夜の海に浮かぶ、誰もいない船。
灯がともり、波間を進むのに、人の声はしない──。
古来より世界中で語られてきた「幽霊船」は、ただの怪談ではなく、海で起きた実際の事件や自然現象、そして人の恐怖と深く結びついています。
ここでは、日本各地に残る船幽霊の伝承から、世界で実際に記録された漂流船事件、さらには伝説として語られる“永遠にさまよう船”を紹介します。
実在の事件ベース幽霊船リスト
ここで紹介するのは、単なる伝説ではない。
実際に航海記録や新聞記事、調査報告に残された“現実の幽霊船”たちである。
彼らは確かに存在し、そして忽然と姿を消した。
海はすべてを飲み込み、真実だけを沈黙の底に隠したまま——。
出典:Wikipedia
メアリー・セレスト号(Mary Celeste)
年代/発見地: 1872年/大西洋
概要:
1872年12月、大西洋上で発見された商船。
船体には損傷がなく、積荷や食料、航海日誌も整然と残されていた。
しかし、船員たちの姿はどこにもない。
争った跡もなく、脱出した形跡も曖昧——まるで一瞬にして人間だけが消えたかのようだった。
調査団も原因を特定できず、今なお“世界三大海難ミステリー”のひとつとして語り継がれている。
出典:Encyclopædia Britannica/Wikipedia
オラン・メダン号(SS Ourang Medan)
年代/発見地: 1947年頃/マラッカ海峡
概要:
救難信号に記された最後の言葉は「全員死んだ」。
通信が途絶えた後、現場に到着した船が目にしたのは、凍りついた表情で倒れた乗組員たちだった。
苦悶のままに息絶えたその姿は、まるで恐怖そのものに殺されたようだったという。
発見直後、船は突如爆発・沈没し、調査は途絶える。
化学兵器実験説、超常現象説、都市伝説説——いずれも決定的証拠はない。
「マラッカの亡霊船」と呼ばれたこの事件は、今も海上史最大の謎とされている。
ジョイタ号(MV Joyita)
年代/発見地: 1955年/南太平洋
概要:
南太平洋で行方不明になった後、五週間後に漂流状態で発見された貨客船ジョイタ号。
船内には乗員25名の姿はなく、救命具・航海日誌も消失。
だが積荷はそのままで、機関も再起動可能な状態だった。
誰もいないのに生きているような船——。
その不気味な漂流劇は今も「太平洋のメアリー・セレスト」と呼ばれ、海難史に刻まれている。
出典:BBC Archives/NZ Maritime Museum
ベイチモ号(Baychimo)
年代/発見地: 1931年以降/カナダ北極圏
概要:
アラスカ沿岸で氷に閉じ込められ、乗組員に放棄された貨物船。
ところが翌春、その船が再び姿を現した。
以後、数十年にわたって漂流が報告され、北極圏を彷徨う“氷の亡霊船”として知られるようになる。
最後の目撃は1969年。
その後、ベイチモ号は完全に姿を消した。
無人のまま航海を続けた船の魂はいまも氷海をさまよっているのかもしれない。
SSバレンシア(SS Valencia)
年代/発見地: 1906年/カナダ西海岸
概要:
荒天の中で座礁・沈没し、100名以上の死者を出した客船バレンシア。
事故から半年後、洞窟内で8体の骸骨を乗せた救命ボートが発見される。
さらに数年後、夜の海にバレンシア号の残像が現れ、甲板には幽霊のような人影が並んでいたという。
その後も、暴風雨の夜に“亡霊船バレンシア”を見たという報告が相次ぎ、
海上保安庁も調査を行ったが、船影の正体は掴めなかった。
出典:University of Victoria Maritime Archives/Wikipedia
カズ II(Kaz II)
年代/発見地: 2007年/オーストラリア沖
概要:
三人の男性が乗船していた小型ヨット「カズ II」が、無人で漂流しているのを発見された。
テーブルにはまだ食事が残り、パソコンは起動したまま、エンジンも稼働中。
争った形跡も脱出した痕跡もない。
まるで時間が止まったような光景に、捜査官は言葉を失ったという。
21世紀のメアリー・セレストとも呼ばれたこの事件は、今なお“現代の海の怪談”として語られている。
出典:Reuters/BBC News/ABC News Australia
キャロル・A・ディーリング号(Carroll A. Deering)
年代/発見地: 1921年/北米沖
概要:
1921年、ノースカロライナ州ケープハッテラス付近で座礁している大型の五本マスト船が発見された。
船内には食料も航海日誌も残っていたが、船長も乗組員も忽然と姿を消していた。
通信装置は破壊され、舵は意図的に操作された形跡があり、密輸・反乱・海賊など、あらゆる説が飛び交った。
だが、いずれの説も証拠はつかめず、事件は「20世紀初頭の最大の海の謎」として今日まで残っている。
テレマ号(Teignmouth Electron)
年代/発見地: 1969年/大西洋
概要:
1968年、ドナルド・クローハーストは単独世界一周ヨットレースに挑んだ。
しかし翌年、彼のヨット「テレマ号」が無人で漂流しているのが発見される。
船内には航海日誌が残され、そこには航路の偽装、孤独、そして精神崩壊の過程が克明に記されていた。
「海と一体化する」「神と交信した」——最後の記述は現実の境界を越えていた。
船はその後も長く大西洋を漂い続け、「思考が溶けた船」と呼ばれるようになった。
SSウォータータウン(SS Watertown)
年代/発見地: 1924年/大西洋
概要:
航海中、二人の船員が事故で死亡し、海に葬られた。
だが、その翌日から、船の側を漂う海面に二人の顔が浮かび上がるという。
それは波が変わっても形を保ち、船が進むたびに追いかけてきた。
この不可解な現象は多くの乗組員によって目撃され、写真まで撮影されたという。
アメリカ海運会社が公式報告書を残しており、「最も記録に残る心霊航海事件」と呼ばれている。
SSコトパクシ号(SS Cotopaxi)
年代/発見地: 1925年/バミューダ海域
概要:
フロリダから出航した石炭運搬船コトパクシ号は、出航から二日後に消息を絶った。
通信も遭難信号も残されず、バミューダ・トライアングル伝説の象徴となる。
それからおよそ100年後の2020年、キューバ沖で沈没船が発見され、船体番号が一致。
“幻の船”が実在したことが判明したが、乗員の行方や遭難原因は今も不明のままだ。
オクタヴィウス号(Octavius)
起源・地域: グリーンランド西方(18世紀伝説)
概要:
1775年、捕鯨船ヘラルド号が氷山の近くで、一隻の三本マスト船を発見した。
船名は「オクタヴィウス」。船内に入ると、船長は机に日誌を開いたまま氷漬けになっており、乗員全員が同じように凍結していた。
最後の航海日誌の日付は1762年——つまり、15年間も北極海を漂っていたことになる。
現代では伝説とされるが、北極圏の無人漂流船目撃例は多く、実際の事件と混同された可能性も指摘されている。
高山丸(Takayama Maru)
起源・地域: 日本海(1953年)
概要:
1953年、日本海沿岸で発見された無人船「高山丸」。
船体は座礁し、機関は動作可能な状態だったが、乗員全員が姿を消していた。
記録には、出航後に突如通信が途絶え、漂流しているところを海上保安庁が確認したとある。
積荷も荒らされておらず、暴風や海賊の痕跡もない。
戦後の混乱期に起きたこの事件は、公式に「原因不明」と記録されており、今も海難史の闇に沈んでいる。
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