『堤防でのイカ釣り』|【狂気】人間の本当にあった怖い話

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『堤防でのイカ釣り』|【狂気】人間の本当にあった怖い話 人間の怖い話
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堤防でのイカ釣り

 

今30の俺が小学生だった頃の話。
夏休みの夜はしょっちゅう親父とイカ釣りに行っていた。
夜8時ぐらいから釣りを始めて、夜11時ごろには家に帰って、釣果のイカを砂糖醤油で甘辛く焼いて食べるのだ。
俺は親父とイカ釣りに行くのが大好きだった。
釣り場は近所の港にある、沖に向かって伸びる堤防だった。
子供の体感的には長さ500mぐらいあったと思うが、今見たらもっと短いかもしれない。
堤防の途中には『進入禁止』と書かれたフェンスがあったけど、フェンスはちょうど堤防分の幅しかなかったから、横から簡単に越えられた。
その先が俺らの釣り場だった。
夜まで起きていて良い&ほんとは入っちゃいけないところに入れるという非日常感に、当時の俺はワクワクしてしょうがなかった。
親父は
『お前を連れてくると良く釣れるんだ』
と言って笑ってくれた。
何の根拠もないけど、子供ながらに誇らしく嬉しいもんだった。
ある夜のこと。
その日も親父に連れられてイカ釣りに向かった。
軽トラで田舎の県道を20分ほど走って、いつものさびれた漁港に入っていった。
水銀灯のオレンジの光で港はぼうっと照らされていたけど、堤防の方向は明りもなく暗かった。
軽トラを駐車して、堤防に向かった。
暗いけど、月明りでなんとなく周囲は見えた。
堤防を進む間、波がパコパコと堤防の下を叩いて、フナムシがサワサワと散っていく。
分かる人には分かるだろうか。
たまんない非日常感である。
堤防には誰もいなかった。
親父はイカ釣りに使う疑似餌を糸に付け、俺に竿を持たせキャスト(投げる)させてくれた。
俺はすぐに海底に疑似餌を引っかけるもんだから、俺の役割はキャストだけで、巻き取るのは親父だった。
俺が投げ、親父が巻く。
たまにイカがかかると俺に竿を持たせてくれる。
そんな釣りをしていた。
そうこうしてイカが2匹釣れた頃、
「ラジオ忘れた。車からラジオ持ってくる」
親父が言い、海に落ちるから歩き回るなよと強く言い含められた。
竿を預けられた俺は、任せろと言わんばかりの態度で親父を見送った。
しばらく経って、ぼけーっと寝っ転がって星空を見ていた俺は、視界にチラつく明りと足音に気付いた。
(親父かぁ~…?思ったより早いな~…)
と思いながら向き直ると、顔をライトで照らされた。
「……………釣れるの?」
冴えない風貌の若い男が2人立っていた。
太った男とガリガリの男だった。
「……………2ひき釣れた」
「いいね、釣れてんだ。見せて。」
「凄い。大きいじゃん」
「うわ~~~凄い。」
「生きてる生きてる。」
何と言えばいいのだろう、妙に距離感が近い。
二人とも妙に距離感を詰めてくる、俺が苦手なタイプだ。
二人組はクーラーボックスに入ったイカをべたべた無遠慮に触ってわぁわぁ騒いでいた。
俺は、お前ら誰だよ触ってんじゃねえよと子供ながらに内心イラついていた。
ひとしきり騒いだ後、
「……で誰が釣ったの?」
太った男が聞いてきた時だった。
「どうも!!!」
妙に元気の良い答えが、俺のでない口から聞こえてきた。
予想外なことに、声の主は親父だった。
ラジオを持った笑顔の親父が二人組の後ろにいた。
「いやぁ、このイカ。元気良いんです。良かったら貰って下さい」
親父はきらきらの笑顔で二人組にイカを渡しにかかった。
俺の親父ってこんなにハキハキしたタイプだったかな?
確かに営業職ではあったけど。
「まあまあ、おいしいですから、どうぞ。刺身もいいんですよね~」
「いや~悪いですよ~」
「ねえ」
と話す二人に、親父は白いビニール袋にイカを入れて持たせた。
「いいんですよ。あ、今、ホラ、ちょうど港に車が入って来たでしょう。あれ友人なんですけど。あいつからイカ貰えることになってますんで、ホントどーぞどーぞ」
確かにちょうど港に入ってくるヘッドライトが見えた。
「そうですか」
「じゃあ悪いけど」
二人組はイカの袋をぶら下げて、海に向かって煙草を吸いだした。
「ではこれで、いったん向こうに失礼しまっす!!!」
若造に愛想良く敬礼まで繰り出した親父は、釣り具をまとめ俺の手を引いて、港に向かって歩きだした。
ああ俺のイカが………砂糖醤油が……おやじぃ~……
と異議を申し立てた表情をしてみたものの、親父はそっぽを向いていた。
フェンスを越え、港に戻ると、親父は入って来たその車に駆け寄り、運転手のオッサンと何事か話すと、その車はぐるっと引き返して港から出て行ってしまった。
イカもらうんじゃねーのかよ…おやじぃ~~……とブータレ顔の俺は親父に促され、軽トラに乗りこむと、俺たちも港から出てしまった。
おいっどういうつもりなんだぁーと聞こうとする俺に親父は謝りだした。
「すまん。本当にすまん。俺が甘かったんだ、俺が。もう釣りはやめような。もっと昼間に遊ぼう。ごめんなぁ、ごめんなぁ」
親父は目に涙を浮かべていた。
さっきの笑顔との落差に俺は何も言えなくなってしまった。
親父が語ってくれた。
さっきの車のオッサンは偶然通りかかった他人で友人でも何でもないこと。
オッサンには堤防に行かず帰るように促したこと。
二人組は釣り道具を何も持っていなかったこと。
太った男の方が黒いバットを持っていたこと。
それ以来、親父と釣りに行っていない。

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