3:英雄と戦う怪物蛇|退治譚に登場する大蛇の種類
英雄が挑む怪物蛇をまとめ、特徴・能力・物語上の位置づけを解説します。退治譚で語られる戦いの意味や、地域によって異なる怪物像を読み解くことで、蛇が試練の象徴となった背景を理解できます。
- アヤタル(Ajatar / Ajattara):フィンランド民間伝承に登場する邪悪な女性の精霊で、しばしば蛇やドラゴンの姿で現れる。疫病や病気をもたらす「森の悪魔」とされ、蛇に授乳する女悪魔として描かれることもある。
- アンフィスバエナ(Amphisbaena):ギリシア伝承の両端に頭をもつ二頭蛇。砂漠や戦場に現れ、強い毒を持つ怪物として旅人に恐れられた。
- エキドナ(Echidna):ギリシア神話に登場する半人半蛇の怪物で「怪物たちの母」。キマイラやケルベロスなど多くの怪物の母として地下世界と恐怖の象徴となる。
- イルルヤンカシュ(Illuyankas / Illuyanka):ヒッタイト神話の巨大な蛇。雷神タルフンと敵対し、季節の循環や洪水を象徴する神話的存在として語られる。
- グローツラング(Grootslang):南アフリカの伝承に登場する象と蛇を合わせた巨大怪物。洞窟に財宝を蓄え、それを守る欲望と恐怖の象徴とされる。
- サーペント(Serpent):ヨーロッパ各地の民話で語られる「怪物的な蛇」の総称。巨体・毒・災厄の象徴であり、英雄に討伐される存在として登場する。
- ザッハーク(Zahhāk / Zahhak / Aži Dahāka):ペルシア神話の暴君。肩から二匹の蛇が生えた怪物王として描かれ、悪の支配と堕落の象徴。英雄フェリドゥーンにより打倒される。
- ジャブダル(Jabdar / Dyabdar / Дябдар):シベリア・エヴェンキ族の神話に登場する巨大蛇の神格。地中に住み、身体の動きで川や地形を作ったとされる、創造に関わる蛇の存在。
- シュガール(Sugaar):バスク神話の雷・嵐の男性神。しばしば巨大な蛇またはドラゴンの姿で現れ、天空の炎や稲妻と結びつけられる。
- シウコアトル(Xiuhcoatl):アステカ神話の「火の蛇」。太陽神ウィツィロポチトリの武器として知られ、火炎・太陽の力・戦の破壊力を象徴する存在。
- ピウチェン(Piuchén / Peuchen):チリ南部・マプチェ族の伝承の有翼吸血蛇。口笛のような音とともに現れ、血や生命力を奪う怪物として恐れられた。
- ピスハンド(Pisuhand / Pisuhänd):エストニア伝承の蛇・火の玉のような害霊。家畜を盗む精霊として知られ、呪術と結びつくこともある。
- ヒュドラ(Hydra / Lernaean Hydra):ギリシア神話の多頭の大蛇。首を切ると再生する能力を持ち、ヘラクレスの十二功業の一つとして討伐されたことで有名。
- ピュートーン(Python):ギリシア神話の大蛇で、デルポイを守る存在。アポロンに討伐され、その地が神託の聖地となった由来を持つ。
- ボイタタ(Boitatá):ブラジル先住民の伝承の火をまとった蛇。森や自然を守る一方、破壊者を焼き尽くす強烈な守護/脅威の両側面をもつ。
- ボティス(Botis):中世悪魔学に登場する蛇に似た悪魔。蛇体に人の上半身を持つ姿で描かれ、予知能力を持つが恐怖を象徴する存在。
- ムシュフシュ(Mušḫuššu / Mushkhushshu):バビロニアの王権を守護する複合怪物(蛇+獅子+鳥)。イシュタル門のレリーフで有名で、都市と王の守護獣として崇められた。
- ムシュマッヘ(Mušmaḫḫu):メソポタミア神話に登場する七つ頭の巨大蛇。混沌や災厄を体現し、神々に討伐される対象として描かれる。
- ミズガルズ蛇(Midgardsormr / Jörmungandr):北欧神話の世界蛇ヨルムンガンド。地球を取り囲むほどの巨体を持ち、終末ラグナロクでトールと相打ちになる運命の怪物。
- リントヴルム(Lindwurm / Lindworm):中欧・北欧の伝承に登場する翼のない蛇龍。村を荒らす怪物として恐れられ、英雄による退治譚の代表的存在。
- ワルタハンガ(Walahanga):ソロモン諸島の神話に登場する蛇の女神。八つ裂きにされても雨とともに蘇る不死性をもち、破壊と恵みの両側面を持つ神格。
- ザルティス(Zaltys / Žaltys):リトアニア・ラトビアなどバルト地域で家の守護神として崇拝された聖なる草ヘビ。豊穣と幸福の象徴で、殺すことは大きな禁忌とされた。
- デルピュネー(Delphyne):ギリシア神話に登場する蛇身の女怪。アポロンの敵として語られ、デルポイの聖地成立に関わる「蛇退治譚」の別伝承として登場する。

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