上方落語『祝いのし』|無料で読むテキスト落語

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祝いのし

 

喜六おい、かか...おさき、今帰った...腹が減ってんねや、まま食おか
おさきまぁ、あんた、おなかが減らな家へ帰ってこられしまへんのか? そんなことやさかい、近所の人があんたのことなんて言うてるか知ってるか? 鳩親父や、言うてますのやで
喜六な、なんでわいが鳩やねん
おさきそうやないかいな、ぶらぶら、ぶらぶら遊んでて、餌の時分になったら巣へ帰ってくるさかいに、鳩やないか
喜六あ、ああ、なるほど、こら近所のヤツら、うまいこと言いよったなぁ...ぶらぶら、ぶらぶら遊びまわってて、餌時分に帰ってくるから鳩か...ほたら、クークー(食う、食う)
おさきなに言うてんの! もう、ほんまに情けない...早うこっちへ入りなはれぇな! もう、あんたが帰ってきたらおなかがすいてるやろから、ちゃんと段取りはできてますのやで。今向かいの弥助はんところから二十円借りてきた。そこに置いてますやろ。そうそう。そのお金持って今から魚屋さんへ行って、何でもええさかいに尾頭の付いたもんを買うといなはれ
喜六え、えらそうに言うても、お前、おなごや。二十円がん魚買うて、わいとお前と二人でどないして腹がおきんねん
おさきあんたに言われんでもわかってるわいな。今度家主さんの息子さん、お嫁さんをもらいはんの。その祝いを持っていきますの。よろしいか。ちょっとはりこんで二十円のもの持って行ったら、少のうても五十円、多かったら百円くらいのお返しはくれはるから、それで向かいへ二十円返して、残りでお米を買うたらよろしいやんか。分かったら早う行てきなはれ
喜六は、はは、な、なら行ってくるわ

あ、あいつ、偉そうに言うても段取りしてるだけ大したもんや...

おい、魚屋

魚屋へ、毎度おおきに
喜六ま、毎度言われたら、つらい。去年の年越しにイワシ買うたきりやで
魚屋大将、憶えてはるだけおもろおすな。なんぞしましょか?
喜六ちょ、ちょっとな、うちのかかが祝いもんにするさかいにおかしらの付いたもん買うてこいちゅうてんねん。おかしらの付いたもんて、どれや
魚屋大将、尾頭付きて知らはれしまへんのか、尾と頭がついて尾頭付きですがな。うちはどれでも尾頭がついてまっせ
喜六あ、お前とこどれもこれも尾頭付きか...このタコ、どこが尾でどこが頭や?
魚屋あんさん、そんなおかしなことを...タコの尾頭付きてなもんがおますかいな。祝いもんにしなはんでっしゃろ、これ、どないだす、生貝。アワビだす。一杯十五円、二杯で三十円、あっさり二十円にまけときまひょ
喜六...おい...おい!
魚屋た、大将...なんぞ気に障りましたか?
喜六「なんぞ気に障りましたか」やと? おぃ、お前、わいの懐に二十円入ってんの、知ってるな?
魚屋き、気色の悪い人やな...いや、大将わたい、そんなん知れしまへん、あんたの懐知りまへん
喜六へへ、冗談や...二十五円言われたらどないしょうか、思ててん。ほたら金ここに置くわ。品物、あんじょうつつんでや...

かか、買うて来た

おさきおかえり。何買うて来ました?
喜六生貝や、アワビの貝や。三十円のところを、もうこれで終いや、言うて二十円にまけてくれてん
おさきああ、さよか。何かもうちょっとカサ高いもんがおましたやろけど...まぁ、これでよろしいわ。
喜六ほいたら、かか、わい、今から行て来るわ
おさきちょ、ちょっと待ちなはれ、今日はいつものようにただ向こう行て、あんちょろり~んとしてられしまへんねんで
喜六な、何ぞすんのんかい?
おさき何ぞ、て...挨拶をせんなりまへんがな
喜六挨拶、て...そらあかん、挨拶てなもんは難しいがな
おさき難しいことおまへん、今日はいつもの日と違います。できるだけ丁寧にモノを言いなはれ。よろしいか「本日はまことに結構なお天気さんでございます。承りますればこのたび、お宅様のご子息様にお嫁御女をお貰い遊ばすそうで、これについて近所親類から祝いが参りますが、これはつなぎの他、ほんの塵結んだようなものでございますが、どうぞお納めを願います」と、これだけ言いまんねやで
喜六あ、あのあの...そ、それは誰が言うねん?
おさき誰がて、おはまんでんがな
喜六そ...そ、それは...おまはんは、とてもよう言うててやおへんで
おさき...ほんまに...人事みたいに言うて、情けないなぁ...ままええ、憶えられんかったら口移しで教えてあげます...あんさん、何してますの、戸ぉ閉めたりして...あほ、何を勘違いしてますねん。わたしの言う通りに言いなはれちゅうことですがな!

