古事記・日本書紀に登場する神話の武器・防具・道具や日本の伝説に登場する武器・防具・道具を一覧で紹介しています。
日本神話や古代の伝承には、神々が世界を創り、悪を討ち、秩序を守るために振るった数多の武具が登場します。
天を裂く剣、闇を祓う槍、心を護る鎧──それらは単なる武器や防具ではなく、神の意志と祈りの象徴でした。
人がまだ神々と語り合っていた時代、
剣は言葉の代わりに真実を示し、
盾は恐れの代わりに信仰を宿していました。
日本の神話と伝説は、その物語の中で数々の武器、防具、道具が登場します。「天逆鉾」、「天之尾羽張」、「天之瓊矛」、「天叢雲剣」など、これらのアイテムは、神々や英雄の力を象徴し、物語の進行に大きな役割を果たします。ここでは、日本神話と伝説に登場する主要な武器、防具、道具を一覧で紹介します。
神話の武器・防具 一覧
ここで紹介する刀剣や武具の逸話は、神話・伝説・物語の中で語り継がれてきたものです。
歴史的事実とは異なる可能性がありますが、日本文化に息づく“物語の力”としてお楽しみください。
神話の武器 ― 神々が振るった力の象徴
古代の神々や英雄が手にしたと伝わる霊剣・神槍・魔除の弓など、神話の中で「力」と「意志」を象徴する神器。
その一振りは戦いの道具ではなく、秩序をもたらす“神意の化身”として語られる。
日本神話をはじめ、各地の伝承には世界を創り、闇を断ち、悪を祓う数多の神剣が登場する。
天逆鉾(あめのさかほこ/あまのさかほこ)
伊邪那岐命と伊邪那美命が、混沌の海をかき混ぜて「オノゴロ島」を生んだと伝わる創世の矛。 『古事記』では天沼矛とされ、中世には「金剛宝杵」「天魔反戈」としても語られた。 宮崎県・高千穂峰の頂に突き立つ鉾は、その象徴とされ、今も天孫降臨の地を見守る。
天之尾羽張(あめのおはばり/あまのおはばり)
伊邪那岐命が火の神・軻遇突智を斬った神剣。 『古事記』では神格を帯び「天之尾羽張神」として現れ、別名伊都之尾羽張。 天地創造の血を浴びたこの剣は、死と再生を象徴する“黄泉の扉”の鍵とされた。
神戸剣(かむどのつるぎ)
阿治志貴高日子根神が、友・天若日子の死を悼み、その喪屋を斬り倒したと伝わる哀しき剣。 神々の情念と再生の祈りを映す“神代の悲剣”として語り継がれている。
天之瓊矛(あめのぬぼこ)
伊邪那岐命と伊邪那美命が高天原の橋上から海をかき混ぜ、オノゴロ島を創った矛。 『古事記』では天沼矛、『日本書紀』では天之瓊矛や天瓊戈と記される。 天地開闢を象徴する“創造の槍”であり、命の始まりを示す神器である。
茅纒之矟(ちまきのほこ)
天照大神が岩戸に籠もったとき、天宇受賣命が千草を巻きつけて舞った神矛。 「茅を纒う矛」は生命力と浄化を象徴し、光を呼び戻した“祈りの神器”として神話に残る。
天之麻迦古弓(あまのまかこゆみ)と天羽々矢(あめのはばや)
天稚彦が高皇産霊神から賜った神弓と神矢。 雉の鳴女を射抜き、矢は天へと昇り高天原に届いたという。 天と地を繋ぐ象徴であり、神々の意志を示す“一閃の光”と伝えられる。
生弓矢(いくゆみや)
大国主神がスサノオから授かった霊弓霊矢。 これと「生大刀」で八十神を討ち、葦原中国を平定した。 奈良・美具久留御魂神社に伝わり、“再生の力”を宿す神宝とされる。
金の弓箭(きんのきゅうせん)
誓約によりキサガイヒメが授けた黄金の弓矢。 その矢が穿った洞窟は、島根県・加賀の潜戸として今も残る。 “誓いの光”として信仰を集める聖なる神器。
幸弓・幸矢(さつゆみ・さつや)
彦火火出見尊が海神の宮で授かった霊弓霊矢。 潮の神の加護を宿し、災いを祓い幸福を呼ぶ。 矢音は潮騒のように、世界へ“さち”を告げると伝えられる。
