日本の神話や信仰には、
川・海・雨・湖・滝といった「水」を通じて、
龍・蛇・大蛇の姿をまとった神々が数多く登場します。
ここでは、
- 日本神話に現れる大蛇・水神
- 川や滝の女神・蛇神系の水神
- 仏教・神仏習合が生んだ龍神
- 各地の民間信仰に根づく龍神
といった観点から、代表的な龍神・水神を整理して紹介します。
日本の龍 一覧 ― その名と象徴
日本の龍は、水・雨・川・海・山の霊力を象徴する神聖な存在として語られてきました。
その名には、自然への畏れと感謝が込められ、地方ごとに異なる姿や役割を持つ龍神として多様な信仰が育まれています。
1. 日本神話に登場する大蛇・水の神格
八岐大蛇（やまたのおろち）
「八つの頭と八つの尾を持ち、国土を脅かす荒ぶる水神的存在」
- 出雲神話に登場する巨大な大蛇で、暴れ狂う洪水や氾濫の象徴とされる。
- 須佐之男命が酒を飲ませて討伐した逸話は、「治水」や「川の制御」を神話的に描いたものと解釈されることが多い。
- その身体から名剣「天叢雲剣（草薙剣）」が現れるなど、日本神話でも特に重要な怪物神格。
闇御津羽神（クラミツハノカミ）
「水辺と深淵を守護する、闇に潜む水龍の神格」
- 日本神話において、イザナギ命が黄泉の国から戻り、禊（みそぎ）を行った際に生まれた神々のひと柱。
- 「御津羽」は水辺・港・河口の霊と解釈され、「クラ（闇）」は深い淵・静寂・未知の空間を意味する。
- その名から、「水の根源的な力＝水龍の神格化」とみなされることも多く、川底や淵に宿る龍のイメージと重ねられる。
瀬織津姫（セオリツヒメ）
「流れを統べ、穢れを洗い流す、水龍の面影を持つ女神」
- 川・滝・禊の神として知られ、あらゆる罪穢れを水の流れに乗せて祓い清めるとされる。
- 信仰の中で龍神としての性格を帯びることも多く、龍体で描かれる例もある。
- その神秘性から「秘された水龍の女神」と呼ばれることもあり、水辺の聖域と強く結びつく存在。
高龗神（タカオカミノカミ）
「霊峰に鎮まり、山上から雨を降らす天空の龍神」
- 『古事記』『日本書紀』に登場する雨と水の神で、山の上から天候と水の循環を司る。
- 「龗（おかみ）」という字は龍神を意味する古語であり、その名の中に「龍」の性質をはっきりと宿している。
- 山の雨・霧・雲と結びつく、天空の水龍として各地の信仰に受け継がれている。
闇龗神（クラオカミノカミ）
「谷底や深い渓谷に息づく、闇の水神・龍神」
- 高龗神と対をなす存在で、山の頂に対してこちらは深い谷・渓谷・水源を司る神とされる。
- 暗い淵や深い川底のイメージと結びつき、見えない水の流れを支配する存在。
- こちらも龍神信仰の系譜に連なり、「オカミ＝龍神」という古いイメージを体現している。
速秋津比売（ハヤアキツヒメ）・速秋津彦（ハヤアキツヒコ）
「川と海のあわいに立つ、水流と潮の化身」
- 河口や海の入口をつなぐ神々で、水が川から海へと注ぎ込むそのダイナミックな流れを神格化した存在。
- 流れそのものの神格として、水蛇や龍と同一視されることもある。
- 川と海の境界領域を守る神として、航行や漁業、河口の安全などとも結びつく。
天之久比奢母智神（アメノクヒザモチノカミ）
「名に“くひ＝蛇”を宿す、大地の底から現れる蛇龍神」
- 『古語拾遺』などに見える神で、その名に含まれる「くひ（くひ＝蛇）」の要素から、蛇神・龍神的性格を持つと解釈される。
- 地の底・大地の内側から湧き上がる力としての神格で、地霊・水霊・蛇霊が重なり合う古層の存在。
- 日本における蛇龍信仰の源流のひとつと見なされることもある。
大物主神（オオモノヌシ）
「蛇にして龍、山と湖に棲む神霊」
- 大和の三輪山に鎮まる神として著名で、古くから蛇体・龍体で現れる神として伝承される。
- 山そのもの、そして麓の湖沼・水辺をも支配する存在で、「山の神」と「水の神」が重なった象徴的な神格。
- 神と龍の境界に立つ存在として、古代から信仰の焦点となってきた。
2. 水辺・海・財を司る龍女・蛇神・女神たち
豊玉姫命（とよたまひめのみこと）
「海神の娘にして、龍女の性質を秘めた海の女神」
- 海神の娘として知られ、山幸彦の妻となるが、出産の際に本来の姿（龍・鰐ともされる）に戻ったところを見られ、海へ帰ってしまったと伝えられる。
- この神話から、海底の龍神の血を引く龍女神としての性格が強く意識される。
- 役割としては、海の守護・航海安全・出産や女性の守護・海の豊穣など、多面的な加護をもたらす女神。
宇賀神（ウガジン）
「白蛇の姿で現れ、稲と財を守る龍蛇神」
- しばしば白蛇の姿で表され、五穀豊穣・財福を授ける神として信仰される。
- 弁財天と習合されることも多く、頭上に宇賀神をいただく弁財天像など、龍蛇神と女神が一体となった姿で祀られる。
- 蛇神と龍神の中間的存在とされ、信仰の中で龍と融合した姿で拝まれることも多い。
弁才天の龍神
「聖なる泉や湖に棲み、芸術と財を守護する伴神としての龍」
- 弁才天（弁財天）の周囲には、しばしば龍が描かれたり、龍が従者として配置されたりする。
- 水辺の聖域（泉・池・湖）の守護者として、芸能・言語・音楽に加え、財運をもたらすと信じられる。
- 宇賀神との習合を通じて、龍蛇と弁財天が一体となった姿が広く知られるようになった。
七面天女（しちめんてんにょ／七面大明神）
「日蓮宗における最強クラスの水神・龍神、紅龍となって現れた女龍神」
- 身延山で日蓮が説法していた際、一人の美しい女性が現れ、一滴の水を受けて紅龍の姿へと変じ、「七面山を守護する七面大明神」と名乗ったと伝えられる。
- 本地は徳叉迦龍王の娘とされ、仏教系の龍王の血筋を引く女神として位置づけられる。
- 水源・雨・山の水脈を統べ、人々に安心と福徳を授ける水龍神として厚く信仰されている。
善女龍王（ぜんにょりゅうおう／善如龍王）
「娑伽羅龍王の娘にして、雨乞いの霊験が非常に高い女性の水龍神」
- 仏典では娑伽羅龍王の娘・龍女として登場し、法華経の中で重要な役割を果たす。
- 日本では、1771年（明和8年）の大干ばつの折、高野山の僧・慈光が蓮池に祀ると、すぐに雨が降り出したと伝えられている。
- その霊験から高野山・善女龍王社として今も信仰され、「雨乞いの主神」「清浄で慈悲深い女龍」として尊ばれている。
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