上方落語『時うどん』|無料で読むテキスト落語

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時うどん – ときうどん

 

物売りにはそれぞれ売り声というものがございます。竿竹売りは「さーおやー、さおだけ」と長く伸ばしてございますな。これが「さおだけっ、さおっ」てな、せわしない売り声ではどうも具合が悪うございます。

売り声にはそれぞれ季節感というものがございます。金魚売てなものは夏のもんですな。「き~んぎょ~ぇ、金魚」ああ、夏やなぁ、という気がいたします。

一方、冬の売り声の代表といえばうどん屋さんですな。「うど~んや~ぇ、おそば」

 

喜六清やん、おもろかったなぁ
清八おもろかった。「冷やかしゃ郭の一の客」ちゅうけどおもろかった。しかも金がかからんところがええが。
喜六また行こな
清八おう、腹減ったな。何ぞ食おうか
喜六なんぞ食お、なんぞ食お。わい、腹ペコペコに減ったんねん
清八金持ってるか?
喜六金てなもんは...ほら、懐から銭が八文出て来たが
清八八文! 八文て、いったいどんな八文や?
喜六いや、ただの八文や
清八たったの八文かい?
喜六いや、たたったも座ったも寝転んだもない、八文や
清八おぅ、きー公、お前歳はなんぼになんねん。八文てな銭持ってウロウロすな、情けない。八文てな銭、ポンポーンとその辺に撒いてしまえ!
喜六清やん、そんなボロクソ言いないな。ほんなら清やん、なんぼ持ってんねん
清八なんぼて...そんななんぼ銭が無いちゅうたかて、限度っちゅうもんがあるがな。そんなもん、懐を探しゃぁ...見てみい、シュッシューッと...七文出てきたが
喜六七文!? 七文て、いったいどんな七文や?
清八いや、ただの七文や
喜六たったの七文かい?
清八いや、たたったも座ったも寝転んだもない、七文や
喜六おぅ、清やん、歳はなんぼになんねん?
清八おんなじように言うな! 情けない、二人合わせて十五文かい? まあ、ええわ。これでうどん食お
喜六清やん、うどんは二八の十六文やがな。これではうどん食われへんがな
清八ええがな、一文くらいわいがなんとかしょ。
喜六一杯しか食われへん
清八そらしゃぁないがな。わいが先に食うて、半分お前に残しといたるがな
喜六半分づつか...
清八そうせなしゃぁないがな...おう、ちょうどええ。うどん屋の屋台が出てるで...

うどん屋!

うどん屋壱あ、お寒うございます
清八一杯つけて
うどん屋壱すぐにいたしますんで
清八頼むで、早うしてや!
うどん屋壱できました
清八お、もう出来た! 早いやないけ、うれしいなぁ。この寒い晩に、うどんが頼んだ横からスッと出てくるやなんて、うれしいやないけ。よばれるわ。

(ずずずずずすっ)

いや、結構! ホンマもんのかつお節のダシ使うとる。いやいや、うどんは粉が少々悪うてもダシが肝心や。(ズルズルズルッ・・・シュバシュバッ)

またなかなか粉がしっかりしてて結構、しっかりしてる中にツルッとして、腰がしっかりしててまた結構や...おなごとうどんは腰が肝心...な、なんや...後ろからひっぱったらダシがこぼれるやないか。半分になったら代わったるて。そんな食い初めから引っ張ってどないすんねん。

(ズズズズズズスズッ...ズリズリズリッ...ジュバババババッ..チュルルルル...シュババッ)

ひっぱりないな! おツユがこぼれたやないか、半分になったら代わってやるちゅうてるやろ。見てみい、うどん屋のおっさん、顔見て笑うてるで、恥ずかしいやっちゃなぁ...ちょっと待ってぇ!

(チュバババババ....ずるずるずる...シュババババ...ツルッ)

引っ張りな! そんなに食いたい? ほんなら食うたらええが! ほら、食え

喜六食うがな! 当たり前やで、わいかて八文ちゅう銭出してんねんやさかい! ...なにかい、清やん...このうどん、八文かい?
清八八文やないか
喜六(グスッ)...うどん...二筋しかあらへん...
清八ぼやきないな、早う食え
喜六ぼやかしてくれ! こんなもん、どないもなれへんがな...いただきまーす(チュル)ごっそさん、てもう済んでしもうたがな...あとは汁ばっかりや...

(じゅるるるるる)

うぇ~、もうお終いや

清八泣きないな! 鉢返しとくわ。いや、おかわりはええ。また明日の晩にでも食わしてもらうわ。ごちそうさん、ほんなら勘定頼むわ。ちょっと銭が細かいさかい、あんじょう数えてや。いくで、うどん屋

一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、 今何どきや?

