上方落語『紙入れ』|無料で読むテキスト落語

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紙入れ

 

世の中はいろんな人間関係がございますが、よく「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世で、間男はよせ」てなことを申します。相手があるのに、また別の異性と、ということは昔からあることでございます。

 

昔は、「間男は、七両二分と値が決まり」と申しました。ああいうことがバレてしまって、示談金ということになると、七両二分(およそ150万円くらいの感覚) と相場が決まっていたそうです。

 

「この野郎、まったく、とんでもねぇやろうだ!ぶっ殺してやらぁ!!」
「か、かんべんしてくれよ、熊さん、出来心なんだよォ」
「なにが出来心でぇ!チキショウ!人のかかぁ取りやがって、チキショウ!ぶっ殺してやらぁ!!」
「いやいや、頼むよ、今日はじめてなんだ、いっぺんきりなんだ」
「いっぺんにへんなんて知るか!どうしてやろうか!」
「示談にしてくれねぇかなぁ」
「へっ、そうか、じゃあ、七両二分持って来い!」
「七両二分……って言うけどさぁ、おれ、そんな大金払えねぇや、三両に負けてくれねぇかなぁ」
「この野郎、間男代値切ろうってのか…ったく、わかったよ、三両持って来い!」
「わかった、すぐ支度してくるから……うぁぁ、やっちまったなぁ、魔が差しちまったんだよ、いけねぇとは思ったんだよ…でも三両ったって大金だよ、カカァになんて言おうか……、お、おっかぁ、いま帰った…」
女房「おや、どうしたの、お前さん、真っ青な顔して。何かあったのかい?」
「あったじゃないんだよ、おっかぁ…すまねぇ、訳は聞かずに、黙って三両……支度してくれねぇかなぁ」
女房「何を言ってるんだい、この人は。三両ったら大金じゃないか。えぇ?わけも聞かずに支度できないよ、なにに使うんだい?」
「え?どうしても駄目かい?そうだろうなぁ、そ、それじゃ話をするけど…かんべんしてくれよ、おっかあ、実はさ」
女房「あぁ…あぁ…お前さんが?なんだよ、熊さんとこのカミさんと?おんなじ長屋じゃないか、やらしいねぇ、まったく。やだやだ、まったく……それで、熊さんが、三両よこせってのかい?ふーん…で、いつからなんだい?」
「今日はじめてなんだよ!一回きりなんだよ!」
女房「ふーーん……一回三両かい?……じゃあ、熊さんにそう言って、差し引き六両もらっておいで」

ピンとこないかたは、改めて計算していただいて……

「町内で知らぬは亭主ばかりなり」不思議なもので、ああいうことは、町内で噂になりましても、寝取られた方の亭主野郎の耳には入らないと、昔からそういうものなのだそうでございます。

