4. トゥレタール(トゥーレタル)/Tuuletar|フィンランド神話の風の女神・風の精霊
トゥレタール(Tuuletar/Tulettar)は、フィンランド神話に登場する風を司る女性的な霊的存在、または風の女神として知られています。
その名は「tuuli(風)」+女性神名語尾「-tar」から成り、
“風の女性霊” “風の女神”を意味する極めて象徴的な名前を持ちます。
フィンランド神話では、自然現象を女性的な精霊として描く例が多く、
トゥレタールもまた風の動き・強さ・気配そのものを人格化した存在として語られてきました。
役割と神話的性質
風そのものを操る存在
トゥレタールは、
- そよ風
- 突風
- 山の風
- 嵐を呼ぶ風
など、風のあらゆる側面を生み出し、呼び起こす力を持つ存在として描かれます。
神話の中では、人々の祈りに応えて風を弱めたり、
逆に運命の流れを示すように強い風を吹かせたりと、
“自然と人の境界”に立つ精霊的な性質を帯びています。
精霊と女神の中間的な存在
資料によっては
「風の精霊(spirit of the wind)」
として扱われることもありますが、
現代の研究書・紹介文では
「フィンランド神話における風の女神」
と記載されることが増えています。
音楽グループ“Tuuletar”の公式紹介文でも、
明確に“風の女神”と表現されており、女神格としての認識が一般化していると言えます。
象徴・イメージ
女性的で自由奔放な自然霊
トゥレタールは、姿を変えながら風の中に現れると言われ、
軽やか・優雅・予測できないという風の本質を表す存在です。
風とともに旅する精霊
北欧の自然観の中では、風は
- 旅の始まり
- 季節の移り変わり
- 天候の兆し
を示す重要な力。
トゥレタールは、こうした風の“知らせ”や“導き”を象徴する存在でもあります。
特徴(まとめ)
- フィンランド神話の風の女神/風の精霊
- 名前は「風+女性接尾辞」で“風の母性的存在”を示す
- そよ風から嵐まで、あらゆる風を呼び起こす力を持つ
- 姿を定めない、自由で気まぐれな自然霊のイメージ
- 現代文化でも“風の女神”として広く認知されている
5. セラニャ(スィェーラニャ)=スィールアニャ(Szélanya)|ハンガリー神話の「風の母」
セラニャ(Szélanya)は、ハンガリー神話に登場する風を司る女神、あるいは“風の母(Wind Mother)”として知られる存在です。
その名は、ハンガリー語やテュルク系諸語における「風(Szél/Sel/Szel)」と「母(Anya/Ana)」を組み合わせた語で、
まさに “風の母” を指す象徴的な名称を持ちます。
ハンガリー神話は、ウラル系文化・テュルク系文化の両方の影響を受けており、
セラニャのイメージもまた、遊牧文化・空の神話・風の精霊信仰が混ざり合った特徴を持っています。
性格と神格の特徴
伝承によると、セラニャは
「賢く、老いた女性の姿をした風の守護者」
として描かれます。
世界の端の山に住む“風の管理者”
- 世界の端にそびえる高い山の洞窟に住んでいる
- 洞窟の奥には“風の貯蔵庫”があり、数多くの風を蓄えている
- セラニャの気分・判断によって、風・嵐・旋風が解き放たれる
これは “風を袋に閉じ込める古い魔女” のようなヨーロッパ民間伝承にも近いモチーフで、
自然現象を人格化する典型的な形の一つです。
風の起源をつかさどる女神
穏やかな風、突風、長い風、短い風——
それらが生まれ、世界へ送り出される存在としてセラニャが語られます。
彼女は単なる風の精霊ではなく、
風の根源を握る大いなる母神に近い性質を帯びています。
Kayra(カイラ)との関係
一部の近年の資料では、
「セラニャは、テュルク神話の原初神 Kayra(カイラ)の娘である」
と紹介されることがあります。
- Kayra:テュルク神話における創造神・天空神テングリの子
- 原初の混沌から世界を創り出した最上位の神格
という大いなる存在であり、
これに連なる神としてセラニャが置かれる場合があります。
セラニャの象徴と役割(まとめ)
- 風の女神・風の母(Wind Mother)
- 賢い老女の姿で描かれる
- 世界の端の高山の洞窟に住み、風を蓄える
- 機嫌しだいで風・嵐・突風を解き放つ
- テュルク系神話に起源をもつとされ、遊牧文化的な風信仰と結びつく
- 一部の資料で Kayra の娘とされるが学術的裏付けは薄い
6. ヒネ・トゥ・ウェヌア(Hine-Tu-Whenua)|ポリネシア神話の“風と航海”を導く女神
ヒネ・トゥ・ウェヌア(Hine-Tu-Whenua)は、ポリネシア—特にマオリ文化圏を中心とする広い地域に伝わる風と航海の守護女神です。
その名は「大地に立つ女(Hine = 女神/娘、Whenua = 大地)」を意味し、
優しい風・方向を示す風・旅の安全を守る風として、海を行き交う人々にとって重要な存在でした。
ポリネシア世界において、風は“道標”であり“命を預ける力”でした。
その風を司るヒネ・トゥ・ウェヌアは、船乗りや航海者にとって信頼と祈りの対象として語り継がれています。
神話圏と伝承の広がり
ヒネ・トゥ・ウェヌアは、資料によって
- ハワイの風の女神
- マオリ系ポリネシア神話の風の女神
として紹介されることがあります。
これは、ポリネシア文化圏が海洋交易・航海によって広くつながっていたため、
神々の性質や名前が地域ごとに変化しながら共有されてきた歴史が背景にあります。
学術的・百科事典的には
「ポリネシア神話(マオリ系を含む)に属する風の女神」
とする記述が最も中立的で正確とされています。
ヒネ・トゥ・ウェヌアの役割
船乗りを守る風の女神
ヒネ・トゥ・ウェヌアは
航海者を助け、目的地まで安全に導く風
として信仰されてきました。
航海文化が発達したポリネシアでは、風は“生命線”。
優しい風、背中を押す風、嵐を避ける風——
その一つひとつが、彼女の加護とされました。
穏やかな風・導きの風の象徴
凶暴な嵐の神とは異なり、ヒネ・トゥ・ウェヌアは
慈悲深く、航路に寄り添う和やかな風の象徴です。
海の民にとって、
「正しい方向へ進む手助けをしてくれる風」
という信仰がもっとも重要でした。
家系(系譜)
文献では、
- 母:ヒネイタパパウタ(Hineitapapauta)
とされています。
ポリネシア像の多くが“自然の擬人化”であることを踏まえると、
母の名も地形・大地・自然を象徴していた可能性が高いと考えられます。
象徴とキャラクター性
- 風と航海を守る優しい女神
- 穏やかな風・旅の安全の象徴
- ポリネシア全域で信仰の痕跡が見られる
- 地域によって「ハワイの風の女神」として分類される場合もある
- 海洋民族にとって不可欠な“導きの風”の人格化

コメント