🐉 南アジアの龍
インドの炎より生まれし龍たちは、神と悪魔、宇宙と因果の狭間にて蠢く。蛇の名を借りながら、彼らは天の水を封じ、大地に災厄をもたらし、あるいは仏の教えに帰依して聖者となる。これぞ、南アジアの龍の譚なり。
🇮🇳 インド神話の龍
🔹 ナーガ(Nāga)
神聖な蛇または龍の存在。姿は巨大な蛇であり、複数の頭を持つことも。多くは水や地下世界と関連し、神々とも深く関わる。
- アパララ(Apalāla)
スワート川に住まう水の龍王。仏教に改宗したとされる。 - カリヤ(Kaliya)
毒を持つ蛇。ヤムナ川を毒で汚していたが、クリシュナにより調伏される。
🔹 マホラガ(Mahoraga)
仏教・ジャイナ教に登場する「偉大なる蛇族」。ナーガに似た姿を持ち、下半身が爬虫類の神格存在。人間的な特徴も併せ持つ。
🔹 ヴリトラ(Vritra / Ahi)
ヴェーダ神話に登場する乾きと破壊を象徴する龍。河をせき止め、旱魃を起こす存在。雷神インドラに討たれた。
※「アヒ(Ahi)」は蛇を意味し、ゾロアスター教の邪神アジ・ダハーカとも語源を同じくする。
🐍 北東インド(マニプル)神話の龍
-
- パカンバ(Pakhangba)
人間とも関係する巨大な蛇の姿の龍。マニプル王家の祖先とされる。 - ポウビ・ライ(Poubi Lai)
ロクタク湖に棲む古代の大蛇龍。「マニプルのネッシー」とも呼ばれる。 - タオロイナイ(Taoroinai)
月の国に住む神秘的な蛇龍。その体の上に神聖都市カングラが築かれたという。
- パカンバ(Pakhangba)
🐉 東南アジアの龍
熱帯の森、海、火山の麓に生まれし龍たちは、東南アジアの大地に神話の骨を刻み、精霊と神の狭間にて息づいている。ここに、その名と力の記録を記す。これはただの怪物たちではない、祈りと畏怖を背に持つ存在たちの記憶なり。
🇮🇩🇲🇾 インドネシア・マレー系の龍
- ナーガ/ノゴ(Naga / Nogo)
ヒンドゥー教に由来する神聖な龍。聖なる山、森、海と結びつき、冠を戴いた巨大な蛇として描かれることも。
– アンタボガ(Antaboga):世界を支えるジャワ・バリ神話のナーガ。シヴァ信仰のアナンタ・シェーシャが由来。
🇰🇭 クメール(カンボジア)の龍
- ネアク(Neak)
インドのナーガを元にした、多頭のコブラの姿をした龍。奇数の頭は男性性、偶数は女性性を象徴。カンボジア創世神話にも登場し、龍の王女が人間と結婚して王国を始めたという伝説がある。
🇵🇭 フィリピンの龍
- バクナワ(Bakunawa)
元は美しい女神だったが、巨大な海の蛇となり、月を呑み込む存在に。月食は彼女の仕業とされ、住民は鍋や太鼓を叩いて彼女を追い払う。 - ラウー(Láwû)
カパンパンガン族の神話に登場する、月を飲み込む蛇。月食の原因とされる。 - オリマウ(Olimaw)
イロカノ族の神話に登場する、翼を持つ幻影の龍。やはり月を飲み込むとされる。 - サワ(Sawa)
タガログ・アティ族の神話に登場する大蛇。太陽と月を飲もうとするが、太陽神アポラキと月の女神マヤリに阻まれる。 - サマル・ナーガ(Samal Naga)
天の川に封じられた巨大な龍。信仰心のない者を滅ぼす終末の龍として語られる。 - カンラオンの龍(Kanlaon Dragon)
ネグロス島のカンラオン山に棲んでいた狂える龍。英雄ラオンとカンに討たれる。
🇻🇳 ベトナムの龍
- ロン(Rồng/Long)
中国の龍と近似しつつも、螺旋状の尾と剣のような背びれを持つ。母性を持つ存在として描かれることもあり、恵みの雨をもたらす水の神。王の象徴として5本の爪を持つ。
– コン・リット(Con Rit):海に住む巨大な水の龍、ベトナム神話に登場する。
🐉 東アジアの龍
東風に乗りて現るは、尊き龍たちの系譜。彼らは神にして守護者、または天と地を結ぶ橋なり。東アジアの龍、その名を知る者は、千年の叡智に触れる者なり。
🇨🇳 中国の龍(龍:Lóng/ロン)
- 蒼龍(Azure Dragon):四神のひとつ、東と春を象徴する守護龍。
- 龍王(Dragon King):海と天候を司る四海の王。
- 共工(Gonggong):破壊の水神、世界を傾けた龍神。
- 黄龍(Yellow Dragon):中央を司る神聖なる龍。
- 伏藏龍(Fucanglong):火山と財宝の守護者、鍛冶の神。
- 天龍(Tianlong):天界の守護龍、神々の御使い。
- 蛟龍(Jiaolong):鱗を持つ水中の龍、若き龍とされる。
- 蟠龍(Panlong):水中に棲む「とぐろを巻く龍」、装飾芸術にも描かれる。
- 神龍(Shenlong):嵐と雨をもたらす霊的な龍。
- 地龍(Dilong):地を司る龍、天龍と対を成す。
- 虯龍(Qiulong):角の有無に諸説ある「角のある/ない龍」。
- 応龍(Yinglong):翼を持つ雨の神、伝説の戦神的存在。
- 螣蛇(Teng):天を翔ける蛇龍、「飛竜」とも呼ばれる。
- 巴蛇(Bashe):象を食らう巨大な蛇、龍に近い存在。

コメント