『測量のバイト』|【狂気】人間の本当にあった怖い話

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『測量のバイト』|【狂気】人間の本当にあった怖い話 人間の怖い話
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測量のバイト

 

出張で他県の山の中に行かされたことがあった。
そこは山を切り開いて高速道路が作られる予定で、そのため地権者から買収する土地の境界線の確認をするというのが仕事内容だった。
作業場所は人里から車で10分くらい山へ入ったところで、結構範囲が広く社員バイト合わせて6人であたった。
現地に着いたのは昼過ぎだった。
最初に地図を観ながら大体の分担を決め、夕方また落ち合うことにして別れたんだが、その際一つだけ注意事項があった。
地権者の中に一人だけ開発に強硬に反対してる奴がいるらしく、時々見張りにやってくるらしい。
その際自分の土地に入り込んでる者を見つけると不法侵入だと言って捕まえるのだそうで、先月にも別の業者が捕まり半日拘束されたとのこと。
地図にはその人の土地が赤く囲ってあり、監視カメラがあちこちの茂みに設置されているから絶対に境界線を超えるなと厳命された。
そして作業スタートとなり、俺はおっかないなと思いつつ早速地図を片手に土地の境界を示すテープや木片を探し始めた。山と言っても現場はそれほど鬱蒼とはしておらず、平らな場所が多かったのであまり苦労せず作業を進められた。もちろん人気はなかったが、他のメンバーの姿が視界に入っていたから心細くもなかった。
そうして3時間くらい黙々と作業を続けた後、不意に腹が鳴った。意外に大きな音で俺は思わず顔を上げて辺りを見回した。
見渡す限り誰もいなかった。それぞれ奥へ進んで行ったのだろう。そして尚も作業を続け、やがて日が暮れてきて集合する時刻になった。
俺は地図を見ながら駐車場所まで戻り始めたが、途中で道に迷ってしまった。迷子になるような所はなかったはずなのに。
大声を上げようかとも思ったが、何となく気が引けて無言で歩くのみだった。周囲を見て何となく開けた方、車道の方と判断した方向にひたすら歩いた。
随分長い時間が経ったように思えた頃(実質10分くらいだったけど)、目の前に突然竹藪が現れた。
周囲は全部木と木との間が開いた林なのにそこだけ木が密集していてそれは何となく奇妙な景色だった。
竹藪の中はとても通れそうにないのでぐるりと迂回して反対側に向かった。竹藪を半分くらい回り込んだ時、不意に強い違和感を覚えた。視界の隅、竹藪の中に何かおかしなものが映ったのだ。俺は思わず足を停め竹藪を見入った。
そこに人がいた。
竹藪の中、足の踏み場もないほど竹が生い茂っているはずのその中に、人の形をした影があったのだ。
次の瞬間背筋に怖気が走った。見てはいけないものを見たと強く感じた。
しかし目を逸らせなかった。足が竦んで動くことも出来なかった。
俺が凝視していると、人影は次第にはっきりとした形をとって見え始めた。それはこちらに側面を晒している全身黒ずくめの男だった。
顔まで黒く塗っているようだった。目だけが白く大きく見える。そして腰掛けられるようなものは何もないはずなのに座っているような姿勢をしていた。
手にはこれまた黒く細長いものを持っている。少し反っているようだ。
男はそのまま微動だにせず、どこか一点を見つめている。
こちらには見向きもしない。
気付かれてないのか?
そう思うと余計動けなくなった。男は瞬きもせずただどこかを凝視している。視線を追ってみたがただ林が続いているだけだった。
どれくらいの間そのままだったろうか。
いつしか足が尋常じゃなく震え出しこのままではその場にくずれてしまうのも時間の問題だった。
全身から汗が流れ何故か目からも涙が溢れてきた。このままじゃダメだ。何がダメかも判らないまま絶望的な気分になった。
いきなり背後から声がした。
「○○くーん!」
自分を呼んでいる!その瞬間俺は声の方へ駆け出していた。全速力で走った。躓いたら間違いなく足を捻っていただろうが構わなかった。
ほどなく社員の一人と遭遇し、無事車まで戻ることができた。
俺の普通じゃない様子を見て皆驚いたがただ道に迷ったとしか言わなかった。どうせ信じて貰えないだろうと思ったからだった。
帰りの車の中で、社員が俺がどこで迷ったのかを地図で確認しようとして、俺も記憶を辿りながら地図上の道をなぞった。
てっきり特徴的な竹藪が目印になるかと思ったのに誰もそんなものは見かけなかったと言う。俺は首を傾げながら地図を睨んでいた。
地形は無視して道だけを見ていたら、やがてぐるりと曲線を描いているところが見つかった。
ここだ!
俺はその辺りを指で押さえた。それを見た社員が声を挙げた。
「そんなとこまで行ったの?ギリギリじゃない」
その言葉を聞いてハッとした。その道の先で複数の土地の境界線が交わっており、その中に例の反対者の土地も入っていたのだ。
それが判った瞬間、あの時の怖気が再び背筋を這い上がった。そして不意に気付いた。男が俺に気づかなかったはずはないのだ。
だって男の存在に気づく前は普通に雑草を掻き分け音を立てて歩いていたのだから。静かな山の中であの距離で聞こえないはずがない。
男はこちらに気づいていた。しかしこちらを見なかった。重要なのは俺の存在そのものではなかった。
俺が境界線を越えるか否か。それのみが男の関心事だったのだ。
ずっと見ていた一点。あれは境界線だったに違いない。
もし俺があの竹藪の向こう側まで回り込んでいたら……。

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