回覧板のメッセージ
俺はあるアパートの6階に一人で暮らしていたんだけど、そこで衝撃的な思いをした。
ある日のことだ。
朝飯をたいらげてテレビを見てるとピンポーン、と呼び鈴が鳴った。
こんな早朝に何の用だよ…出てみると隣のオッサンだった。
「はいよ、回覧板。」
そう言ってオッサンは俺に回覧板を手渡し、すぐに去っていった。
俺は少しの間玄関で立ち止まったままでいた。
何か…おかしくないか?
そう、回覧板だった。
ふつう、回覧板は必ず下の階から上の階へと回っていくはずなのだが、その日は何故か隣から回ってきたのだ。
俺は家を出て、すぐさま隣のオッサンの家の呼び鈴を鳴らした。
オッサンは不機嫌そうな顔つきで現れた。
「すみませんが、今日はなんでお宅がうちに回覧板を…?」
俺はそう訊いてみた。
オッサンは少し顔をしかめた。
「ああ、すまんよ。上に回してくれんか」
そう問い掛けてきたので俺は
「は?」
と答えた。
するとオッサンは
「じゃあ、いい。とにかく上に回しておいてくれ」
一方的にそう言い放ち、バタン、とぶっきらぼうにドアを閉じてしまった。
なんだそりゃ。
仕方ないので、とりあえずその場で回覧板を開いてみた。
回覧板の中には、いつものどうでもいい書類と、住民がサインをする用紙はなく、代わりに水色の色紙が一枚だけ挟まっていて、その裏には何か書いてあるようだった。
俺はそれを見て驚愕した。
色紙の裏には何とも気味の悪い絵が一面に書き詰められていたのだ。
大蛇がぐるぐると巻きついた十字架
刃物でメッタ刺しになっているリンゴ
眼球が飛び出した犬
四肢が全て切り離された人間
首だけで笑っている人の頭…
かなりの種類だった。
しかも、どの絵も全くと言っていいほど統一性がなく、それぞれ違う人間が書いたようなものに見えた。
幼稚園児レベルの画力の、まさに落書きと呼ぶに相応しいような絵もあれば、美術館などで展示されていてもおかしくないような、驚くほど精巧でリアルな絵もあった。
とにかく、どれも恐ろしくグロテスクな絵だった。
一般人が見たら間違いなく狂った人間の仕業と思うだろう。
俺もそうだった。
なんて真似しやがる…どこの糞野郎か知らないが、悪質な悪戯だと思った。
それにしてもオッサンはこの絵を見て何も思わなかったのだろうか?
それとも単に気付かなかったのか?
俺は再びオッサンの家の呼び鈴を鳴らした。
すると何故か、さっきはすぐに出てきたくせに今度は全然出てこない。
何度も呼び鈴を鳴らしたが、一向に出てくる気配はなかった。
ひどく気味が悪くなってきたので出来るだけ早く回覧板を手放したくなった。
階段を上がって上の階へ行き、呼び鈴を鳴らした。
しかし誰も出てこなかった。
仕方ないので下の階に行き、何度も呼び鈴を鳴らしたがやはり誰も出なかった。
俺は諦めて回覧板を持って家に戻ることにした。
何でこんなものが俺に回ってくるんだよ…すっかり嫌になった俺は、回覧板の色紙を取り外してクシャクシャに丸めてゴミ箱に捨てた。
それで少しだけ気分が晴れたような気がしたので、その日は早いうちに寝た。
夜中になって、俺は目を覚ました。
時計を見ると午前3時だった。
何でこんな時間に目が覚めるんだ…俺はふと、あの回覧板のことを思い出して急に怖くなった。
何故かあの色紙の存在がとても気になった。
恐る恐るゴミ箱の中を覗いてみると…色紙はクシャクシャに丸まって、さっきのまま捨ててあった。
取り出して見てみると、例の気持ち悪い絵が目に飛び込んできた。
「ん…?」
よく見ると、絵の中に混ざって平仮名が書いてあるのに気付いた。
『しにたい』
次の日、隣のオッサンは首吊り自殺をしていた。
あまりに怖くて、悲しくて、泣いた。
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