍はずかずかと爺さんの前に出ると
「うぬ、不浄者の分際で!」と怒鳴り、刀を抜いて爺さんの頭を切りつけた。

爺さんの頭蓋骨が撥ね上げられ、爺さんの頭が欠けてしまったという。
婆さんや周りの者たちが庇う間もないほど一瞬の出来事だった。

この当時、この程度のことで人間を切り捨てるのはいくら侍といえどもご法度であったのだが、
しかしその侍はまだ腹の怒りが収まらなかったらしく、抜き身のまま近くの小屋から鶏をつかみ出してくると、
まだ生きている鶏の首を撥ね上げ、胴体からごくごくと生き血を飲んだという。

その様はさながら狼のようであった。その真っ赤な口で、あっけに取られる部落民たちに向かって、

「うぬら、雑言を為すとこの通りだぞ!」

と怒鳴り、首なしの鶏の死骸を地べたに叩き付けた。

部落民のこういうときの団結力はすさまじいものがある。皆は怒り心頭に発して爺さんの死骸を小屋へ運ぶと、
すぐさま村役人に訴え出たが、村役人は「エタの分際で! 口は禍の元じゃ!」と怒鳴って二度と口をきかなかった。

もう皆が異常であった話。

 

 

□ 19 □

 

鬼になった人の話

文政十二年(1829年)、6月8日のこと。遠野南部藩からの命令で、この町で山狩りが行われた
これは館野武石衛門という猟師がリーダーとなり、辺り一帯の村や町に住む武士や町人、
農民までもが駆り出された大規模なものであった

この山狩りの目的は鬼退治であった

昔、南部藩はいくつかの「小」南部藩に分かれており、遠野はその小南部藩の城下町として栄えていた
ここにとある武士(一説によるとこの武士は南部公の叔父にあたる人だったというから、
この人も南部の姓を持つ由緒正しき侍であったことには違いない)がいた

この武士はある日、何の故があったのかわからないが発狂してしまい、
刀を抜いては人に切りつけるようになった。藩主はこれに困り、彼に閉門を申し付けたが、
それを逃げ出して山中に逃げ込んだのだという

そして山から山を渡り歩くうちにいつしか完全に理性を失った彼は、時々思い出したように里に下りては
誰彼構わず人に斬りつける「鬼」になってしまったのだという
何しろ狂人であるからその行動は全く予想がつかず、人々はただただ恐怖に震えるしかなかった

 

その武士があるとき、確かな情報筋によって俺の町のとある山に逃げ込んだという情報が入った
この情報が遠野南部藩に上申された結果、南部公から彼の討ち取り命令が下った

その陣頭指揮を執るように南部公から直々に命令されたのが館野武石衛門だった

彼は村一番に名を轟かせた狩人で、豊かな体躯と豊富な経験、山の獣相手に培った胆力があった
武石衛門は火縄銃の達人でもあり、南部公から武士の位を賜ったほどの剛の者だった
しかし、今回の的は鬼だった。さすがの彼も、この名誉の仕事が成功するかは五分五分であった

彼は山狩りの直前、手に手に有り合わせの武器を持った山狩り要員に対し、檄を飛ばした

「皆様ご苦労であった。しっかり気をつけなくてはならない。もし刃向かってきたならば、
しっかりしなくては危ないぞ。いくら狂人と言えども武芸の達人であるから、逃がしてはならない。
俺は一発で仕留めるつもりだが、もし射損じると、お殿様に申し訳が立たぬ。皆もしっかり頼む」

この檄をしおに、いよいよ山狩りが始まった

 

山狩りが開始されてすぐ、件の武士が発見されたという情報が武石衛門の下に届いた
我が町の陣が沢というところに、畳石という巨石があったのだが、この上は名前の通り平らで、
その上で発見されたのだという。武石衛門は一同を引き連れ、この畳石に来た

畳石に近づくと、確かに石の上に人影があった。しかし、その姿は人間というにはあまりにも凄惨なものであった

狂人の髪は伸び放題になり、上等な着物は見る影もなくボロボロになって体に張り付いていた
髭もぼうぼうに伸び、目だけが爛々と光り輝いていた。彼は畳石の上で、どこから捕まえてきたのか、
蛇を捕まえてガリガリと噛り付いていた。その姿はまさに悪鬼そのものの姿であったという

皆が狂人侍の姿に恐れおののく中で、武石衛門は先頭を切って畳石に近づいていった
そして何とか火縄銃が届く距離まで近づいた武石衛門は、静かに火縄銃を構えると、引き金を絞った

「誰か! 無礼な!」

狂人侍が発したのはその一言だけだったという。武石衛門が放った銃弾は一発で侍に命中し、
侍は仰向けによろけると、そのまま倒れて動かなくなった

勝鬨の声を上げて狂人侍に近づくと、全員が絶句してしまった。見れば、この侍は天を衝くような大男で、
筋骨隆々の体はすでに人間の域のそれではなかったという。彼は山から山へ逃げるうちに、
いつしか完全に人間ではなくなっていてしまったのだろうと思われた

 

ともかく、この悪鬼を討ち取った武石衛門は、このことをすぐさま南部公に報告し、山狩りは終了した

この狂人侍はさすがに罪を重ねすぎていたためか、家中の墓に葬られるわけには行かなかったらしく、
農民たちの手によって、日陰というところの山の麓に手厚く葬られた
この侍の供養碑には『忠山了儀居士』と記された。正気を失った武士への、せめてもの手向けであった

後に、住民たちはこの侍のために念仏塔を拵え、この侍の冥福を祈願した
この念仏塔とは車仏というもので、卒塔婆に車輪がついたもので、
これをクルクル回して個人の速やかな輪廻転生を祈願するものである

人々は折々、この車仏の車輪を回して、侍の霊を手厚く弔った

この侍の霊は、現在も近隣住民によってお盆に供養されている
この侍の墓も残っているが、風雨で風化したのか、『忠山了儀居士』の文字を読み取ることはできないという

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