「へーぇ、なるほどね、へへっ、そんなことがあるかねぇ、へへっ、面白いもんだね」
「おいおい、源ちゃん、源ちゃん、どしたぃ、なんだい、ニヤニヤしちゃって。なんかあったのかい?」
「いや、いま、おれ面白い話聞いたんだけどね、なまじ、人に話せねぇんだよ、これ」
「えぇ?いいじゃねぇか、友だちじゃねぇか。なんだい?」
「いや、話してもいいけどね、はっはっは、おめぇ、口は固てぇか?」
「おれ、口は固てぇよ、なんだい?なんの話?」
「ハッハッ、この町内でね、間男騒動だよ」
「この町内で間男騒動??そういう話はすきだねぇ、おれは。で、誰と誰だい?」
「豆腐屋のカミさんと、建具屋の半公」
「豆腐屋のカミさんと、建具屋の半公?なるほどなぁ、いや、豆腐屋のカミさんは年増だけど、ちょいと色っぽいしね、建具屋の半公はいい男だよ。あ、そうか。言いやしねぇよ、こんなことを。いゃ、どうもありがと、教えてくれて…へへっ、なるほどね、面白れぇ話じゃねぇかなぁ…言っちゃいけねぇんだよな……言いてぇ…言いてぇなぁ、へへっ。でも、誰彼ってわけにゃ…おおっ、茂ちゃん、茂ちゃん」
「なんだ?」
「おめぇ、口は固てぇか?」
「なんでぇ、いきなり。おれは口は固てぇよ。なんか面白れぇ話でもあんのかい?」
「誰にも言っちゃいけねぇよ、おめぇだけに言うんだから。あのね、町内で間男騒動」
「本当かぃ?」
「豆腐屋のカミさんと、建具屋の半公だってよ」
「へーぇ、そうか、へぇっ、いや、ありがとう、誰にも言いやしねぇよ。おれは口は固てぇんだ、ありがと。なるほど、そうか…おい、みんな集まれ!」
「なんだよ」
「おめぇら、口は固てぇか?」
「なんだよ、口は固てぇよ、なぁ、なぁ」
「そうか、じゃぁ、おめぇらに言うけど、誰にも言っちゃいけねぇよ。町内で間男騒動だよ。豆腐屋のカミさんと、建具屋の半公だってよ。誰にも言うなよ」
「言わねぇ、言わねェ」
「おっ、与太郎がいやがった……おい、ちょっと来い!」
与太「えっ、うへへへへっ」
「おい、話しは聴いてたかい?」
与太「聞いてたよ、間男だってんでしょ、町内で…フフフ、豆腐屋のカミさんと、建具屋の半ちゃんが」
「この野郎、聞いてやがったな。いいか、そんなことは、脇ィ行ってしゃべるんじゃねぇぞ」
与太「わかってますよ、そんなことは。あたしゃ口が固いんだから、ウヒヒヒヒ、言ってやろー。なまじな人に言っちゃいけないんだよね、信用の置ける人に言わないとね。ひとりだけ言ったら気が晴れるんだからね…あぁ、あの人がいいね、ウヒヒ、おじさーん!」
「おぅ、なんだい?」
与太「おじさん、口が固いかい?」
「なんだい、いきなり。おれは口は固てぇよ。なんか面白い話があるのかい?」
与太「うふふ、面白い話があるんだけど、脇ィ行ってしゃべってもらっちゃ困るんだよネ、うふふ。聞きたい?」
「聞きいた。誰にもしゃべりゃしねぇよ。なんだい?」
与太「うへへ、この町内で間男騒動」
「おっ、おれぁ、そういう話は好きだよ。へぇ、誰だい?間男やってんのは」
与太「うへへっ、建具屋の半ちゃんと、
「建具屋の…あぁ、野郎、いい男だからな。で、女は?」
与太「町内の豆腐屋のオカミさん」
「あ、そうかい、豆腐屋の……うちじゃねぇかよ!そうかーっ、半公の野郎、用もねぇのにうちの周りをうろうろ、うろうろしてやがると思ってたんでぇ!おぅ、ありがとよ、教えてくれて!」
与太「誰にもしゃべっちゃだめだよ」

 

なんだかワケがわかりません。

「間男は、亭主のほうが先に惚れ」とか申します。「こいつは、おれが可愛がってる若い衆なんだよ。お前のよろしく頼むよ」「はい、わかりました」なんてのがきっかけとなりまして、いい仲になっちまう、なんてのがよくあったんだそうで…

 

女房 ねえ、新さん、落ち着かないじゃないか。ねぇ。せっかくなんだから、一杯やろうよ、支度してあるんだから……ねぇ……新さん、どしたんだよ
新吉おかみさん、あたし、やっぱり帰りますよ…洒落になりませんよ。おかみさんとこんな仲になっちまって、あっしゃね、いけねぇと思ってるんですよ。今日を潮に、おしまいにしませんか?
女房何を言ってるんだよ、新さん、寂しいじゃないか、そんなこと言っちゃやだよ。えぇ? だったらなんで来たんだい?あたしに会いたかったんじゃないのかい?あたしだって、お前さんに会いたいから手紙を書いたんじゃないか。嫌だったら来なきゃよかったろ?…ノコノコ来たのは、誰だい?……ね、いいじゃないか、一杯やろ!…卵も焼いてあるし、鰻もあつらえたし……もうお床ものべてあるんだよ……新さん
新吉おかみさん、かんべんしてくださいよ、旦那には随分世話になってるんですから…おかみさんとこんなことになっちゃって…
女房もう、じれったいね、この人は。えぇ?旦那が帰ってくるかもしれないってのかい?大丈夫だよ、帰ってきやしないよ。さっき様子を見にやったんだよ。山田さんところでね、案の定、碁が始まっちまって。あそこで碁が始まったら、朝まで帰ってきやしない。朝どころじゃないよ。明日の昼過ぎになるんだよ。お昼をごちそうになって帰ってくるんだよ。だから…だから手紙を書いたんだよ。泊りがけで遊びにおいで、って… 来なきゃいいのに、来たのはそっちだよ。今更なんだよ、んもぅ、じれったいねぇ、この人は

