日本と世界の神話に登場する『風を司る神』を一覧で紹介します。
風は、古代から人々の生活と深く結びついてきた自然現象です。
穀物を育てる優しいそよ風、大地を揺るがす嵐、季節を運ぶ風――
その力をどの文化も“神格”として敬い、恐れ、物語の中に刻み込んできました。
日本のシナツヒコや風神雷神、
ギリシアのボレアース、
インドのヴァーユ、
メソポタミアのエンリル、
マヤのフラカン、
北欧の四方位の風の神々まで。
世界各地の神話を見渡すと、
風は単なる自然現象ではなく「生命と破壊の両面を持つ神秘的な力」として、
多様な姿で語られてきたことがわかります。
本記事では、
日本・アジア・ヨーロッパ・アメリカ大陸・海洋文化圏など
多彩な地域に伝わる「風を司る神々」を一覧で紹介します。
出典・参考:Wikipedia 風神
日本の風の神
1. シナツヒコ(志那都比古神 / しなつひこ)
『古事記』『日本書紀』に登場する、日本神話における代表的な風の神。
天照大神の命により、世界に風を吹かせる役割を担った神とされ、風の流れを整え、農作物の成長を支える存在と考えられていた。
異名「級長戸辺神(しなとべのかみ)」としても知られ、古くから風鎮め・航海安全・農業豊穣の祈りの対象となっている。
2. シナツヒメ(志那都比売神 / しなつひめ)
シナツヒコの女性神格とされる神。
文献によってはシナツヒコの姉妹神・対偶神とされ、優しい風・春風・季節の移り変わりを象徴する。
直接的な記述は少ないが、風を司る女性神として諸国で祀られている地域もある。
3. 風三郎・風の三郎(かぜのさぶろう)
日本各地の民間伝承にみられる「風の精霊」的な存在。
特に東北地方を中心に語られ、季節の変わり目に吹く強風を擬人化したものとされる。
農作業の目安となる風を起こす存在として「風の神」と同一視されることもある。
4. 風の又三郎(かぜのまたさぶろう)
宮沢賢治の童話および小説に登場する架空の存在。
“風そのものを具現化した少年”として描かれ、自然の神秘・風の力の象徴として広く親しまれている。
※創作上の存在だが、風の精霊像として文化的に定着したため参考として掲載。
5. 素戔男尊(すさのおのみこと)
本来は海原の神・嵐の神として知られ、風神ではないが、神名「スサ(荒ぶる)」の語義から、
暴風雨・嵐を司る神格という解釈が古くから存在する。
『古事記』では建速須佐之男命、『日本書紀』では素戔嗚尊など複数の表記がある。
八岐大蛇退治の神話で知られ、荒ぶる力と同時に農業・治水と結びつく側面も持つ。
【『本朝英雄傳』より「牛頭天王 稲田姫」(歌川国輝 画)】

【須佐之男命(歌川国芳)】
風神雷神図屏風(俵屋宗達)
鬼神の姿で袋を担ぎ、風を自由に操る風神として描かれている。
この図像が「風神=鬼の姿」というイメージを日本文化に定着させた。

疫病神としての風の神
中世日本では、風は農作物や漁業に害を与えるだけでなく、
悪い風(邪気)が人の体に入ると病を起こすと考えられていた。
そのため「風の神=病をもたらす疫病神」として恐れられた側面がある。
「風邪(かぜ)」という表記は、悪い風(邪気)が体に入るという信仰から生まれた語源説が広く知られる。
黄色い息を吐く邪神としての風神(絵本百物語)
奇談集『絵本百物語』巻第5「風の神」では、
黄色い息を吐き、災い・病をもたらす風の邪神として描かれている。
天保12年(1841年)刊。絵は竹原春泉による。

