- 蛇蠱(じゃこ/へびこ)
日本でも知られた蠱毒系の呪術の一種で、蛇を用いて人に祟りや病を起こすとされたもの。四国などでは蛇蠱を扱う者を「へびもち」と呼び、憑き物筋として差別の対象ともなった。蛇そのものというより「蛇を使う呪い」として伝承される。 - ホヤウカムイ(ホヤウカムイ/ホヤウ)
アイヌ伝承に登場する蛇神で、名は「蛇の神」を意味する。強い毒性を持つ存在として恐れられ、人に憑いて病気や不幸をもたらすとされる一方、供犠と祈りによって鎮められる水辺の守護神的側面も持つ。 - 夜刀神(やつのかみ/やとのかみ)
『常陸国風土記』に登場する谷あいの蛇神。継体天皇の代に箭括麻多智がこの蛇神を追い払い、新田を開いたとされる。後に夜刀神社で角のあるマムシの姿のご神体として祀られ、祟りを恐れつつも田畑を守る神として信仰された。 - ヤマタノオロチ(八岐大蛇)
『古事記』『日本書紀』に登場する巨大な大蛇。ひとつの胴に八つの頭と八つの尾を持ち、出雲の斐伊川上流で毎年娘を食らう怪物として描かれる。素戔嗚尊によって退治され、その尾からは三種の神器の一つ「草薙剣」が現れたとされる。 - 大蛇丸(おろちまる/Orochimaru)
江戸時代の読本『自来也説話』『自来也豪傑譚』などに登場する、巨大な大蛇の妖術を操る悪役。カエル仙人・自来也、蛞蝓を従える綱手姫と「三すくみ」を成す存在として知られ、後世の創作でも蛇と結びついた魔人・忍者の名として用いられている。 - ツチノコ(槌の子)
日本各地に生息すると言い伝えられる未確認動物。胴が太く、柄のない槌を横倒しにしたような形のヘビとされ、跳ねたり転がったりするなど奇妙な動きをすると語られる。古書の「野槌蛇」などの記述と結び付けられ、現代でも目撃談や懸賞金で知られる。 - 蛟(みずち)
日本の神話・伝説で、水に関わる竜類または蛇類・水神とみなされる存在。『日本書紀』仁徳天皇紀には、岡山県の高梁川に潜んで人々を害した有毒の大虬(みずち)を、県守(あがたもり)が退治した話が記されている。 - 蛇帯(じゃたい)
鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』に描かれる帯の妖怪。帯がとぐろを巻くように伸び、蛇のような意匠で表現されており、中国の博物志に見られる「敷いた帯が蛇となる」という説話を下敷きにしたものとされる。 - 蛇骨婆(じゃこつばばあ)
鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』に登場する妖怪で、別名「蛇五婆(じゃごばあ)」とも書かれる。石燕の画では、蛇と縁のある老婆として描かれ、後世の妖怪解説では蛇の巣や蛇の骨と結びついた存在として語られている。 - 蛇女房(へびにょうぼう)
日本各地に伝わる異類婚姻譚の一型で、「実は妻の正体が蛇(大蛇)だった」という昔話群の総称。夫が「正体を見てはならない」という禁を破ったことで、妻が蛇の姿を現し、子を残して去る・寺の鐘の由来になるなどの結末を迎える話型として整理されている。 - 三井寺の蛇女房(みいでらのへびにょうぼう)
滋賀県大津市・園城寺(三井寺)に伝わる蛇女房伝説。貧しい男の家に現れた娘が妻となるが、のちに湖に棲む蛇であったことが判明し、寺の鐘「三井の晩鐘」の由来と結びつけて語られる。盲目の蛇が、昼夜を知らせるために鐘を撞くよう頼んだという伝承も残る。 - サンジャクゴロシ(三尺殺し)
山梨県北杜市・南アルプス山中に伝わる蛇の妖怪。緑色で長さおよそ30センチ、薩摩芋ほどの太さを持ち、木から木へ跳ぶという。それに噛まれると「三尺(約90センチ)も歩けずに死ぬ」といわれることから、この名が付いた。 - 蛇王権現(じゃおうごんげん)
日本各地で祀られる蛇神・龍神信仰の一形態。蛇(あるいは龍)を神格化した権現として社寺に祀り、水源や川の守護神、五穀豊穣・商売繁盛・財運の神として信仰される。鳥取県鹿野の「雨の日の蛇王権現の祭日」伝承や、岐阜県大垣市金生山神社などの例が知られる。 - 帝釈池の大蛇(鹿児島県・帝釈池伝説)