そっか、あはツ、ごめんなさい。聞き取れなかったあたしが悪かったねぇ。そうか。お前さん、他に若い、いい子ができたんだろ。だったらそう言ってくれたらいいじゃないか。熨斗つけてくれてやるんだよ、その子に。あたしだって、こんなおばあちゃんだし、亭主があるんだし、いつまでも、とは思っちゃいないやね。だったら言ってくれりゃいいんだ……あっ、そっか……他にできたんだ、ふーん……そりゃ、若いほうがいいもんね。あぁ、そうなんだ……へぇ…

旦那になんて言おう……「あたしが嫌だ、嫌だって言ったのに、新さんが無理やり…」

新吉そんなことしちゃいませんよ、おかみさん、かんべんしてくださいよ!!えぇ、あぁ、あの…と、泊まっていきますよ~

 

なんて、こうなりますと、肝を据えるより仕方がございません。やったり取ったりしているうちに、新公のほうでも「いいか、もう、泊まっちまおう。でぇじょうぶ、でぇじょうぶ、おかみさんがこう言ってるんだから」と思ったところに

 

女房はい、えっ、なんだい?…旦那が、……帰ってきた?
新吉だから言わんこっちゃ無い、おかみさん、あたしゃいったぃどうしたらいいんでごさいますか!!
女房ぐるぐる回るんじゃないよ、心配しなくていいから

 

そこは百戦錬磨のおかみさんのことでございます。女中の方には小遣いをふんだんに与えておりますから、こいつの方も算段がわかっている。ガチャッとやってしまえば開いてしまう鍵なんですが、ガチャガチャ、ガチャガチャやって時を稼いでいる。その間に、新公の草履から荷物、羽織、そういったものを取りまとめますと、

 

女房じゃ、裏から帰っておくれ、また来ておくれよ
新吉へいっ、ありがとござんしたっ……

はぁぁっ、いゃぁ、冗談じゃねぇや、ったく、あそこのカミさんってのも、いゃぁ、だから言わんこっちゃねぇんだよな……裸足じゃねぇよな、ちゃんと草履履いてるよな、羽織は着た、煙草入れは入ぇってる、と。でぇじょうぶだ…あとは紙入れだな、紙入れ……かみ……あれ?紙入れがねぇよ!忘れてきちゃったよ、あそこのうちへ!…どこ置いたかな、あそこのうちへ行って、「新さん、こっちへ上がっておくれ」と言って上げられた。「おかみさん、いけませんよ」ってなことを言いながら、いつも旦那が座ってる長火鉢の前に座って、そうだ、懐から紙入れ出して、脇へ置いたよ!

あぁ、しくじったねぇ、旦那が帰ってきて、いつものようにあの長火鉢の前に座るよ。脇を見るってぇとおれの紙入れがある。また、あの旦那が、あの紙入れがおれのものだってぇことを知ってるからねぇ。

「えぇ?これ、新公のじゃねぇか、あいつ、来てたのかい?なんだなぁ、もう少し待ってれば、おれ、帰ってきたのになぁ」

ってぇことになるよな。いつも世話になってるんだから、用があるから行きました、しばらく待ってました、お帰りがない、先に帰りました、紙入れを忘れて来ました、と。これでもって話が済まぁ。へへっ、心配するこたぁねぇや。

「なんだ、新公の野郎、来てやがったのか、もう少し待ってりゃよかったのになぁ」てなことを言いながら、紙入れを取り上げる。人情だ、中を見たくなる。見るってぇと…おかみさんからもらった手紙が入ぇってる!

