風を司る女神 一覧|日本と世界の神話に登場する美しい風の女神たち

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風を司る女神 一覧|日本と世界の神話に登場する美しい風の女神たち 神・仏
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風は、私たちの暮らしに寄り添いながら、季節の変化や自然の気配を静かに伝えてくれます。
世界の神話では、その風の動きを「女神」として捉え、美しい物語として語り継いできました。

ケルトのアオス・シ、ギリシアのアウラ、中国の封姨、日本の級長戸辺命など、風を象徴する存在は地域ごとに異なりますが、「風=変化と循環」という共通した感性を持っています。

ここでは、そんな風の女神たちの役割や象徴性を、神話ごとに整理して紹介します。

 

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風を司る女神たち

出典・参考:Wikipedia 風神

世界の神話には、微風・嵐・大気・門口の風・自然霊としての風など、さまざまな形で「風」を象徴する女神が登場します。ここでは、ケルト・ギリシア・ローマ・中国・メソポタミア・日本から、風と関わりのある代表的な女神をまとめて紹介します。

 

1. 級長戸辺命(Shinatobe no Mikoto)|日本神話の“風を司る女神”

級長戸辺命(しなとべのみこと/Shinatobe)は、日本神話における風の女神であり、
風神として知られる志那都比古神(シナツヒコ)と対になる存在とされる重要な神格です。

その名前には

  • 級(しな)=風の動き・しなやかな流れ
  • 戸辺(とべ)=飛ぶ・飛び立つ風
    といった語義が重なり、
    “流動する風・循環する風”を象徴する女神として古代から祀られてきました。

風は古神道における「気配」「兆し」「天候の変化」を示す存在であり、
級長戸辺命はその中でも穏やかな風・調和の風・祈雨祈晴の風を司る女神として信仰されます。

 

神話における起源(古事記・日本書紀)

『古事記』

イザナギ・イザナミの神産みにおいて誕生した神の一柱であり、
ここでは風の神として明確に位置づけられています。

『日本書紀』

神産みの第六の一書で、イザナミが朝霧を吹き払った息から生まれた神として描かれ、「級長戸辺命、またの名は級長津彦命」と表記されています。

この記述により、

  • 級長戸辺命(女神)
  • 級長津彦命(男神)

が同一神か、あるいは対となる男女神なのかという議論が生まれました。

 

男神シナツヒコとの関係

資料によって次のように扱われます:

  • シナツヒコの姉
  • シナツヒコの妻
  • 男女一対の風神(後に同一視された)

本居宣長『古事記伝』では、
「本来は男女一対の風神であり、時代の変遷の中で同一に扱われるようになった」
という賀茂真淵の説が紹介されています。

風は陰陽の両面を持つと考えられており、
男女対の風神信仰はその象徴とも言えます。

 

神社祭祀における級長戸辺命

風日祈宮(伊勢神宮 内宮 別宮)

級長戸辺命と級長津彦命が祀られる神社で、
元は「風神社」と呼ばれていました。

元寇(蒙古襲来)の際、
神風を吹かせたのが風神社の神とされ、
この功により「風日祈宮(かざひのみのみや)」という宮号が宣下されました。

風宮(伊勢神宮 外宮 別宮)

こちらも両神を祀る風の宮として知られます。

龍田大社(奈良県)

  • 天御柱命 → 志那都比古神(男神)
  • 国御柱命 → 志那都比売神(女神)=級長戸辺命に相当

とされる社伝があり、
ここでも男女一対の風神として信仰されています。

 

級長戸辺命の象徴・役割

  • 日本における数少ない明確な「風の女神」
  • 風の穏やかさ・調和・自然循環の象徴
  • 祈雨・祈晴の祭祀で重要視された神格
  • シナツヒコ(男神)との対神、あるいは同一視される場合もある
  • 霧・霞・風の流れを“清める力”と関連

風を“吉兆・祈りへの応え”としてとらえた古代日本において、
級長戸辺命は、温かな風・優しい風・清めの風の象徴として大切にされてきた女神です。

 

2. ニンリル(Ninlil)|メソポタミア神話の“南風を司る女神”

ニンリル(Ninlil)は、メソポタミア神話における風の女王(“Lady of the Wind”)として知られる女神で、
主神エンリルの正妻にあたる重要な神格です。
その名はしばしば「広野の女王」「風の女王」と訳され、
温暖な南風・季節風・大気の流れを象徴する存在として信仰されました。

別名として スド(Sud)、アッシリア語では ムリッス(Mulliltu) の名でも知られます。

 

神格と系譜

ニンリルの両親については文献によって異なります。

代表的な系譜は以下の通り:

  • 父:ハイア(収蔵・穀物管理の神)
  • 母:ヌンバルシェグヌ(またはニサバ)—大麦の女神

その他にも

  • アヌ(天空神)とアントゥ(キ)
  • アヌとナンム

の娘であるとする記述も存在し、地域と時代によって伝承が揺れ動いています。

七つの別名を持つ多面的な女神とされ、
ニントゥやニンフルサグに比定される場合もあるほど、広大な役割と象徴を持っています。

 

神話の中のニンリルとエンリル

若きニンリルとエンリルの出会い

ニンリルは母とともにディルムン(理想郷)で暮らしていました。
そこへ現れたエンリルによって彼女は妊娠し、
のちに月神 ナンナ(シン) を産むことになります。

冥界追放と“死後の風神化”

