- 悪路神の火(あくろじんのひ) (伊勢国)猪草が淵で見られた怪火。雨夜に提灯のように往来し、近づくと病に侵されると恐れられた。
- 油坊(あぶらぼう) (滋賀県・京都府)灯油を盗んだ僧の亡霊が火となったとされる怪火。比叡山の西麓や寺の山門に出現したという。
- 遺念火(いねんび/いんねんび) (沖縄)非業の死を遂げた男女の“遺念”が一組の火として現れる怪火。あまり動かず特定の場所に灯り続ける悲恋系の火。
- 海月の火の玉(くらげのひのたま)/くらげ火(くらげび)
加賀国(石川県)に現れたという鬼火。生暖かい風とともに飛来し、斬ると二つに割れて赤く透き通る粘質の物が顔に貼り付き、それ越しに周囲が見えたとされる。古老は「海月(クラゲ)が風に乗ってさまようのだろう」と語った。 - けち火(けちび)
高知県や新潟県佐渡市に伝わる怪火。人間の怨霊が火の玉になったものとされ、草履を3度叩く、または草履に唾をつけて招くと呼び寄せられる。火の中に人の顔が浮かぶともいわれ、海上に現れる例もあり、船幽霊やじゃんじゃん火と同一視されることもある。 - 古戦場火(こせんじょうび)/古戦場の火
多くの死者を出した古戦場に現れる鬼火。数え切れないほどの火の玉がふわふわと漂い、戦死した兵士や動物の怨霊とされる。人に直接の害はないが、遭遇した者は念仏を唱えながら退散したという。首のない兵士が自分の首を探してさまよう姿が見えると語る伝承もある。 - 古籠火(ころうか)
鳥山石燕『百器徒然袋』に描かれる妖怪。石灯籠の上に座り、口から火を吐く姿をしている。古戦場の鬼火とは別に、灯籠の火そのものが妖怪化したイメージとして描かれたと考えられる。 - そうはちぼん(ちゅうはちぼん)
石川県羽咋周辺に伝わる、怪火のような光の群れ。秋の夜、眉丈山の中腹を東から西へと、不気味な光を放ちながら移動する。名称は仏具の妙八(シンバル状の楽器)に由来し、その形が妙八に似ることから名づけられたとされる。 - 松明丸(たいまつまる)
鳥山石燕『百器徒然袋』に登場する妖怪。火を携えた猛禽類のような鳥の姿で描かれ、天狗礫が発する光ともいわれる。暗闇を照らす善なる火ではなく、修行を妨げる存在とされる。 - たくろう火(たくろうび)/比べ火(くらべび)
備後国(広島県東部)御調郡に伝わる海辺の火の妖怪。夏から秋の夜に海岸に2つ並んだ火の玉となって現れ、その様子から「比べ火」とも呼ばれる。非業の死を遂げた2人の女・京女郎と筑紫女郎の霊が石となり、その霊が火になったという伝承がある。 - 提灯火(ちょうちんび)
日本各地に伝わる鬼火。田の畦道などに出没し、地上1メートルほどの高さをゆらゆら漂い、人が近づくと消える。徳島では数十個が電球の列のように並んだ姿が目撃され、化け物や狐が提灯を灯しているともいわれる。 - 人魂(ひとだま)
夜空や地表近くを浮遊する火の玉。死者の体から抜け出た魂の姿とされる。青白・橙・赤など色はさまざまで、尾を引いて低く飛ぶことが多い。鬼火・狐火と混同されることも多いが、本来は「人の魂」が本体という点で区別される。 - 狐火(きつねび)
日本各地に伝わる代表的な怪火。ヒトボス、火点し、燐火などとも呼ばれる。火の気のない場所に提灯や松明の列のように現れ、ついたり消えたりしながら移動する。正体を確かめようと近づくと必ず消えてしまうといい、蒸し暑い夏の夜や天気の変わり目に現れやすいとされる。 - 釣瓶火(つるべび)
鳥山石燕『画図百鬼夜行』に描かれる怪火。木の枝から釣瓶のようにぶら下がり、毬のように上下を繰り返す青白い火。火といっても木に燃え移ることはなく、火の中に人や獣の顔が見えるとされる。樹木の菌や腐葉土のバクテリアによる生物発光と解釈されることもある。 - ホイホイ火
雨の降りそうな夏の夜、城址の山に向かって「ほいほい」と2〜3度叫ぶと、「ジャンジャン」という音とともに飛んできてすぐに消えるとされる呼び出し型の怪火。 - 天狗火(てんぐび)
神奈川・山梨・静岡・愛知に伝わる怪火。水辺に現れる赤い火で、川天狗の仕業とされる。山から川へ降りて魚を捕る、森の中を飛び回ると伝わる。遭遇すると病気になるため、地面に伏す・頭に草履を乗せるなどの対処法が伝わる。静岡遠州では数百個に分裂し天狗の漁撈と呼ばれる。 - 天火(てんか/てんび/てんぴ)