ええか、 本日は結構なお天気さんでござまいます、と

喜六へ、へへ...(エホンッ)えー
おさきいや、「えー」てなもんはいりまへんで
喜六ああ、そうか、えーは要らん、と...ほたら
おさきいや、ほたらも要りまへん
喜六む、難しいなぁ

ほ、ほ...本日は...ま、ま、ま、まことにけっ、結構なお、お天気さんでございます、と

おさきいや、そんなところに「と」は要りまへんで
喜六はは、ほいたら障子にしとこか
おさきよう、そんなアホなことだけ考えつきますなぁ。そういう余計なことを言うてたら癖になります。ええか、次行くで。「承りますれば」
喜六う、うけたばまかわり...まるせば...す、すまんけど、もう一遍言うてぇな
おさき聞いてしまへんのか、あんたは、いいぇえな。 うけたまわりますれば
喜六ああ、そうや...うけたわまり...うてかわまり...な、難儀やな...ちょと、すまんけどもう一回言うてぇな
おさき情けないなぁ、あんたは。いらんことは人一倍べらべらしゃべらはるくせに、このくらいのことがスッと言えませんか? ま、よろし、よろし。あんたのものの言い難いのは向こうさんもよーに知ってます。あんさんが少々妙なこと言うたかて、それで変やと思う人も無ければ、腹立てる人もおまへんやろ
喜六はは...ははは
おさき何を笑うてますの? 情けない... ただ、これだけは言うの忘れんようにしておくなはれや、「これはつなぎの他」うちとこだけです、ちゅうの。ここのところ、よーに聞かせときなはれ。これ忘れたらお返しが半分になってしまいますえ。それでな、そこのお米の袋、持って行きなはれ。で、行儀悪いけど、帰りにお返しの中身見せてもろうて、なんぼ入っててもかましまへん。そのうち二十円だけのけといて、残りでお米こうておいなはれ。お湯沸かして待ってます。おいしい湯立てご飯炊いてあげますさかい、お早うお帰り
喜六よ、ようしゃべるなぁ、あのガキゃ...始めから終いまでひとりでしゃべってけつかんねん...あ、ここや...(エホンッ)ちゃー
家主はい...どなたじゃな
喜六こなたじゃ
家主こなたじゃ、ちゅう人があるか...ああ、あんたやろと思うた。まあ、お上がり
喜六いや、いやいや、こ、ここで結構でんねや...あの、きょ、今日は...いつものように...だ、黙ってあんじょろりんとしてまへんで
家主ほう...なんか恐いな、な、なにかするんかえ?
喜六あの...口上もって、申し上げます
家主ああ、軽業みたいやな
喜六えー...あ、この「えー」は要りまへんねん
家主何を言うてんねん
喜六ほたら...ほたらも要らんぞ
家主要らんことなら、言わいでもええやろ
喜六いや、ちょっと黙ってておくなはれ...ほ、ほ、ほ、本日は...ああ、安心した...
家主なにぃ?
喜六え、ほ、本日は結構なお天気さんでございます
家主へえへえ、結構なお天気じゃな
喜六この調子やったら明日も結構なお天気でおます
家主まあ、天気は何日続いても結構じゃな
喜六あさってくらいは危ないかも
家主あんた、なにしにござったんじゃな、天気予報しにきたんかえ、口上はどうなさった?
喜六あんた、ちょっと黙ってておくなはれ、横でゴジャゴジャ言うさかいにややこしい...あのなあ、実はな...うてかまわり...うめたかまかかまか...うれかまたり...こ、これが難しおまんねん...くめたこわり...ありゃ...実はなんでんねん...うけまたさき...あんた、言うてんか
家主人に言わしなさるのか? それも言うなら「承りますれば」じゃ
喜六へぇ、それすれば
家主それすれば? 人に半分もの言わしてどないすんじゃ。承って、どないするんじゃ?
喜六へぇ、うてかかまわ...かまいわりて...まった...んですわ...はぁ、言えた
家主言えとりゃせんがな
喜六言えてるがな、よう逆らうな、ええと...このたびあんたのごちそく...ごぢぞぢじじく...こぢじごじい゛ごぢじきごぢじ...はぁ...いや、あんたのごじぢじごぞい゛たちぎちご...いや、早い話が
家主ちっとも早いことあらへんがな
喜六いや、これからだんだんと早よなりまんねん...あんたのごちじぞごじちだ...ごじたてい゛ぢ@waqaerh@[]]][awqh+q[-Q#Aq5hしだ@いwぎhhqad@dちaerぎこち...す、すんまへん、大将、おぶ、一杯もらえまへんか
家主大丈夫か、おまはん、なんや文字化けしてきたぁるように見えるが。これこれ、お松、済まんがお茶をいっぱい、出してくれんか...へえ、ありがとさん。ほら、これ飲んで、ちょっと気ぃを落ちつけなはれ
喜六あぁ、あんた、今度来た新しいお女中でっか。
お客さん来たら言われる先にお茶出しなはれや。ほんまに気の利かん...
い、いただきまっせ、出たら飲まな損や。(グビッ、グビッ、グビッ、グビーッ)はぁ...ごじぢいでぢすぢ@g@
家主またかいな! 承った次はどうした?
喜六うけたまがったんでんねん、そしたらおたくの...ときぢaa@4[i3j][j9uに゛いwe9すら゛にwe@jからにま...早い話が、あんたとこの子せがれがやなぁ! そのクソ子せがれにカカもろた一件でんねや!
家主ほっほー、こら「早い話」やなぁ。えぇ? それだけ言うのにお茶飲まな言われへんのんかいな...はいはい、息子に嫁を貰いました。それで?
喜六いや、その話でんねん。え、親ちぇきやら金魚やら...こちちここ、あこちここちこち、あこちこ、あちこちからいわ祝いがとどとどどどどど゛゛どきま...ちょっと大将、そんなよそ見したりあくびしたりせんと、ここのところよーに聞いといておくなはれや、...こ、こ、これはつぎはぎの...つぎきぎ..つなぎのほかほか...早い話がうちだけでんねん! ここのとこが肝心でんねんさかいに、あとのお返しに関わりますさかい
家主はっはっはっはっは...正直者じゃのう、い、家で教わったことみな言うてるな...いやいや、恐れ入りました。お前さんとこの嫁さん、いやぁ、しっかり者じゃのう。御近所に負けてはどんならん、御亭主に箔をつけようと...いやいや、恐れ入ります。きーさん、わしゃこういう人間じゃ。ちょっと中身を見せていただきます。気にせんとってや、ちょっと中身を...

