堕天使とは?
堕天使(だてんし)とは、もともと神に仕える清らかな天使でありながら、傲慢・嫉妬・反逆の意志によって天界から追放された存在を指します。
高い知性と自由意志を持っていたがゆえに、その選択が堕落へとつながったとされ、神話や宗教文献では「天使戦争」や「反逆の物語」と結びつけて語られることが多くあります。
新約聖書『ヨハネの黙示録』第12章には、サタン(ルシファー)が神に反旗を翻し、敗北して地上へ落とされた物語が描かれています。
そのため伝統的には、堕天使の頂点=サタン(ルシファー)とされることが一般的です。
ここでは古典文献にもとづいた堕天使の名前と特徴を、わかりやすく紹介していきます。
堕天使としての悪魔一覧
以下の内容は、偽ディオニュシオス『天上位階論』・セバスチャン・ミカエリス『驚くべき物語』、および外典文献の記述にもとづいて整理したものです。
🌓 第一階級(もっとも高位の堕天使)
● ルシファー(Lucifer)
「光をもたらす者」と呼ばれた、堕天使の象徴的存在。
かつては熾天使(最高位)の中でも特別な力と美しさを持ち、神から深い信頼を与えられていたとされます。
しかしその栄光ゆえに傲慢が芽生え、「神に取って代わることができる」と考えたことで反逆を起こし、最終的に地獄へと落とされました。
傲慢の罪を司る堕天使とされます。
「第一階級」の堕天使リスト
● ベルゼブブ(Beelzebub) – 誘罪:驕慢、元の位階:熾天使の君主
かつては炎と純潔を象徴する熾天使の頂点に立つ存在。
堕天後は“蠅の王”と呼ばれることもあり、支配欲と強大なカリスマ性で知られます。
● レビヤタン(Leviathan) – 誘罪:不信仰、元:熾天使の君主
巨大な海の怪物として知られるが、原典では天界の重職を務めていた天使。
神への不信と反抗心が強く、その性質が堕落の原因になったとされる。
● アスモダイ(Asmodai) – 誘罪:貪食・不貞、元:熾天使の君主
情欲と暴食を象徴する堕天使。知識や財宝の管理に優れ、人間の弱さにつけ込む存在として描かれる。
● バルベリト(Balberith) – 誘罪:殺人・冒涜、元:智天使の君主
かつては神の知恵を司る智天使だったが、堕落後は戦争と破壊の象徴に転じたとされる。
● アスタロト(Astaroth) – 誘罪:怠惰、元:座天使の君主
豊かな知識と記憶力をもつ堕天使。堕落後も知識を求める姿勢は変わらず、賢者としての側面が強い。
● ウェリネ(Verrine) – 誘罪:短気、元:座天使の第2位
怒りや焦燥を象徴する存在。衝動的な気質のために堕落したとされる。
● グレシル(Gressil) – 誘罪:不浄・不潔、元:座天使の第3位
清潔を象徴する座天使であったにもかかわらず、堕落後はその逆の「不浄」の象徴とされる。
● ソネイロン(Sonneillon) – 誘罪:憎悪、元:座天使の第4位
激しい憎悪や復讐心を操る堕天使。人の心の負の側面を揺さぶるとされる。
🌒 第二階級の堕天使
● オエイレト(Oeillet) – 誘罪:贅沢、元:主天使の君主
物質的な豊かさを求めすぎたために堕落したとされ、虚栄や浪費と関連づけられる。
● ロシエル(Rosier) – 誘罪:思慕、元:主天使の2位
愛情や執着にまつわる堕天使。過剰な愛が堕落の原因になったとされる珍しい例。
● ベリアス(Belias) – 誘罪:傲慢・見栄
虚栄心と見栄を司る堕天使。もともとの階級は不明だが、高い権威を持っていたと伝えられる。
● カレアウ(Carreau) – 誘罪:頑固、元:能天使の君主
頑なな意志と揺るがない信念を持つがゆえに、神への反逆に走ったとされる。
● カルニウェアン(Karniuean) – 誘罪:卑猥、元:能天使の君主
人間の情欲や退廃を象徴する堕天使。感覚的な快楽にまつわる知識に長けているとされる。
● ヴェリエル(Verrier) – 誘罪:不従順、元:権天使の君主
権力と秩序を司る天使だったが、神の命令に従わなかったことから堕落したとされる。
🌑 第三階級の堕天使
● ベリアス(Belias) – 誘罪:傲慢・見栄・不貞、元:力天使の君主
名前が重複して記録されることがある堕天使。強大な力を持つとされる。
● オリウィエル(Oryiel) – 誘罪:残酷・無慈悲、元:大天使の君主
かつては慈愛深い大天使の長であったが、感情の喪失によって堕落したと語られる。
● イウウァルト(Iuuart) – 誘罪:不明、元:天使の君主
詳細がほとんど残されていない謎の堕天使。性質も役割も不明とされる。
📘 旧約・外典に登場する堕天使
● アザゼル(Azazel) – 人間に与えたもの:戦争・美容
武器の作り方や装飾の技術を人間に教えたとして、外典で重罪人として描かれる。
● シェミハザ(Shemhaza) – 魔術・草木
「堕天使の長」とされる場合もあり、人間に魔術や薬草の知識を授けたとされる。
● アルマロス(Armaros) – 魔術を無効化する術
教えた魔術を打ち消す方法を伝えたとされ、バランスを保つ役目を担ったともいわれる。
● バラクエル(Barakiel) – 占星術
星読みの知識を人間に与えた堕天使。夜空の動きを深く理解していたとされる。
● コカビエル(Kokabiel) – 占星術
星々を支配する堕天使として語られ、天文学的な知識をもち人間に伝えた。
● タミエル(Tamiel) – 星の観察
天体の観測技術を教え、人間文明の発展に影響したとされる存在。
