日本神話・伝承・説話・軍記物語に登場する武器
- 天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ / 草薙剣) — スサノオが八岐大蛇の尾から取り出した剣。のちに「草薙剣」と改称され、三種の神器の一つとして天皇家の王権を象徴する。現在は熱田神宮に奉納されているとされる。
- 天羽々斬(あめのはばきり) — スサノオが八岐大蛇を討つ際に用いた十束剣。大蛇の尾を斬った際に刃が欠け、中を調べたことで天叢雲剣が発見されたと記紀に記される。名称は「天をも切り裂く大刃」を意味する。
- 伊都之尾羽張(いつのおはばり) — イザナギが火の神カグツチを斬った剣。十束剣の一つであり、天地創造の段階で最初に流された「神代の血」の象徴として扱われる重要な剣。
- 生大刀(いくたち) — 大国主が根の国でスサノオから授かった剣。同じく授与された生弓矢とともに八十神を倒し、葦原中国を平定したと伝わる。現在は奈良県の美具久留御魂神社に奉納されている。
- 布都御魂(ふつのみたま) — 神武東征の際、タケミカヅチが神武天皇に授けた剣。平定と国家統一を象徴する武器で、物部氏が奉斎した剣として古代国家の祭祀にも深く関わる。石上神宮に伝わる「布都御魂剣」と関連づけられる。
- 大量(おおはかり) — アヂスキタカヒコネ神が所有した剣。アメノワカヒコの葬儀に訪れた際、ワカヒコと容姿が酷似していたため誤解を受け、怒って喪屋を切り倒したという逸話が残る。
- 十束剣(とつかのつるぎ) — 「握り拳10個分の長さ」を意味する一般名詞的な剣名。記紀には複数登場し、特定の一本ではなく“長大な神剣”をマクロに指す語として理解される。
- 八握剣(やつかのつるぎ) — 十種神宝の一つ。八握=八つの拳の長さを示す。武力と呪力を併せ持ち、呪術的意味を帯びた神器として扱われる。
- ソハヤノツルギ — 『田村語り』や坂上田村麻呂伝説に登場する稲瀬五郎俊宗の剣。大嶽丸退治などで用いられ、「神通の剣」と記される写本もある。現存する古刀「騒速(そはや)」にこの逸話が仮託されたと考えられている。
- 倶利伽羅剣(くりからけん) — 不動明王が用いる降魔の利剣。田村将軍の父・藤原俊仁を討ったとされる説話を含み、刀身に龍が巻きつく「倶利伽羅龍」の図像で知られる密教系の象徴武器。
- 三明の剣(さんみょうのけん) — 鈴鹿御前(または立烏帽子)が所有する三振りの剣。顕明連・大通連・小通連の総称で、「鈴鹿系」(立烏帽子が最初から所有)と「田村系」(大嶽丸が持ち、鈴鹿が奪う)の二系統の物語が存在する。
- 村雨(むらさめ) — 曲亭馬琴『南総里見八犬伝』に登場。犬塚信乃が所持する刀で、刀身が常に水気を帯び、斬った後に血を洗い流すという性質から“雨のような刃”と称された。
- 物干竿(ものほしざお) — 佐々木小次郎が用いたとされる長大な刀(約1m)。巌流島の決闘ではその長さゆえに扱いづらく、鞘を捨てた小次郎を見て宮本武蔵が「小次郎敗れたり」と言ったと伝承される逸話で有名。
アイヌ神話に登場する武器
- イペタム — 各地のアイヌ伝承に登場する「人喰い刀」。意思を持って飛び回り勝手に人を斬るとされ、止めるには特別な祭祀や呪的処置が必要と語られる。ピンネモソミ(男剣)・マッネモソミ(女剣)など、個別名を持つ刀も多い。
- クトネシリカ(クトネシリカ / 虎杖丸) — 『ユーカラ』に登場するポンヤウンペが所持する刀。刀身に龍・狐などのカムイが宿り、危機の際に顕現して主人を守る霊刀。金田一京助が採集した資料では「虎杖丸(いたどりまる)」とも呼ばれる。
中国神話・古代伝承の武器
- 干将・莫耶(かんしょう・ばくや) — 『呉越春秋』などに登場する中国の名工・干将とその妻・莫耶が鍛えた二振りの名剣。男女一対の霊剣として扱われ、後世の武器伝承に大きな影響を与えた。中国の名剣伝説の象徴的存在。