日本各地に伝わる怪火。愛知では夜道を昼のように照らす怪火、岐阜では夏の夕空を大音を立てて飛ぶ火を指す。古典『絵本百物語』『甲子夜話』にも記述あり。 - 流れ行燈(ながれあんどん)
大分県竹田市の幽霊。精霊流しの終わりに川上から怪しい行燈が流れ、青い火を明滅させながら女性の幽霊が現れ「私は殺された、うらめしい」と泣き叫ぶ。元禄期には必ず現れたとされる。 - 二恨坊の火/仁光坊の火(にこんぼうのひ)
摂津国(大阪府)に伝わる火の妖怪。1尺ほどの火の玉で人の顔のような目鼻口が見え、鳥のように飛び家の棟や木にとまる。害意はなく、むしろ人を恐れて逃げることもある。 - 姥ヶ火(うばがび)
河内国・丹波国の怪火。枚岡神社の灯油を盗んだ老女が祟りで火となった。鶏のような形の火が人の顔にぶつかって飛び去り、再び火の玉へ戻るという。 - 猫股の火(ねこまたのひ)
越後の怪火。武家で毎晩現れる火の玉が原因不明の怪異を引き起こし、最終的に赤布をかぶった老猫を射抜くと巨大な猫又の死骸が出て、以後怪異が止んだとされる。 - 野宿火(のじゅくび)
田舎道や山中に現れる細長い火。人が集まった場所の跡に現れ、燃えては消え、消えては燃えるを繰り返す。木々の間から人の話し声が聞こえるとされる。 - 墓の火(はかのひ)
鳥山石燕『今昔画図続百鬼』の怪火。梵字の欠けた五輪塔から炎が立つ。煩悩が炎となって燃え上がる象徴とも解釈され、京都・西寺町でも同様の怪異が記録されている。 - 化け火(ばけび)
近江国堅田村の火の妖怪。湖岸から現れ、高さ4〜5尺を漂いながら移動し、山に達する頃には直径3尺ほどに巨大化する。人の顔や相撲を取る二人の上半身が火に浮かぶこともある。 - ヒザマ(火玉)
沖永良部島の魔鳥・火の玉。家に憑いて火事を起こすと恐れられる。ニワトリに似た姿だが、地域では「火玉」と表記され、瓶や桶に宿る。防ぐには器を伏せるか水を満たしておく。 - 火柱(ひばしら)
空中に赤気が立つ怪火現象。数丈の高さの火が地上に現れ、大火の前兆と恐れられる。火柱が立つと娘が人身御供にされるなどの俗信もあった。 - ふらり火(ふらりび)
鳥山石燕『画図百鬼夜行』、佐脇嵩之『百怪図巻』、作者不詳『化物づくし』に描かれる火の妖怪。供養されなかった死者の霊魂が現世をさまよい続け、やがて火の姿に成り果てたとされる。 - 蓑火(みのび)
近江国(滋賀県)彦根の怪火。梅雨の夜、琵琶湖を渡る舟の乗り手の蓑にホタルのような火が点々と灯る。蓑を脱げば消えるが、手で払うと逆に数を増し、星のようにキラキラ輝く。熱さはなく霊火とされる。 - 龍燈・龍灯・竜灯(りゅうとう)
海中・川の淵などから現れる神聖な怪火。火が列になったり、海上に浮かんで木に留まるともいう。龍神が灯す火とされ、地域によっては吉兆として崇められる。 - 老人火(ろうじんび)/老人の火
『絵本百物語』に登場。信州〜遠州の山奥で雨夜に現れる怪火で、火とともに老人が現れる。水では消えず、獣の皮ではたくと消える。遭遇すると履物を頭に乗せれば脇に逸れるが、逃げればどこまでも追ってくるという。別名「天狗の御燈(てんぐのみあかし)」。
怪火を知ると“日本の夜の風景”が変わる
怪火は、恐怖だけでなく、自然への畏れ、死者への祈り、土地の歴史などさまざまな感情が重なり合って生まれた伝承です。
一覧として知ることで、地域ごとの価値観や文化の違いが浮かび上がります。
本記事で紹介した怪火はほんの一部。
興味を持った方は、ぜひ地域別・由来別の怪火にも触れてみてください。
新しい視点で日本の怪異文化を味わえるはずです。
FAQ よくある質問
日本の怪火にはどんな種類がありますか?
日本の怪火には、ふらり火・蓑火・龍燈・老人火・天狗火・提灯火・猫又の火など多くの種類があります。地域や伝承によって姿や意味が異なり、怨霊・妖怪・自然現象・神聖な存在として語られてきました。
鬼火とはどんな現象ですか?
鬼火とは、夜にふわりと浮かぶ小さな火の玉の総称で、霊魂や妖怪の仕業と考えられてきた怪火の一種です。姿は青白い光や赤い火の玉など地域で異なり、熱を持たずに宙を漂うと伝えられています。

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