(エホンッ)ああ、きーさん、これは...生貝じゃな

喜六そうでんねん。一杯十五円、二杯で三十円
家主いやいやいや、そうやない。値段を聞いてるのと違う。これはお前さんが道で買うてすぐここへ来たもんか、それともおかみさんが承知の上でのことか、それを聞きたいんじゃ
喜六あ、そ、そ、そそれ、お、おかみさん承知の上で...
家主はは、あんたが「おかみさん」と言うてはおかしいなぁ...そうか...きーさん、あんたが道で買うて来たもんやというのなら、どんなものであれ、目をつむっていただきましょ。しかし、おかみさん、おさきさんが承知の上のことやというのなら、これは受け取ることは出来ん
喜六そ、そら、な、な、なんででおます?
家主なんで、てそうやないか。おまはんのおかみさん、「男に勝る女はない」てなことを言うけれども、なかなかどうしてしっかりしてはる。そのしっかり者のよこした物がこれ、なんじゃな。生貝、アワビの貝。世間の人みなどない言うてる?「アワビの貝の片思い」 片思いにはさしてやりとうないなぁ。あんたじゃわからん。おかみさんに言うてな、品物代えて来てもろうて...いやいや、あんたところでいくらかかっても構わん。二倍にでも三倍にでもして返します。まずは品物代えて来ておくれ
喜六あきまへんて、それ...あきまへんねん。わ、わたい、おなかがすいてまんねん!
家主あんたのおなかはどうでもええがな
喜六あんた、そんな汚いこと言いな、自分とこの子せがれ、かか貰うのに人の腹どうでもええやなんて...わたいお米の袋まで持って来てまんねんで
家主あんたじゃ、わからんのじゃ! かみさんに言うて品物(ボンッ)代えて来い!
喜六あ、こ、こら...放ったりしなはんな...家主やからいうて、え、偉そうにすな! い、い、家主ちゅうたら、い、家建てて、人住まして、や、家賃で飯食うてんねやろがいな...ほいたらわいらお客さんやど...家賃が溜まってる? 知るか! 家賃と飯代はかかの係や、わいは酒代とパチンコ代もろてたら、そ、それでええねん。み、見てみい、放るさかいに、二杯の貝が三杯になってしもたが
家主目が見えてないのか、お前が握り締めとんのは、ネコのお椀じゃ
喜六ややこしとこにややこしもん置くな! 持って帰ったらええねやろ...もって帰るわ! 持って...持って帰る...さかいに...お返しだけくれ!
家主ごぢゃごちゃ言うてたら頭から煮え湯浴びせんで!
喜六ふん、帰ってかかに言いつけたんねん!
源兵衛おい、きー公、どこ行ってきたんじゃ
喜六ああ、玄やん、家主のとこへ祝い持って行ったんや
源兵衛お前、それ持って帰ってるやないか
喜六それが、あかんねん。あ、あ、あわあわあ、かたかた
源兵衛聞くんならちゃんと聞いてこい、「アワビの貝の片思い」やろ。ああ、あの親父ならそれくらいのこと言いよるやろ。あかんあかん、持って帰ったりしたらあかんで。頭から煮え湯? そんな手荒いことができるか。心配せんでもええ。