世界の風の女神
アオス・シ(Aos Sí)【ケルト神話】
ケルト神話に登場する「アオシー(Aos Sí)」は、古代ケルトにおける超自然的存在の総称で、妖精・精霊・シード(丘の民)と呼ばれる者たちを指す。 特定の「風の女神」ではないが、丘や大地、風穴を通じて現れることから、風や空気の流れと関わる精霊的存在として扱われることがある。 スコットランド・アイルランドでは自然現象を司る一種の精霊として信仰された。
アウラ(Aura)【ギリシア神話】
ギリシア神話に登場する冷涼な微風を司るニンフ(山の精)。 その名は「そよ風」「薄明」を意味し、アルテミスの従者として描かれることもある。 アウラは軽やかで俊敏な乙女として表現され、早風・朝の風の擬人化ともいわれる。
アウライ(Aurai)【ギリシア神話】
ギリシア神話における風の精霊(オーライ)で、複数形で語られる風のニンフたち。 北風・南風・西風・東風など方向ごとの風の神(アネモイ)の従者とされ、 大気の流れ・そよ風・嵐の前触れなど、風の細かな動きを象徴する存在。 ローマ神話では「Aurae」として継承された。
カルデア(Cardea)【ローマ神話】
ローマ神話に登場する門や閂(かんぬき)、風の出入りを守る女神。 本来は「戸口の保護神」だが、風は戸口から出入りすると考えられたため、 風除け・悪霊避けを司る女神としても信じられた。 オウィディウス『祭暦』では、カルデアの力が「風や病を外から入れない」ことに結び付けられている。
封姨(Feng Yi)【中国神話】
中国の伝承に登場する風の巫女・風を操る女神。 『山海経』などに見られる風伯(風神)と対になる存在ともされ、 風を封じ、また解き放つ力を持つという民間信仰が伝わる。 地域によっては、台風・強風を鎮める風の女性神格として祀られることがある。
ニンリル(Ninlil)【メソポタミア神話】
シュメール神話の風の神エンリル(Enlil)の配偶神。 ニンリル自身も、空気・風・大気・季節の変化を司る女神として信仰される。 「純潔の女神」とも呼ばれ、エンリルとの神話では冥界の運行や季節の循環に関わる重要な役割を果たす。
世界の風の男神
エエカトル(Ehecatl)【アステカ神話】
アステカ神話の風の主神で、「エエカトル=ケツァルコアトル」として知られる。 羽毛の蛇ケツァルコアトルの風の側面を担い、 太陽を動かし、世界創造を助ける風として重要な役割を持つ。
鳥のくちばし形の仮面をつけ、風の通り道を象徴する丸型の神殿が多い。
エヘカトトンリ(Ehecatotontli)【アステカ神話】
エエカトルに仕える小さな風の神々(風の子どもたち)。 ナワトル語で「-tontli」は“小さい”を意味し、 そよ風・季節風・突風など、風の細かな働きを担当する存在として描かれる。
ミクトランパチェカトル(Mictlanpachecatl)【アステカ神話・北風】
ミクトランパチェカトルは、アステカ神話における北風の擬人化。 名前は「ミクトラン(冥界)+パエカトル(風)」で、 “地獄へ向かう風=死の世界から吹く冷たい北風”を意味する。
アステカでは冥界は北にあるとされ、
ミクトランパチェカトルは魂を苦しめる冷風として恐れられた。
兄弟神として、
- シワテカヨトル(南風)
- トラロカヨトル(西風)
- ヴィツトランパエカトル(東風)
の三柱がいる。
これら四柱は四方位の風の神格としてまとめて扱われることがある。
シワテカヨトル(Cihuatecayotl)【アステカ神話・南風】
シワテカヨトルは南風の擬人化にあたる神。 名称は「南の方向性・南の力」を示し、 暖かい風、雨期を運ぶ南風として描かれる。
農業と豊穣に結びつき、吉兆の風とされる地域もある。
トラロカヨトル(Tlalocayotl)【アステカ神話・西風】
トラロカヨトルは西風の擬人化の一柱。 名前は「トラロックの性質/トラロックに属するもの」を意味し、 雨雲と嵐を運ぶ湿った西風として表現される。
雨の神トラロックの眷属に関係し、水の循環と風の動きに密接に関わる。
ヴィツトランパエカトル(Huitztlampaehecatl / Huitztlampāēcatl)【アステカ神話・東風】
ヴィツトランパエカトルは東風の擬人化。 名前は「Huitztlan(東)+paehecatl(風)」に由来し、 日の出とともに吹く風・新しい周期を運ぶ風として象徴される。
四方向の風の神の中では、
再生・新生・吉兆のイメージを持つ場合もある。
セト(Set)【エジプト神話】
セトは古代エジプト神話の混沌・暴風・砂嵐・砂漠を司る神。 生産・保護の力と破壊・混乱の両面を持つ「二面性の神格」として知られる。
砂漠の暴風(カムシン)を象徴し、
砂嵐や嵐・強風を引き起こす神として恐れられていた。
一方で、太陽神ラーの船を守り、
冥界の大蛇アポピスと戦う「守護神」としての側面も持つ。

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