- 泰阿 / 太阿(たいあ) — 『越絶書』『楚辞』に登場。楚王が名匠・風胡子を召し、干将・欧冶子(越の鍛冶)に造らせた三名剣の一本。楚の王権と威厳を象徴し、国家存亡の場面で霊力を発揮するとされる。
- 軒轅剣(けんえんのけん) — 『抱朴子』『名剣記』などに記される黄帝(軒轅)が持っていたと伝わる伝説の神剣。本来の固有名は不明であり、所有者の名を冠して「軒轅剣」と呼ばれる。中国最古級の神王剣として神格化された存在。
- 画影剣(がえいけん) — 『拾遺記』より。第二代帝・顓頊(せんぎょく)が所有した飛行する神剣。指し示した方向の敵を自動で斬るという神話的兵器で、収めているときは竜や虎のように吼えると伝わる。
- 毒匕寒月刃(どくひ・かんげつじん) — 『史記』より。名匠・徐夫人(じょふじん)が隕石由来の寒気を発する鉱物を鍛えた匕首(短剣)。鉄を泥のように切り裂き、不徳の者に災いをもたらすとされる。秦王政(始皇帝)暗殺計画で用いられた匕首の原型伝説とも重なる。
- 神銀剣(しんぎんけん) — 彝族(イ族)神話の英雄・支格阿龍(ジーグアロン)が使用した霊剣。銀の神金から鍛えられたとされ、悪霊を退ける守護の力を持つ。
- 三尖両刃刀(さんせんりょうじんとう) — 道教神・二郎真君(楊戩)の主武器。槍と刀を合わせた形状で「三尖二刃」の異形武器として描写される。『封神演義』では妖魔討伐に使用される。
三国志演義に登場する武器
- 倚天の剣(いてんのけん) — 曹操が名工に作らせた宝剣の一つ。名は「天をも支える・貫く剣」を意味し、威厳ある象徴として描かれる。
- 青釭の剣(せいこうのけん) — 倚天剣と対をなす曹操の宝剣。青白い光を放ち、鉄を泥のように断つとされる。夏侯恩が所持していたが、長坂坡の戦いで趙雲に討たれ、剣は奪われた。
- 古錠刀(こじょうとう) — 孫堅が帯びたとされる剣。呉の祖である孫氏の威信を象徴する武器として物語に登場する。
- 青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう) — 関羽が振るう巨大な大刀。別名「冷艶鋸(れいえんきょ)」「関刀」。青龍を象った刃から霊威を帯び、関羽の義と武勇を象徴する武器。
- 双股剣(そうこけん) — 劉備が帯びたとされる二本一対の剣。日本では「雌雄一対の剣」と呼ばれ、のちに金庸『鴛鴦刀』でも象徴的な双刀として再登場する。
水滸伝に登場する武器
- 玄元混天剣(げんげんこんてんけん) — 道士・包道乙が使用した法術剣。術によって百歩先の敵にも飛んで斬りつけるという霊剣。
- 黄金丸(こがねまる) — 横山光輝版『水滸伝』での創作。豹子頭・林冲が買い叩かれた名刀で、物語的象徴として扱われる。
- 松文古定剣(しょうぶんこていけん) — 公孫勝が用いる術具の剣。道法を象徴し、雷霆や雲気を操る儀式的武器として描かれる。
- 吹毛剣(すいもうけん) — 『新・水滸伝』に登場。楊志が所持した宝剣で、毛を吹きかけるだけで切断されるほど鋭利とされた伝説的剣名。
- 劈風刀(へきふうとう) — 石宝が wield する大刀。三重の鎧すら「風を裂くように」切り裂くとされる、水滸伝随一の破壊力を誇る武器。
封神演義に登場する武器
- 誅仙四剣(ちゅうせんしけん) — 通天教主が持つ四振り一組の霊剣。誅仙剣・戮仙剣・陥仙剣・絶仙剣の総称で、四剣を配置して張る「誅仙陣」は作中最強級の結界として知られる。他に「紫電槌」「六魂旛」も同じく仙術兵器群に属する。
- 瑤池内白光剣(ようちないはっこうけん) — 竜吉公主が所有した霊剣。瑤池金母(西王母)の仙境に由来する光を宿し、邪気を払う神剣として描かれる。
世界のその他の伝承に登場する武器
【1】ユーラシアの英雄叙事詩・国家伝承
- Dzus-qara(ズスカラ) — コーカサス・オセチア地方の叙事詩「ナルト叙事詩」に登場。大英雄バトラズが奪い取り、武器の神サファが鍛えた神剣。ナルト族の神域の鍛造技術を象徴する霊剣として描かれる。