ええか、向こう行ったら今からわいが教える通りにやれ。入り口が閉まってたら遠慮せんでもええ。足で蹴り開けたれ。「ごじゃごじゃ無しに取っとけ」と品物突き出せ。品物が変わってない。おやじがぼやきよるぞ。「わたしとこで縁起が悪いというて返した品物、また持ってきなさるとはなんぞ意趣遺恨があってのことか」こないなこといいよったら遠慮すな。できるだけ汚い言葉で言わなあかんぞ。
「お前ら偉そうにぬかし腐っても何も知りさらせへんやろ。おまえとこのド息子にドんかかをもらい腐って、それについて近所親戚から祝いが来る。その祝いに結構な熨斗がついたぁる。この結構な熨斗をついたなりもらうか、はがしてもらうか。どっちや!」
と聞いたれ。向こうの親父、
「貼ったなり貰います」
と言いよるに違いない。その言葉を聞いたら遠慮すな。下駄なり座敷に暴れ込め。なんならそのまま部屋一周走ったれ。こないだ人から聞いたらなんや絨毯てな高価な敷物しいて悦に入ってるらしいが、遠慮いらん、その上走り回って、なんなら絨毯の真ん中でケツ捲くってクソしたれ。
ええか、そこで言うたれよ。

「お前ら偉そうに言うたかて、その熨斗の根本を知らん。ええか、結構な熨斗は貝から取れんねん。この貝はどこで採るかというと芝浦で採る。誰が採るかというと海女というおなごがとる。
海女というおなごは絵で描いたらきれいに描いたるが、あれは絵空事、ほんまをいうと潮風に吹かれて色の黒い汚いおなごや。黒うて汚うても汚れの無いおなごが海へ入って採る。このおなごが海へ入ってる間、海の上で手桶の番をしとるおなご、このおなごは汚れとるぞ。おなごというものはな月に一度の月経日というものがある。月経日のことを『手桶番』というのはここから来た言葉や。
こうやって採った貝を大釜で蒸してムシロをかぶせ、その上にのして、そのうえにさらにムシロをかぶせ、その上で後家でいかず、やもめでいかず、仲のええ夫婦が夜通し交合せなんだら結構な熨斗はとれんのんじゃ!
その結構な熨斗の根本をなんで取らんのじゃ!」
とこうや!

これだけ言うてお返しが百円、二百円では安い。五百円、千円でおます! と言うたれ

喜六はははっ、よう教えてくれた、このアホ!
源兵衛向こう行て言うんじゃ、このアホ!
喜六ははは、うちのかかも偉いと思うたけど、友達にも偉いやつがいてんねや...あ、ぁぁ、拍子の悪い...入り口開けてけつかんねや...閉めてやがったら蹴倒したろと楽しみにしとったのに...

こらぁ、ごじゃごじゃ無しに取っとけぇ!