「今夜、旦那、おかえりがないから、泊まりにおいで」って……

いけねぇ、なんであんなものを持ってたかねぇ、後生大事によぉ……えぇ?どうしようかなぁ、逃げちまおうかなぁ……うん、逃げよう!今から駆け出しゃぁ、明け方くらいには、赤坂くらいまではいけるかも知れねぇ。

でもなぁ、手紙……手紙、見られたら、逃げなきゃいけねぇよ、でも、手紙、見られてなけりゃあなぁ、なにも逃げるこたぁねぇんだよ。この町内で商売して、お得意も多いんだぜ、なにも町内離れるこたぁねぇんだよ、ねぇ……

読んでるだろうなぁ、普通読むもんなぁ……いや、でも読んでねぇかもしれなぇしなぁ。読んでなかったら馬鹿馬鹿しい……読むよなぁ、おれなら読むもんなぁ……

あぁ、もう!考えてもしようがねぇ、朝一番であそこのうちへ行ってみよう!そいでもって、「おはようございます」「新公、てめぇはっ!!」と、それから逃げ出しても、赤坂見附くれぇまではいけるかも……

そうだな、そうしよう

 

てんで、うちへ帰って、煎餅布団に柏餅、まんじりともいたしません、明くる朝、早ーくに、旦那のうちへ来ますてぇと、

 

新吉 お、おはよぅございぃ……ぉはよぅござぃ……
旦那 はいはい……おい、誰かきたぜ…あぁ、あたしがナニするからいいよ。はい、どちら様で?……おぅ、なんだい、誰かと思ったら、新公じゃねぇか、おぅ、入ぇんな、入ぇんな
新吉 どうもどうも、旦那……ぉはよぅござぃ
旦那 あぁ、おはよう。随分朝早いじゃないか。まなんでもいいや。こっちへ入ぇんな。話が遠いからよ、こっちへ入ぇんな。
新吉 いや、もう……こちらでけっこうなんです
旦那 おれが話がしにくいんだよ、いいから、入ぇんな!
新吉 アチャチャチャ……へぃ…では、失礼いたします
旦那 ちょっと待ちなよ、入ぇるのはいいけどよ、あとを閉めてきなよ
新吉 いえ……開けっ放しの方が……あと、逃げやすい
旦那 なんだよ、逃げやすいってのは。風が入ぇってくるから、後ろ、閉めてこいよ
新吉 分かりました、ヘィ、ヘィ……どうも、旦那、おはようございます
旦那 おはよう、お前、寝坊って聞いてるぜ。随分早いじゃねぇか、えぇ?どうしたぃ……そうだ、新公、おめぇってなぁ、ひでぇやつだな
新吉 うぇぇっ、だ、旦那、どうもすいません!!
旦那 まったくだぜ、楽しみにしてるんだよ、こっちは。太閤記の続き、早く持ってこいよ。先が気になって仕方ねぇよ
新吉 ……あ、あぁ、貸本のことですか……そんなのどうでもいい……
旦那 よくねぇや、おめぇ、貸本屋だろうが、えぇ?……どうしたんだよ、おめぇ、真っ青な顔して、ガタガタ、ガタガタ震えてやがる。具合でも悪いのか?

え?暇乞い?旅にでも出ようってのか?若いやつってなぁ、やたらめったら旅に出たがるんだ。だけど、水が変わるってことを言うぜ、それにお前、町内にお得意も多いんだろ、こっちでもって商売してるほうがいいだろう。

様子がおかしいな。なんかしくじったのか?だったら相談しなよ、えぇ?銭のことだったら貸してやるんだぜ。

そうでねぇのか……ハッハッハ、分かったよ、朝っぱらから色っぽい話を持ちかけてきやがったねぇ、こいつぁ。こっちのこったろう、女だろう。違うか?へへっ、下ァ向いちゃった。やっぱりそうだぃ。そうかそうか。で、相手は誰だよ?おれがまとめてやるよ!えぇ?相手は、白か、黒か?

