『お仕置きされる人形』|【狂気】人間の本当にあった怖い話

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『お仕置きされる人形』|【狂気】人間の本当にあった怖い話 人間の怖い話
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お仕置きされる人形

 

T君が転校してきたのは小学五年の五月か六月くらい。
一学期の中途半端な時期で、どこといって目立つところのない、おとなしい奴だった。
すごく色白だったのが印象に残っている。
別にアルビノとかそういうんじゃなかったけど、九州の田舎の子供は、みんな黒々と日焼けしている土地だったので、なんか珍しい感じだった。
友達を作るのは苦手なようだった。
イジメってほどじゃないが、なんとなく仲間の輪から外されてた。
いつも教室の隅に独りでいるような、そんなタイプの子供。
夏休みのある日、近所をぶらぶらしてるとT君を見かけたので声をかけた。
何してるのって聞いたら
「別に」
って。
しばらく話をして、じゃあねって言おうとしたら
「今からうちに遊びにこないか?」
と誘われた。
どうせ予定なんか何も無かったのでついて行くことにした。
連れて行かれたのは15階建てくらいの新築のマンションで、あそこは金持ちばっかりが住んでるんだぞって聞かされてたとこだった。
ここに住んでるのって聞くと、
「うん」
と答える。
玄関はその頃まだ田舎では珍しかったオートロック式で、こういう仕組みなんだよってT君は説明してくれた。
家の人は誰もいなかった。
居間には豪華そうなソファーセットが置いてあったけど、まわりに引越し屋の段ボールが雑然と散らばっていた。
越してきて三ヶ月くらいにはなるのにまだ整理してないのかと不思議だった。
T君は台所からケーキとコーラを運んで来てくれた。
「遠慮しないで食べてね」
いつもはオドオドしておとなしいのに、このときは妙になれなれしいというか、積極的な感じだった。
「いいもの見せてあげる」
T君はそう言うと、むこうの部屋から大きな段ボール箱を引きずってきた。
「ほら見て、これ人形だよ」
そう言って箱を開ける。
僕はT君が冗談を言ってるのだと思った。
それはどう見ても生身の人間に見えた。
五歳くらいの男の子。
小太りで丸顔。
いわゆる知恵遅れの子供に共通するある種の外見的雰囲気を備えているような印象を持った。
「人形だよ」
こちらの微妙な空気を感じ取ったのか、T君は繰り返した。
そして箱の底を持ち上げると乱暴に中身を放り出した。
どしっと音がして頭が床に激突する。
ところが人形は目をつぶったまま微動だにしない。
「ほらね」
T君は言った。
人形はT君と同じくらい白い肌をしていた。
家にあった妹のフランス人形と同じで、体を起こすとまぶたを開け、寝かすと閉じた。
もうひとつフランス人形と同じだったのは、瞳の色がきれいな青だったこと。
「さわってごらん」
T君がうながした。
ぷにぷにとやわらかい感触。
ひんやりと冷たい肌だった。
「つねってみてもいいよ」
言われたとおりにしてみる。
「もっと強く」
力任せにねじってみる。
「ね、動かないだろう」
つねったところは赤く痕になっている。
「それで刺してみたら……」
僕はケーキについていた金属のフォークを指さした。
「いいよ、やってみて。思いっきり強くね」
T君は人形のシャツをたくし上げておなかのあたりを出した。
刃先はけっこう鋭かった。
それでも人形は全然反応しない。
刺した所に血がにじんでいた。
そうやって僕とT君はしばらくの間人形をいじめて遊んだ。
そのうちに突然T君がキレ始めた。
きっかけは人形が動いたとかまばたきをしたとかそんなことだったと思う。
「こら、人形のくせに動くな。ばかやろう」
人形の髪の毛をつかんで頭を床に叩きつけ、みぞおちのあたりを蹴り上げる。
人形がたまらず少しでもうめいたり痛そうな素振りを見せると、ますます興奮に手がつけられなくなる。
普段のT君とはまるで別人だった。
それから急に部屋から出て行くと、荷造り用みたいなビニールのロープを持ってきた。
「今からお仕置きをする」
T君は人形の首にロープを巻きつけると片方の端を僕に持たせた。
「はなしちゃ駄目だよ」
そう言うと別の端を手に巻きつけてぐいと引っ張る。
「絶対に動くなよ、お前は人形なんだから」
人形の首筋にロープが食い込む。
血管が浮き出て、顔が真っ赤になる。
「T君やばいって……」
僕がロープを緩めようとすると、
「はなしちゃ駄目だって、大丈夫だよ、これ、人形だから」
その時、急に人形が暴れ出した。
ウーウーとうめきながらロープを引っ張り、足をばたつかせる。
「こら、馬鹿、動くなって」
T君はそう言いながらますますロープをきつく締め上げる。
僕は恐怖のあまり、手を放すことができない。
突然、人形ががっくりひざをついた。
「うわっ」
と叫んでT君がロープを放したので、僕はうしろにしりもちをついた。
「こいつ、おしっこもらしやがった」
人形は眼を剥いたまま仰向けに倒れ、足のあいだには黄色い液体がたまっていた。
T君がわき腹を蹴る。
「汚ねえなあ。もういいや、こいつ。むこうの部屋に行こう。ファミコンがあるから」
その頃クラスでファミコンを持っていたのは一人か二人くらいだった。
僕はまだ一度もさわったことが無かった。
T君は自分専用のテレビに、ファミコンのほかにも何種類かのゲーム機を持っていた。
僕らは夕方までそこでゲームをして遊んだ。
帰り際、居間の方を覗いてみると、人形はまだ眼を剥いたままそこに横たわっていた。
T君は僕を下まで送ってくれた。
「あのさ、よかったらまた遊びに来てくれる?」
いつものオドオドした様子でそう言った。
「うん、来るよ。いっしょにゲームしよう」
そう僕が答えると、T君は
「ほんとだね、約束だよ」
と言ってにこっと笑った。
三回か四回、約束どおり僕はT君の家を訪ねたと思う。
一度も中からの返事は無かった。
T君は夏休み中に何度かある登校日にも顔を見せず、二学期の始業式の日に
「T君はご両親の都合で転校しました」
と担任に告げられた。
この正月に帰省して古い友人に会ったとき、T君て憶えてる?と聞いてみた。
友人はしばらく考えて、なんか妙に肌の白い奴じゃなかったっけ、と答えた。
だから少なくとも、T君という生徒は実在したわけだ。
全部子供時代の夢か妄想か何かだと思っていたのだが。
あのマンションは少し外装をやりかえたようだったけれど、今も同じ場所にあった。

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