うどん屋壱へい、九つで
清八十、十一、十二、十三、十四、十五、十六と、ほなさいなら!
うどん屋壱おおきに、ありがとさんです
喜六清やん、ちょっと清やん、おまえ嘘ついてたな、七文しかあれへんちゅうて、ほんまは八文持ってたんやな
清八なに? お前分からんのかい? よう考えてみい。八つまで勘定したところで、わいが「いま何どきや」てうどん屋にきいたやろぅ。そしたらうどん屋が「九つで」ちゅうから、そのあと「十、十一、十二、十三、十四、十五、十六」と数えたっちゅうこっちゃ
喜六え? 何やて...八つまで数えて、「いま何どきや」ちゅうてうどん屋が「九つ」ちゅうたら「十、十一...」

あ、九つだけうどん屋が勘定しよったんや! うわぁ、おもろい、明日わいもやったろ!

清八あかん、あかん、こんなん息と間がだいじや。お前にできるかい
喜六なんの、お前にできてわいにできんちゅうことがあるかい! 明日の晩、やったんねん!

 

と、この男、明くる晩でございますが、同じ時刻に行けばなんてことございませんでしたのに、ちょっと抜けてますさかい、まだ明るいうちから小銭をたもとに入れまして、うどん屋を探して歩いております。

 

喜六おもろかったなぁ、おもろかったやないかい、夕べは...一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つと数えてきて、「うどん屋、今なんどきや!」と...ここは気合入れて聞かんならんで...うどん屋が「九つで」ちゅうたらこっちのもんや! 十、十一、十二...とぶちかましたんねん!

うどん屋、出てこい!

お、いてたいてた、あんなとこにうどん屋の屋台が出てるわ。へへへっ、何も知りやがらんと...おめでたい...

おぅっ、うどん屋!

うどん屋弐へい、いらっしゃ
喜六一杯つけて
うどん屋弐へい、ちょっとお待ち願います。すぐしますで...
喜六ああ、早うして...

...........................

...........................

ほんまやで、ほんまやで、ほんまやで

うどん屋弐何がほんまですの
喜六いや、こんな寒い晩に
うどん屋弐今日はだいぶ暖ったこうございますな
喜六いや、夕べは寒かった...いや、こういうあんまし寒うない晩にやで、うどん屋、熱いうどんがすぐに出てくるとご馳走なんやけど

...........................

まだ? まだでけへんの? 湯が沸いてなかった? そらはばかりさん...

...........................

まだ? なんぼなんでもちょっと遅すぎんのとちゃう?

あ、できた? できましたか... この、あんまし寒うない晩に、うどん屋で待たされるっちゅうのもまたご馳走やで、ほんまやで、うどん屋、この熱いうどんが...少々ぬるいね...いやいや、この方がすぐに食えてええんや。おまはん、石田三成ちゅう名前とちゃうか? うどん屋...こんなもん、粉が少々悪うてもや、ダシが肝心やで、ホンマもんのかつお節使うて(ズルズルッ)...にが~...いや、少々ダシは苦うてもや、うどん屋、うどんが(ズルズルズルッ)ぐにゃぐにゃやがな...ええねん、ええねん、わい胃の具合が悪いねん。ちょうどええわ。うどんのおじやや...  もう嫌になって来た...

おぅ、引っ張りないな...お汁がこぼれるやないか

うどん屋弐へ? な、何言うてまんねん
喜六いや、こんなもん息と間や。夕べとおんなじようにやらんと同じ息と間にならんやないか、そんなことも分からんか?
うどん屋弐いや、分かりまへん...
喜六へっ、黙ってぇ、うどん屋。今に見て腐れ! ボケ...

(ズルズルッ...チュルルルルル)

引っ張りないな...お汁がこぼれる...おっさん顔見て笑うてるで

うどん屋弐いや、わて、笑うてしまへん...どっちか言うたら心細ーなってまんねん...
喜六ほっとけ、どアホ、夕べと同じようにやらんと同じ息と間にならんちゅうことが分からんか!

(チュルルルル...ジュパパパパパパパっ)

引っ張りないな、そない食いたいっちゅうのか、ほんなら食うたらええが、食うがな、食うがな

うどん屋弐な、何言うてまんねん
喜六清やん、このうどん八文か?
うどん屋弐いや、お客さん、他のことは何言わはっても結構でおますけど、値の事はハッキリさしときまっせ、そのうどん十六文でっさかい
喜六黙ってぇ。うどんが十六文くらいの事は分かってるわい! 今に見とれよ...(グスッ)うどんが二筋しかあらへん...
うどん屋弐いや、それあんさんが食べはった...
喜六分かってるわい! ぼやかしてくれ、こんなもん、どないもなれへんがな...いただきまーす(チュル)ごっそさん、てもう済んでしもうたがな...あとは汁ばっかりや...この苦いダシ飲まなあかんのか...

(じゅるるるるる)

うぇ~、もうお終いや、泣きないな、鉢返しとくわ

うどん屋弐やっと終わりましたか...ほっとしましたわ...
喜六うどん屋、銭が細かい、手ぇ出してんか。あんじょう勘定してや。行くで。

へへ、気の毒に...

一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、 今何どきや?

うどん屋弐へい、四つで
喜六五つ、六つ、七つ、八つ...

 

時うどんという馬鹿馬鹿しいお噂でございました。

 

引用元:「東西落語特選」
http://www.niji.or.jp/home/dingo/rakugo2/

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