イスラム教の天使 Malaika
イスラム教での天使はマラーイカ(Malaika)と呼ばれ、伝令の意を持つ。この天使は人間一人一人の善悪の記録を取り、最後の審判の日にこの記録が手渡され、善人の記録は右手に、悪人の記録は左手に乗せられ天国行きか地獄行きかを決定される。
コーランに登場する七人の天使
ミーカール Mikal
ミーカールともミカイール(Mika’il)ともいう。イスラム教における大天使ミカエルである。イスラフェルが生まれた五千年後に創造された。エメラルド色に輝く翼とサフラン色の体毛に覆われ、その毛一本一本に百万の顔があり、その顔一つ一つに百万の目と百万の言葉を話す舌があり、アラーによる罪の許しを懇願している。
ジブリール Djibril
イスラム教における大天使ガブリエル。伝説では六百の翼を持ち、両目の間には太陽が埋め込まれているという。ムハンマドのもとを訪れて神の言葉を伝え、口述で聖典コーランを筆記させた。また、ムハンマドが幼い頃にも現れ、彼の心臓を取り出し、人類の始祖アダム以来、全ての人類が背負う原罪を洗い落として再び体に戻した。
アズラエル Azrael
死の天使
アズライル(Azrail)、アシリエル(Ashiriel)、アズリエル(Azriel)といった別名を持つ。四つの顔と四枚の翼を持ち、空を飛ぶ時、体は百万枚のベールで包まれ、ベールの下の体は無数の目で覆われている。この目一つ一つが生きている人間一人一人につき、この目が一つまたたくと人間一人が死の際にあるという。また、七千の足と四千の翼を持つという記録もある。
アズラエルは生けとし生ける人間全ての名前の記されたリストを持ち、人間が誕生するたびに加筆され、人間が死にいたるたびに名前が消されるという。
誕生の天使
イスラムの伝説では、アラーは最初の人類アダムを創造するため、ジブリール(ガブリエル)、ミカイール(ミカエル)、イスラフェルらの天使を地上に遣わした。彼らに地上の土を集めさせ、それでアダムを創ろうとしたのだ。しかし、大地は天使に神の新しい創造物が創り主に反抗し、大地にも不幸をもたらすと警告した。そのために三人の天使が手ぶらで帰ってくると、アラーは今度はアズラエルにその任務を託した。彼は大地の拒絶にも耳を貸さず、任務を忠実に完了した。この功績から、彼は人間の魂を司る死の天使の役職を与えられたという。
しかし、別の伝承もあり、それによれば、上記の四人の天使が神の命を受け人間の創造に取りかかったが、三人の天使は失敗し、アズラエルだけが人間の創造に成功したという。それはアズラエルだけが人間の魂と肉体を分ける術を知っていたからだという。
マリク Malik
地獄の監視者
コーランによると、マリクは地獄の監視を担う高潔な天使で、業火にあえぐ魂を責め立てる一九人の「乱暴に突く者」と呼ばれる天使を監視している。業火をかき回し、苦しみに叫ぶ魂にも冗談でしかこたえない。しかし、「アラー、哀れみ深き、慈悲深き方」ととなえた者は、「乱暴に突く者」からの責め苦は逃れられるという。不信仰者に比べれば彼は罪人に対しては優しくするという。
イブリース Ibris
神の愛を失った天使
別名をエブリース(Eblis)、ハリース(Halis)。もともとは地上と天界の下層を司る役割にあった。しかしその地位を剥奪され、キリスト教のサタンにおける、人間を罪の道に誘う悪魔となっている。
そのきっかけは神(アラー)が人間(アダム)を創ったことにあった。アラーはこの新しく誕生した人間にあらゆる事物の名前を教え、“神の代理人”とし、天使たちに彼らの上位に位置する者として礼拝するように命じた。しかしイブリースだけは「土から創られた人間などより、火から創られた天使の方が優れているのだから」と主張し人間への礼拝を拒んだ。アラーは彼のその傲慢さに怒り、彼はその恩寵を失うことになった。
だがイブリースが人間への礼拝を拒んだのには別の理由があるとも言われている。アラーはすでに天使たちに自分以外の者を崇拝してはならないと命じていた。その命令を忠実に守り、かつアラーの敬愛が強かったイブリースは、人間への礼拝の命に従うことができなかった。しかしその彼の忠誠心は伝わらず、アラーは彼の行為を反逆と見なし、天使としての地位を剥奪した。
ハルートとマルート Harut and Marut
地獄の番人
ハルートとマルートは常に二人で行動すると言われる。役目は地獄に堕ちた罪人に責め苦を追わせることだが、マルートに関してはかつてはマリクの名が変わったものであるらしい。
堕天したハルートとマルート
アラーの名に忠実に従い罪人に刑罰を加えると言われる彼らだが、資料によっては罪を犯した堕天使としているものもある。地上の人間がいかに罪にまみれているかを彼らがアラーに報告したとき、「人間と同じ立場におかれればおまえたちも同様のことをした」と言われた彼らは、その反論のため地上に降り立った。ところが彼らはすぐに地上の美しい女性に心を奪われ、彼女をくどいて手に入れるために、禁じられていたはずの飲酒などの軽い罪から、酔ったあげくに殺人の重い罪まで犯してしまった。その女性は、彼らがうっかり神の秘密の名を漏らしたため、それを口にした彼女は天に昇り美しい星になったという。
これらにはグリゴリにおける伝承と類似する点が多く見られる。
その他の天使
イスラフェル Israfel
最後の審判の天使
イスラフィル(Israfil)、サラフィエル(Sarafiel)、イスラフィエル(Israphel)の別名を持つ。イスラム教ではイスラフェルは最後の審判でラッパを吹く天使の一人である。音楽を司る天使で、全ての創造物のなかでもっとも美しい顔立を持ち、千の言語でアラーを賛美する。また、足は天界の最下層の第七天につきながら頭は最上層にあるアラーの玉座にまで達するほどの巨体の天使である。一日に六回地獄を視察することが任務とされているが、そこで責め苦を受ける人間の悲惨な光景を目にしては洪水を起こしかねないほどの涙を流すという。
ハダーニエル Hadarniel
巨大な門衛
神の偉大さを意味する名前を持つ彼は、二一〇万マイルにも達する身長を持つ。役目は天国への侵入者を防ぐことにある。
トーラー(モーゼの戒律を含む旧約聖書の最初の五書)を取るため神の許しを得て、天国にモーゼがやってきたとき、それを知らなかった彼はモーゼの前に現れて恐怖のあまり泣き出すまでに脅した。しかしそこへ神が現れ厳しい言葉でハダーニエルをいさめると、すぐに態度を改めモーゼの案内を承知し、さらにモーゼのため、その巨体から出される声でもって天上にいる二〇万の天使に神の意志を響き渡らせ伝えた。
ムンカルとナキール Munkar and Nakir
死者を呼び覚ます
墓に死体が埋められると、この二人はその新しい死体をまっすぐに置き、預言者ムハンマドについての質問をする。ムハンマドの信者はこの質問に「彼は神の伝令である」という答えを出せるが、不信心者、罪人は正しい答えを出せない。正しい答えを出せなかったものは復活の日、最後の審判の時まで彼らに体を叩き続けられる。
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