エンリルは罪により冥界へ追放され、
ニンリルも後を追うように冥界へ向かいます。
この旅の中で、エンリルはさまざまな姿に変化し、
彼女に次々と子を授けました。

  • 冥界の門番 → 死の神ネルガル
  • 人喰い河の男 → 冥界の神ニンアズ
  • 船頭 → 河川の神エンビルル

これらの子どもたちは、
長子シン(ナンナ)を“死の運命から逃がすための身代わり”とされています。

この神話は「生と死」「風と秩序」「運命の転換」を象徴する
メソポタミア神話の根幹テーマを強く表しています。

 

ニンリルはなぜ“風の女神”なのか

南風の女神としての記録

『アダパ』神話では“南風の女神”として言及され、
これは夫エンリルが“冬の北風”と結びつけられるのと対を成す存在です。

つまり、

  • エンリル=北風(寒冷の風)
  • ニンリル=南風(温暖な風)

という象徴的役割が成立しています。

メソポタミアの気候では南風は温暖と変化をもたらす重要な風で、
ニンリルは季節の移り変わりを告げる女神として信仰されていました。

「風の女王」としての信仰

南風は

  • 作物の成長
  • 季節の循環
  • 大気の流れ
    に関わるため、ニンリルは風の女王として広く祀られるようになりました。

 

リリトゥ(Lilītu)との関連とリリス伝説

ニンリルはアッカドの悪魔 リリトゥ(Lilītu) と関連付けられることがあります。
リリトゥは後に、ヘブライ文化における“リリス(Lilith)”の原型とされる存在です。

これは、

  • 風を操る女性的存在
  • 夜・風・変化と深く関わる
    という象徴構造の共通性によるもので、
    “風の女神ニンリル”が持つ多面性が後世の悪魔像へ変化していった例だと考えられます。

 

特徴(まとめ)

  • メソポタミア神話の風の女王(Lady of the Wind)
  • 温暖な南風・季節の風を司る
  • エンリルの正妻で、神話の中心に位置する女神
  • 冥界神話に深く関わる多面的な存在
  • リリトゥ=リリス伝説の源流とされる側面も持つ

南風を人格化したニンリルは、
“季節を告げる風”の象徴としてメソポタミア世界で広く敬われ、
自然の循環と風の霊力を体現する重要な女神です。

 

3. 封姨(Feng Yi)|中国神話の「風を司る女性神」──風婆・風娘娘としての慈しみと力

封姨(Feng Yi/风姨)は、中国の民間信仰における風を司る女性神で、
「風婆(風婆婆)」「風娘娘」「封夷」「封十八姨」など多くの名で呼ばれてきました。
その姿は時代と地域によって変化し、
穏やかな風を運ぶ女神として、また強風・嵐を支配する厳格な風神としても語られる多面的な神格です。

元来、中国の風神は男性・風伯(Feng Bo/風伯)として知られていましたが、
後世の伝承では性質が変わり、女性の風神「封姨」として信仰されるようになりました。

 

起源・神話的背景

最古の記録

『北堂書抄』引『太公金匱』には

「風伯名姨」
とあり、ここに“封姨(風姨)”の名が登場します。

当初は男性的な風伯の一側面でしたが、
後の民間信仰で女性神へ転化したと考えられています。

昆仑山の自然神祇の一柱

昆仑山を中心とする自然神体系では、雷伯などと並ぶ自然の力をつかさどる神として扱われ、四季の風・天候の変化を司る存在とされました。

 

風の女神としての役割・性格

穏やかな風と季節の調和をもたらす女神

  • 季節風を運ぶ
  • 農耕の天候を整える
  • 花の開花・自然の循環を助ける

花精(花の精霊)との関わりが強く、詩文では“花の運命を左右する風”として象徴的に使われています。

複数の姿・呼び名を持つ

地域・時代によって呼称が異なり、

  • 封姨(封夷)
  • 風婆婆
  • 風娘娘
  • 封十八姨

などの名で広く信仰されました。

風を司る強い力

唐代の『博異志』では、花精たちを困らせる強い風を吹かせる存在として登場し、
“自然現象としての風そのもの”を象徴する役割も担っています。

 

文学に登場する封姨

封姨は古典文学でも“風の比喩”として多用されました。

  • 宋・范成大「嘲風」
  • 清・納蘭性徳「満江紅」

など、多くの詩人が彼女を“風の化身”として描き、
季節の移ろいや風の情緒を表現する象徴として扱っています。

 

民間伝承:封姨と魚網の起源譚

中国の民話には、封姨が人々に魚を捕る技術(網漁)を伝えたという物語が残っています。

物語の要点

  1. 封姨は、人々が飢えに苦しむ姿を見て心を痛める
  2. 魚を捕れば民が助かると考えるが、龍王に「魚を捕るな」と禁じられる
  3. 封姨は反論し、龍王と“手を使わずに魚を捕る”という条件で折り合いをつける
  4. 蜘蛛の巣にヒントを得て「魚網」を発明
  5. 人々は魚を捕って飢えから解放される
  6. 龍王は怒るが、約束を破れず“龍王の目が大きくなった理由”などが神話的に説明される

この説話は、封姨の

  • 知恵深さ
  • 慈悲深さ
  • 自然を読み取る力
  • 風の神でありながら、生活に密着した守護者

といった性質をよく示しています。

 

封姨の象徴(まとめ)

  • 中国神話の女性風神
  • 風・季節・自然循環の調整役
  • 農耕や花の開花とも深く関わる
  • 地域により「風婆」「封夷」「十八姨」など多数の名称
  • 風伯(男性神)から転じた女性神格という独特の進化を持つ
  • 慈悲深く賢い風の守護者として民間に広く愛された

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