新吉 あ……あの……ブチ…なんで……
旦那 犬じゃねぇんだよ、素人か、玄人か、聞いてるんだよ。素人なら、仲人を間に立てて、親御さんにちゃんと話をしていただくようにするし、玄人なら、金を積めばなんとか……おい、なんだな、おめぇってもなぁ、じれってぇなぁ、はっきりしねぇ野郎だ。まぁ、おめぇなんざ、歳も若ェし、そっぽもいいし、間違いも起きるだろう。でもな、新公、話をしておくがな、人の持ち物にだけは、手を出しちゃいけねぇよ。なぁ、「人の女房と枯れ木の枝は、登りつめたら命がけ」ってんだから。

人の女房にだけは手を出すんじゃねぇよ!

新吉 ハァ…ハァ……そ、それがぁ……それがぁ、ぁあのぉぅぅ……て、手遅れェ…なんでごぜぇます
旦那 なんだよ、手遅れって……間男かい?なんてぇことをするんだよ、そうかい、まったく、あぁ、分かった分かった!で、何があったんだぃ?そんなに真っ青な顔になってるってなぁ…ゆうべのこと?ゆうべ、何かあったかい?……ふんふん、相手のおかみさんから手紙が来た……泊まりに行ったのかぃ……ゆうべ!生々しいねぇ、えぇ?それで…やったり取ったりしていたら、ふんふん、帰ぇってこないはずの旦那が帰ぇって来ちゃったのか!!ハァーッ!……気が利かねぇ旦那だなぁ、えぇ?それで、どうしたんだよ。裏から逃げた、あぁ、そうか。そのとき、旦那に見られたのか、姿を?
新吉 あの……見られましたか?
旦那 おれが聞いてんだよ

見られた様子はねぇ?だったら心配するこたぁねぇだろう。なにぃ、紙入れを忘れてきた?あぁ、あの紙入れ、知ってるよ、おれも……手紙が入ぇってんのかよ!そんなもなぁ、もらって読んじまったら、破くとか、燃やすとかするんだよ!まぁ、しようがねぇ…で、その手紙ってなぁ、先の旦那に読まれたのか?

新吉 あの……読まれましたか?
旦那 おれが聞いてんだよ

見られた様子はねぇ?だったら心配するこたぁねぇだろう。なにぃ、紙入れを忘れてきた?あぁ、あの紙入れ、知ってるよ、おれも……手紙が入ぇってんのかよ!そんなもなぁ、もらって読んじまったら、破くとか、燃やすとかするんだよ!まぁ、しようがねぇ…で、その手紙ってなぁ、先の旦那に読まれたのか?

新吉 あの……読まれましたか?
旦那 おれが聞いてんだよ

読まれた様子はねぇように思う……だったら別に心配するこたぁねぇように思うけど……えぇ?なんだい、いや、そうなんだよ、聞いてたかい、朝っぱらから色っぽい野郎じゃぁねぇか。そういうわけなんだよ、こいつぁ。

女房 そうなんですか、まったく、若い子ってぇものは……あら、新さん…お・は・よ

話、聞いてました。お前さん、ウブだねぇ。ねぇ、新さん、あたしゃこう思うんだ。どこのどなたさんか知らないけどさ、お前さんが相手してる、そのおかみさんって人、亭主の留守に若い男を引っ張りこんで、美味しいことをしようってぇおかみさんなんだろう?そこにぬかりは、ないんじゃないかなぁ。お前さんを裏から帰しておいて、すぐに旦那を引っ張りあげたと思ってるのかい?あたしは、違うと思うねぇ。お前さん帰した後で、忘れ物がないかどうか、座敷の中を一回り見回して、お前さんの紙入れみたいなものが落っこっていたら、ちゃんと拾って、旦那に見つからないように、おかみさんの懐に、内緒で入ってるんじゃないかと………あたしゃ、思うんだよ

ねぇ、旦那!

旦那 おぅ、そうともよ!!それに、てめぇの女房を寝取られちまうような間抜けな亭主だろ!? 隣に紙入れが落っこってたって、ハァッハァッハッ、そこまでは気がつくめぇ

引用元:「東西落語特選」
http://www.niji.or.jp/home/dingo/rakugo2/

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