【不可思議なご依頼】
ある日、現役の僧侶である私のところへ一つの依頼がありました。
少し厄介な依頼そうだったので断ろうかと思ったのですが推薦者が
以前の同僚のDとの事で無下にもできずに相談にだけでも乗ることになりました。
出向いた依頼者の家ではじめての心霊体験をする事になりました。
身近じゃない人に聞いて欲しくて、でも書いて良いのか迷ってます。
九州在住の某宗派の現役の僧侶なんですが、
先日ちょっとビックリした事に遭遇して自分でも混乱してるんです。
需要があれば書こうかとも思ってますが・・・
因みに私の宗派では(思いっきりバレますが)いわゆる幽霊などはいない前提なので
周囲に気軽に話が出来ないのです。
で、私は福岡在住で、先日、ちょっと不思議なご依頼を受けて
某塙さんで有名な県に行きました。
用件は、はじめて電話を頂いたかたから、
最初は
「お墓を新しくしたから骨壺(骨)を移動させたいので来てほしい」
というものでした。
俗に言う墓石の「魂抜き」から「魂入れ」をしてほしいということでしたが、
当宗派ではそういうことは基本的にやってないので一旦お断りしました。
そうすると、相手様から
「それでも何か似た様な事が出来ればそれで良いし、とにかく来てほしい」
ということで何か必死な感じも受けたので、
「ご希望に添えない感じの内容になるやもしれません」
などと宗派の教えを曲げる訳にはいかないので何度かお断りしたのですが、
何度もお願いされて、しかも段々切迫して来たので心情的にも断り難くなって、
その時は日程を調整して折り返し連絡差し上げます。
という感じで返答しました。
相手の声は中年と思える感じの男性で、ひとづてに私を知ったということでした。
翌日、朝のお勤めをしている時間(恐らく一般的には可也早朝)に
そのかたから電話があり
「日時は決まったか?とにかく急いで来て欲しい」
的な事を何度も言われ正直、こんな時間に電話して来て非常識、
しかも何か複雑な事が隠されているんじゃないか?
何だか嫌な感じもするとも思いましたが、
そのかた(以後Tさんとします)の声が半分泣き声みたいになって来たので
前日の夜に確認した自分のスケジュールを複数日お伝えして、
ご都合をお伺いしました。
するとやっぱり一番最短の日時(翌日の午前中)を指定されましたので、
了解し、行く先の住所や経読に必要なや故人のお話をお聞きしようとすると
「こちらが迎えに行くのでその時に詳しく話します」
と言われ、ますます嫌な予感が強くなりました。
しかし、受けてしまったものはもうお断り出来ませんし、
何よりTさんはウチを知っていらっしゃるので反故にする様な事も
出来ない状況(何かあればそれはそれで厄介で恐い)になっていました。
もともと気が小さい部類なので翌日に備えてご本尊にいつもより長く深く
(こういうのも本当はいけないんですが)手を合わせて加えて、
念の為、他宗派の友人からもらった独鈷杵も持参する事にしました。
(仏教勉強会みたいなものがあり他宗派の事も少し勉強してますし友人もいます)
そして翌日のお約束9時より早くにTさんは御迎えに来て下さいました。
電話の印象とは随分違った、優しげな気の弱そうなかたに見えましたし、
最初のご挨拶も「この度はご迷惑を掛けて申し訳ありません」と
非常に丁寧で常識のあるものでした。
お迎えに来て頂いたのは電話を頂いたTさんとその奥様で
いたって普通な雰囲気、自動車も一般的なものでした。
県名だけは聞いていたので、何となくの時間を想定して
家族に行き先とTさんの電話番号を告げ出発しました。
「今日はお墓の移設の件でお呼び頂いたと思っていますが、ご家族様でしょうか?」
とお聞きすると
「いえ、私達には本当は関係ない人間なんです、ちょっと複雑なんで電話では
話せませんでした。周りにも聞こえたら良くないし」
とTさんの返答。その時、2つの考えが浮かびました。
真っ先に浮かんだのは「やばいやつ」で、
次に思ったのはいわゆる「水子」的なものでした。
すると奥様が「お坊さんのことはDさんから聞いたんです」と仰いました。
Dさんとは、昔、教育関連の仕事で一緒にお仕事をしたかたでした。
そうなら早く言ってくれたら事前にDさんに色々聞けたのにと思いましたが、
それよりも気になったのが「周りに聞こえたら良くないし」でした。
「そうなんですかぁ」とか相槌を打ちながらその言葉が気になって気になって、
既に少々ビビッていました。
「周り」って何?
会話の流れそのままで「家族」なら良いなぁとか思っていると、
「Dさんがですね、お坊さんなら優しいので引き受けてくれるって言ったんでね」
Tさんが話を始めました。
要約するとTさんご夫妻は某県に仕事と住宅購入で最近引っ越して来た。
(だからDさんを知っている)
新築したがそれまでに数年間ご夫婦で某県の色々な場所を下見して
今の場所に決めた。
山も海もあり水も空気も新鮮、食べ物も美味しい場所。
ご夫婦には子供がいないので残りの人生をゆっくり過ごす場所が欲しかった。
想定できる残りの年月で不自由しない仕事量と蓄えを計画もしてきた。
電話ではお墓と言ったが、実はお墓の様な物である。
勿論ここで「えええ?」と思い、思わず声が出そうでした。
なので「お墓みたいなものとは、どういうものでしょうか?」とお聞きしました。
普通の会話の流れだったところに凄い違和感のあるものが出て来ちゃったんで
私の声にも力が入ったのかもしれません。
そのせいなのか、Tさんよりも奥様が先に
「すいません、だますつもりとか、そんなんじゃなかったんです」
と慌てる口調で仰いました。
「いえそんな風には思ってませんから、大丈夫ですよ。
というかみたいなものって碑とか石の積み上げてあるものとか、
そういう感じのものでしょうか?」
と車内の重くなってる感じの空気感をビンビン感じながら質問を続けました。
Tさんは
「私たちもお墓みたいなとしかいえない(表現できない)んです、すいません」
と仰って「すいません」を何度か繰り返しました。
わー、もうダメかも・・・加持祈祷禁止されてるけどもっと勉強しとけば良かった
とか思っていると奥様が
「でもお坊さんならみたらわかると思うし、大丈夫だと思うんです」
と仰いましたが、私はこの時点で正直逃げ出したかったです。
そういう訳で車中は重い空気のまま目的地に進んで行ったのですが、
私が思っていた中心部付近でなく某県でも主要道から離れた
なかなか行くことのない地域に向かっていました。
車中の重い空気と違って晴れやかな外の風景は逆に怖さを煽る感じさえしました。
その間、Tさんに何個か質問をしました。
「私にお電話いただく前に地元の僧侶などには依頼されなかったのですか?」
Tさん「勿論、しましたけど・・・」
「しましたけど?」
Tさん「断られまして・・・隣の部落もだめで、隣の地域、隣の町まで探したけど駄目でした」
「あの・・・どういう理由で断られたんでしょうか?」
Tさん「色々です、お坊さんみたいに宗派が違うからというところもあれば、
檀家じゃないからといわれたところもありました」
奥さん「だからお坊さんが引き受けて下さって本当に感謝してるんです」
ん?何かはぐらかされてる??
「あの・・・そのお墓みたいなものを移設するのは移設するんでしょうか?
それともそこで経読みするだけで良いんでしょうか?」
Tさん「出来たら移して欲しいんです」
うわ・・・こりゃ相当やばいなぁ
現役の僧侶のくせに恥ずかしながらそんな事を考えてますますビビリました。
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