- アッティラの剣(Sword of Attila / Isten kardja) — 羊飼いが土中から拾ったとされるフン族の王アッティラの剣。「神の剣」「マルスの剣」とローマ側史料で呼ばれたが、フン族はローマ神マルスを信仰しておらず、異文化解釈による名称とされる。遊牧王権の象徴。
- 順天(じゅんてん)の剣 — ベトナム後黎朝の始祖・黎利が、漁師の網にかかった刃と木の枝に引っかかった柄を組み合わせて得た魔剣。のちに黎利の大望を助け、国家成立の象徴となった。
- アチャルバルス — キルギス民族叙事詩『マナス』に登場。大英雄マナスが帯びる戦いの剣で、遊牧戦士の威厳と部族統率を象徴する武器。
- ブルンツヴィークの剣 — チェコの伝説的王ブルンツヴィークが持つ、黄金の魔剣。命令を口にするだけで敵の首を落とすことが出来ると伝えられ、王権と正義の象徴として語られる。
【2】キリスト教・中東系の伝承
- クリューサーオール(Chrysaor / Chrysaor’s Sword) — 16世紀イギリス文学『妖精の女王』で、騎士サー・アルテガルが帯びる黄金の剣。神の正義と秩序を象徴し、寓意的に「真実を切り開く神剣」として描かれる。
- ズルフィカール(Dhu al-Fiqar) — 預言者ムハンマドが天使ジブリールから授かったとされる伝説の曲剣。二分岐の刃を持つことでも有名で、のちにアリー・イブン・アビー・ターリブへと継承され、イスラム世界で最も聖なる武器の一つとなった。
- アル・マヒク(al-Mahīq) — 『千夜一夜物語』に登場。イラク王ガリーブの霊剣で、天地を切り分けるほどの威力を持つとされる、アラブ・イスラム世界の神話的剣。
- ジャンヌ・ダルクの剣 — ジャンヌが「天からの声」に導かれ、フィルボアの聖カタリナ教会で発見したと伝わる聖剣。白百合の紋を帯び、神意の証として扱われた。
- 炎の剣(Flaming Sword) — シュメール神話のアサルルドゥ、旧約聖書の智天使(ケルビム)、北欧神話のスルトなど、世界中で「聖なる炎をまとった剣」としてモチーフが伝わる共通象徴武器。
- ムハンマドの九本の剣 — Al-Qadib、Al-Rasub、Al-Mikhdham、Al-‘Adb などを含む九振りの剣。いずれも預言者ムハンマドの所有物と伝わり、イスラム世界で極めて高い神聖性を帯びる。
【3】イラン(ペルシア)神話
- シャムシール・エ・ゾモロドネガル — イランの英雄譚『アミール・アルサラーン』に登場。ソロモン王由来の宝剣で、魔物を滅ぼす力を持つ「悪魔殺しの剣」。
- スラエータオナの剣 — 『アヴェスター』由来のイラン神話。英雄スラエータオナ(フェリドゥーン)が、世界を脅かした怪物アジ・ダハーカを傷つけた剣として伝わる。
【4】アフリカ神話・民話
- Mmaagha Kamalu(マアガ・カマル) — ナイジェリア・イボ族の戦神カマルが持つ剣。悪意ある者が近くにいると赤く輝き、地に打ちつければ振動を起こす「警告と制裁の剣」。
- ギネイ(Ginei) — 西アフリカ神話に登場する大英雄アナンシの魔法の剣。策略と物語の神であるアナンシの象徴として語られる。
【5】北欧・ゲルマン世界の伝承
- バルムンク(Balmung) — 『ニーベルンゲンの歌』に登場するジークフリートの剣。北欧神話のグラムがモデルとされる霊剣で、巨人・竜も断つ英雄武器の代表格。
- グンフィエズル(Gunfjaðr / Gunfiezur) — ドイツの民話に由来。「戦の羽飾り」の意を持ち、名馬グトルファフシと共に帯びると幸運が訪れるとされる、付喪的な護りの剣。
【6】ギリシア神話
- ハルペー(Harpe) — 曲刀状の刃をもつ神剣で、ヘルメス神が使用したものが有名。クロノスが天を治めていた時期にウラノスを去勢した“神々の革命”の剣としても象徴され、ギリシア神話における支配交代を象徴する武器。

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