● サハリエル(Sahariel) – 月の運行
月の軌道や周期に関する知識を授けた堕天使とされる。
● ベリアル(Belial) – 裏切り・破滅
旧約聖書でも悪名高く、無価値・邪悪の象徴とされる存在。
● サマエル(Samael) – 死の力
破壊や死を司る天使として描かれ、人間に「死」の概念をもたらしたとされる。
その他の堕天使
古典文献や外典、ユダヤ教・キリスト教伝承、偽典、悪魔学書(ゴエティアではなく“堕天使として語られたもの”)から、堕天使として扱われることがある名前をまとめた一覧です。
ルシファーの反乱に加担した堕天使たち
ルシファーに従って反逆を行ったとされる天使たち。
外典『エノク書』・偽典・悪魔学書に名前が残る人物を中心にまとめています。
● サリエル(Sariel / Suriel)
天使としては“月と運命を司る存在”だったが、反逆に参加したとされる伝承がある。
堕落後は死と呪いを象徴する側面を持つようになった。
● ラミエル(Ramiel / Remiel)
雷と嵐を司った天使。
ルシファーの反逆に一部加担したとされる文献が存在し、堕天使として扱われることがある。
堕落後は破壊を象徴する力を帯びる。
● ペニミ(Penemue)
人間に「文字」「知識」「書き物」を教えたため罪に問われた堕天使。
人類文明への影響が極めて大きいとされる。
● カシデヤ(Kasdeya)
魔術と医学に関する禁断の知識を人間に教えた堕天使。
人間に多大な影響を与えたとされ、罪深い存在とみなされる。
● アラクエル(Araqiel / Arakiel)
大地や地形の秘密を教える役割を持った天使。
人間に自然の真理を教えすぎたことで堕落した。
グリゴリ(監視者)と呼ばれる堕天使たち
『エノク書』に登場する“人間の娘に魅了されて堕落した天使”の集団。
文献では200名のリーダーが存在するとされ、一部の名前が記録されている。
● アザゼル(Azazel)
武器と化粧品など、人間の文明に大きな影響を与えた堕天使。
戦乱・虚栄の象徴とされ、罪の根源として扱われることもある。
● シェミハザ(Shemhaza)
グリゴリの指導者。
人間への過剰な愛情が堕落の原因となったとされる悲劇的存在。
● アルマロス(Armaros)
“魔術を打ち消す方法”を教えた、独特の立場の堕天使。
禁断の術の反作用を補う役割があったとも解釈される。
● バラクエル(Baraqel)
占星術を伝えた堕天使。
夜空の運行の秘密を人間に教えた。
● カザデヤ(Kashdejan)
治療と呪術の境界にある知識を教えた堕天使とされる。
● サハリエル(Sahariel)
月の周期や暦に関する知識を教えた堕天使。
破壊・死・災厄を司る堕天使
宗教を問わず「破壊」や「死」を司るとされ、堕天使として扱われることがある存在。
● アバドン(Abaddon)
ヘブライ語で「破壊」「滅び」を意味する名をもつ。
『黙示録』では深淵の王として登場し、堕天使として扱われる解釈が一部に存在する。
● アポリオン(Apollyon)
「破滅の天使」とされ、アバドンと同一視されることも多い。
神への反逆者として堕天使扱いされる場合がある。
● サマエル(Samael)
死と破壊を司る天使。
文献によっては天界に残る場合もあるが、堕天使として扱われる解釈も強い。
● ベリアル(Belial)
旧約でも悪名高い存在。
「役に立たない者」という語源をもち、堕天使・悪魔とされるケースが一般的。
知識・魔術にまつわる堕天使
人間に“必要以上の知識”を伝えたことで堕落したとされる天使たち。
● シャムシエル(Shamsiel)
太陽を見守る天使だったが、人間に天文学の奥義を教えたため堕落したとされる。
● コカビエル(Kokabiel)
星々を司る天使。
天界の秘密を漏洩したため堕天使として扱われる。
● タミエル(Tamiel)
天体の運行について教えた堕天使。
海の深淵や天上の構造にも詳しいとされる。
● グザファン(Xaphan)
創造性に優れた天使で、天国に火を放つことを提案した“裏切り者”。
サターリス(Satariel / Sathariel)
神の秘儀を守護する天使だったが、深すぎる知識を独占し、神の意志と異なる形で扱おうとしたことで堕落したとされる。 堕天後は“秘密を覆い隠す闇”を象徴し、人間の理解を曇らせる存在として描かれる。
イスラム伝承における堕天使系存在
イスラムの文献にも「堕落した天使」「反逆者」と解釈される者が存在する。
● イブリース(Iblis)
アダムへの礼拝を拒んだため天から追放された存在。
イスラムではサタンと同一視されることが多い。
● ハールート(Harut)
● マールート(Marut)
バビロニアに堕とされた2体の天使。
神の試練に失敗し、地上で人間に魔術を教えたことで堕落したとされる。
⭐ まとめ
堕天使の物語は、宗教的な教えだけでなく、人間の心に潜む弱さや葛藤を象徴として描き出したものでもあります。
反逆、嫉妬、欲望――こうした感情がどのように天使を堕落させたのかという物語には、現代を生きる私たちにも通じるテーマがあります。
そして堕天使は、多くの文献や伝承が混在しているため、時代・地域・宗派によって解釈が変化する存在でもあります。
この記事が、神話や創作設定の参考として役立ち、さらに堕天使の世界に興味を深めるきっかけになれば幸いです。

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