家主そら、なんちゅうものの言いようするんじゃ。気に障ったら堪忍しておくれ、おまはんとこのおかみさん、怒ってたか? いやいや、今度おうたら謝っとくさかいに、堪忍して...(エホンッ)きーさん、きーさん、こら、わたいとこが縁起が悪いちゅうて返した品物やないか! 二度持って来なさるということはなんぞ意趣遺恨があってのことかい?
喜六ほーら、来やがった...へへへっ、今度はそうはいかんぞ、このガッキャぁ。じ、じゃかっしゃぁ、お前ら偉そうに言うたかて、何も知り...知りさ・ら・せ・け・つ・か・れ・へんやろ...ああ、言えた...こ、こんどおまはんとこのド息子さんにド嫁さんを貰いなさる
家主おまえ、どこの生まれじゃ
喜六どこの...日本人じゃ! そ、そ、その、それにあたって、親戚や知り合いから祝いが来るやろ
家主当たり前じゃ、お前さんとことは付き合いが違う。祝いの品はそれ、床の間に山の様じゃ
喜六い、ぃ、い、祝いがくるじゃろ
家主人の話を聞かんか、祝いはあのとおり山のごとくじゃと言うとろうが!
喜六山も川もあるかい! こっちゃ今から海の話しすんねんぞ! そのい、祝いじゃ、その祝いに熨斗がついたぁる、その熨斗を貼ったまま貰うか、それともはがして貰うか、どっちゃぁ、こら、言うてみぃ!
家主...なるほど、こらえらいこといいよったな。...こらきーさん、あんた誰ぞにお尻いらわれてるな
喜六そ、そんなこそばいとこいらわすか!
家主違うがな、誰ぞに入れ知恵されてるな、ちゅうてますのや。はっはっは、熨斗という物はなかなかにいわれのあるおめでたいもの。その結構な熨斗を剥がすということがあるか。うちは付けたなり貰います
喜六は、貼ったなり貰うか?
家主貰うと言うてるやないか。
喜六ほ、ほんまに...ほん~まに貰うか。 あのなぁ、あんた、ここんとこ、ええ加減な答えしたらえらいことになるさかいに、よう考えてもの言いや
家主なんじゃ、それは...うちは熨斗だけでもいただきます!
喜六貰うんやな、貰うなれば...
家主こ、こらこらこら、座敷に下駄なり上がってどないするんじゃ
喜六どないもこないもあるか! これが絨毯かい、今に見てけつかれ、思い切り太いやつ出したんねん...う~ン...う~ン
家主おいおい、そんなところでケツ捲くって気張って、どないしょうちゅうねん
喜六へへへ、腹減ってるさかい、何もでぇへん...
家主そんなことしたら、もう人間やあらへんで!
喜六や、やかましゃ! お、お、おまえ、この結構な熨斗のポンポン知ってるか!?
家主な、なに? ポンポン? どうでもええけど、ケツしもうてしゃべれ!
喜六けっこ、けっこ、結構な熨斗のぽんぽんを知ってるかちゅうねん
家主そら、ひょっとして「根本」のことか?
喜六ぽこぽんぽんや、そう言うてるやないか! そのぽんこんをどこでとる、しば、しばしば、ばうらでとる。しばうらの路地の奥で採る。あ、だれが取る、あ、あまがとる、あまちゅうても絵で見てもきれいななぁ、ホンマに。 絵空事は潮風におケツ触られてよう温くもってんねんど!
貝とってんのは毛がないおなご、その番してるのは毛むくじゃらや!
おなごは月に一度の月給日があんねんぞ、その月給日のことを手桶番とはこれいかに? そ、そ、その貝をお釜で蒸してむしてむしてむしてむむしむむししろしろろむしむしろのうえでのしてむしてしのていののののし...はぁ...やど!でその上で後家とやもめとこんこんちきち、こんちきち、こんこんちきちき...

どないすんねん...

そらいかんぞ!

いや、ちがう、後家で...いかずや! やもめで...いかず! 仲のええ夫婦が夜通しこんこんちきち、いや違う...そや  孝行せぇや!

あのな、それおまえどない思う? 後家さん一人で寂しかろう、やもめ一人はなおいかん、そら二人で夜通し、 えへへっ なんなとせぇ!

祝い熨斗というばかばかしいお噂でございました

 

引用元:「東西落語特選」
http://www.niji.or.jp/home/dingo/rakugo2/

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