天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)
須佐之男命が八岐大蛇を斬り、その尾から得た神剣。 のちに草原の火を薙ぎ払ったことから草薙剣と呼ばれる。 三種の神器の一つとして熱田神宮に祀られ、天と地を結ぶ“神威の象徴”である。
天羽々斬(あめのはばきり)
須佐之男命(スサノオ)が八岐大蛇を討った際の神剣。 その切れ味の凄まじさから「天羽々斬」と呼ばれ、十握剣(とつかのつるぎ)の一つに数えられる。 大蛇の尾を断った際に刃が欠け、そこから現れたのが天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)であった。 神の怒りと浄化を象徴するこの剣は、混沌を裂き、秩序をもたらす“神界の刃”とされる。
生大刀(いくたち)
大国主神(おおくにぬしのかみ)が父・須佐之男から授かった神剣。 兄弟の八十神を討ち、葦原中国を平定したと伝わる。 「生(いく)」は“生命”を意味し、死と再生の循環を司る霊力を宿す。 奈良・美具久留御魂神社に奉納され、滅ぼすではなく“命を護る剣”として伝わる。
伊都之尾羽張(いつのおはばり)
伊邪那岐命が火の神・軻遇突智を斬った十束剣の一つ。 『古事記』では天之尾羽張と同一視され、血を浴びたその刃から新たな神々が生まれたという。 破壊の中に創造を宿す、“神々の連鎖を生んだ刃”と伝えられる。
大量(おおはかり)
阿治志貴高日子根神(あぢすきたかひこね)が友・天若日子の葬儀で誤って死者とされた際、怒りに任せて喪屋を斬り倒した剣。 その剣を大量といい、神の悲哀と孤独を映す“情念の剣”として伝わる。
十束剣(とつかのつるぎ)
拳十個分の長さを持つとされる神剣。 伊邪那岐がカグツチを斬り、須佐之男が八岐大蛇を討つ際にも登場する。 特定の一振りではなく、“神が地上に干渉する象徴”とされる。 秩序と混沌の境を断ち切る“概念の剣”として、時代を超えて語り継がれる。
布都御魂(ふつのみたま)
建御雷神(たけみかづち)の神剣で、神武東征の際に授けられた霊剣。 神武天皇が佩びて乱世を鎮め、大和を平定したと伝わる。 現在は奈良・石上神宮に祀られ、「布都御魂大神」として信仰を集める。 「布都」とは“断ち切る”の意であり、邪を祓う神意の象徴である。
八握剣(やつかのつるぎ)
『先代旧事本紀』に記される十種神宝の一つ。 「八握」とは八手で握るほどの長さを表し、天地を貫く力を象徴する。 天孫降臨の際、天照大神の命で地上にもたらされ、“再生と光明”の神剣とされた。
鉄輪(かなわ)
諏訪の洩矢神(もれやのかみ)が建御名方神(たけみなかた)と戦った際に用いた武器。 しかし、建御名方神の藤蔓により打ち砕かれたという。 鉄と蔓、剛と柔――その対比は自然の調和と神々の摂理を象徴する。 信濃の地に今も息づく風土神信仰の源とされる。
倶利伽羅剣(くりからけん)
不動明王が右手に握る炎の剣。 刃に絡みつく倶利伽羅竜王が煩悩を焼き尽くし、無明を断ち切る。 三毒(貪・瞋・痴)を破る智慧の象徴であり、人の心の闇を祓う“悟りの剣”として信仰される。
防具 ― 神々を護る鎧と楯
鎧、楯、兜、鞆など、神々や武将を守護したと伝わる霊具。
それらは“身を護る”と同時に“魂を清める”神聖な器でもあり、信仰と美の象徴として受け継がれてきた。
神話の防具は、“神の力を身にまとう儀式具”である。
天磐靫(あめのいわゆぎ)
天孫降臨の際、アメノオシヒが背負った石製の箙(えびら)。 神の矢を収める霊具であり、“天と地を結ぶ武神の証”とされる。

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