鹿児島県曽於市財部町の帝釈池に棲んでいたとされる大蛇の伝説。池の周囲は大木が茂る薄暗い場所で、大蛇が住むと語られた。のちに大蛇は追い払われ、高之峯山頂付近の巨石が「蛇王権現」として祀られ、帝釈池の大蛇伝説を今に伝える場となっている。 - 三輪山・大神神社の白蛇(巳の神)
奈良県桜井市・大神神社では、主祭神・大物主大神の化身として白蛇が信仰されている。境内の御神木「巳の神杉」には白蛇が棲むとされ、好物の卵がお供えされる。『日本書紀』にある大物主が小蛇となって百襲姫のもとに通った説話と結びつき、福徳をもたらす巳の神として篤く崇敬されている。
縁起の良い「蛇・蛇神」
蛇は、日本ではただ恐れられる存在ではなく、富や豊穣をもたらす縁起物としても深く信仰されてきました。その象徴的な例が、宇賀神と弁財天(宇賀弁財天)です。
宇賀神 と 弁財天(=宇賀弁財天)
- 宇賀神は、人頭蛇身の姿で表される日本独自の蛇神。穀物や食物、財の恵みをもたらす「生活を豊かにする神」として古くから崇められてきました。
- 中世以降、宇賀神は水と財の女神である弁財天と結びつき、宇賀弁財天として全国へ広まりました。弁財天の福徳や芸能の力と、宇賀神の蛇神信仰が合わさり、「財運・商売繁盛・豊穣」を象徴する強い信仰を生み出しました。
- 白蛇は宇賀神や弁財天の化身・使いとされ、 「金運」「商売繁盛」「財運上昇」「良縁」「再生」 の象徴として今も多くの神社で大切に祀られています。
弁財天はもともと、インド神話のサラスヴァティーを起源とする「芸能・音楽・学問・智慧の女神」です。水と深く結びつく女神であったことから、日本では水の恵みを司る蛇神・龍神との信仰と融合し、やがて宇賀神と習合した「宇賀弁財天」の姿へと発展しました。こうして、芸能や学問を守護する力に加え、財運・商売繁盛・豊穣といったご利益が強く意識されるようになりました。
🌊 蛇/龍・水神としての「蛇神信仰」の背景 — 蛇は福と守護の象徴
- 日本では古くから、蛇は水・泉・川・沼と深く結びつく存在と見なされてきました。水は農耕に欠かせない大切な恵みであるため、蛇は「水の守護者」「豊穣の神」として信仰されました。
- また、蛇が何度も脱皮することから、「再生」「若返り」「新たな始まり」を象徴する存在としても捉えられています。この象徴性が、蛇を敬い、感謝し、祀る文化を支えてきました。
蛇は“怖い存在”を超えて、幸運と豊かさの象徴
蛇は怪異として恐れられる一方で、 豊穣・金運・再生・守護といったポジティブな象徴を持つ、非常に奥深い存在です。
宇賀神や弁財天に代表される蛇神信仰は、古来より暮らしを豊かにし、生命を守る神として大切にされてきました。
日本の蛇の物語に触れることで、 “恐れ”と“恩恵”という二つの側面が共存してきた文化の奥深さを理解でき、 蛇という存在がいかに日本人の精神文化に根付いているかが見えてきます。
日本の蛇伝承は「恐怖」と「福」をあわせ持つ奥深い文化
日本の蛇伝承は、恐ろしい怪異と、豊穣や金運をもたらす神の両面を持っています。
大蛇伝説は自然災害への畏れを、白蛇信仰は水や富への感謝を映し、どちらも人々の生活と深く結びついてきました。
今回まとめた蛇の怪異と縁起の蛇の一覧を読むことで、単なる怖い話ではなく、
蛇が日本の文化・信仰・物語の中でどれほど重要な存在だったかが実感できるでしょう。
もし創作に使うなら、蛇は“敵”にも“守護者”にも変わります。
もしスピリチュアルに関心があるなら、白蛇は古くから“再生と福”の象徴です。
あなたが求める「蛇の姿」が、この一覧の中からきっと見つかりますように。
FAQ よくある質問
日本の伝承に登場する蛇の怪異にはどんなものがありますか?
日本の伝承には、ミズチ・夜刀神・蛇女房・蛇帯・野槌など多くの蛇の怪異が登場します。水害の象徴として恐れられた存在から、人を惑わす妖怪まで幅広いタイプがあり、地方ごとに独自の物語が残っています。
縁起が良いとされる蛇にはどんな種類がありますか?
白蛇や宇賀神、弁財天と結びついた蛇神が代表的です。金運、財運、商売繁盛、豊穣などの象徴とされ、神社では白蛇を祀る例も多く見られます。

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