厩火事
ただいま理髪店、理容店と呼んでおりますお商売、昔はこれを床屋と呼んでおりました。なぜ、「床」屋か、と申しますと、これは髪結い床の「床」なんですな。昔は髪結いさん、というお商売の人がほうぼうのお宅を廻って、髪を結って歩いたものですが、この髪結いさんが開業しまししたものが「髪結い床」でございます。これは女性の商売としてはとても実入りのよい商いでございまして、おかみさんがどんどんとお稼ぎになるので、亭主の方はどうしたって怠け心というものが、えぇ、首をもたげてまいりまして、こういうのを「髪結いの亭主」なんて云いまして、夫婦喧嘩のもとになったようでございまして...
女房 | 旦那、いらっしゃぃますか? |
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旦那 | おや、お咲さんじゃないか。おぃ、また夫婦喧嘩かい? |
女房 | そうなんですよぉ |
旦那 | そうなんですよぉ、じゃないよ。えぇ、お前さんとこの夫婦くらい喧嘩ばかりしてるやつぁないねぇ。そりゃぁ、たしかにあたしは仲人だよ。仲人はしたけれどもね、こうのべつまくなし喧嘩をしちゃぁ、そのたんびにあれやこれやと云ってこられちゃぁ、とても辛抱堪らないよ。どうしたんだよ、今日の喧嘩はいったいなんだい? |
女房 | それがねぇ、旦那の前ですけど、今朝のおまんまなんですよ |
旦那 | おまんま? おまんまがどうしたってんだよ |
女房 | いぇね、あたしは鮭が好きだから、新巻鮭が塩が甘くってうまいですからねぇ、焼いて食べようと云ったんですよ。そしたら、うちの人ったら、やつがしらを煮てくれ、なんて云うんですよ。そんな時分からやつがしらなんか煮てられるわけが無いじゃないですか。だから、云ってやったんですよ。 「おまえさんは、うちで遊んでんだけど、あたしゃこれから商売にでるんだから、それは晩にしておくれ」 って。そしたら、あの人怒っちまって、 「てめぇは、亭主と違うものばっかり食ってっから、了見まで違ってくるんだ。てめぇは、魚ばっかり食ってやがるから、いやに気が強くなって亭主に食って掛かりやがる。この魚河岸アマめ!」 って云うんですよ。あたしも悔しいじゃぁありませんか。だから、 「この大根河岸野郎!」 って云ってやったんですよ |
旦那 | なんだよ、つまらねぇ喧嘩だなぁ |
女房 | それから、まだ続きがあるんですよ |
旦那 | まだあるのかい? |
女房 | 仕事に行こうと思ってうちをでたんですよ。すると、あの、旦那もご存知でしょ? あたしの友達のお米さんのおっかさん、あの人が、指を怪我して、当分仕事にまわれないっていうんですよ。それで、あの人に頼まれて、あの人のお得意を二軒ばかりまわったんですよ |
旦那 | うん、そりゃぁ、世の中は持ちつ持たれつ、お互い様だからな。お前さんが何かあったときにゃぁ代わってもらうこともあるだろう |
女房 | そうでしょ? それでね、二軒目の伊勢屋さんてぇお宅にうかがったんですよ。ところが、そこの娘さんの毛が、くせっ毛で悪い毛ったらありゃぁしないんですよ。おまけに、ここが出てるの引っ込んでるのと、もううるさいったらありゃぁしない。でも、まぁ、商売ですからね、どうにか結っちまって、いつもより少し遅くなって、かれこれ七時ごろにうちへ帰ったんですよ。そしたら、うちの人ったら、何が気に入らないのか知らないけれど、おでこに青筋立てて怒ってるんですよ。 「どこを遊んで歩いてやがるんだ!」と、いきなりこれでしょ。あたしが、遊んで歩いてるわけないじゃありませんか!! |
旦那 | おいおい、あたしに小言をいうんじゃないよ |
女房 | あんまり悔しいから、 「なに云ってるんだい、誰のおかげで昼間っからそうやって遊んでいられるんだ」 って云ってやったんですよ |
旦那 | おいおい、どうでもいいけど、聞こえがいいもんじゃないねぇ、お前さん、それがいけないんだよ。少しばかりの稼ぎを鼻へかけて... |
女房 | えぇ、まぁねぇ...でも、うちの人も男ですから、負けちゃいやしませんからね。 「なにを生意気なことを云いやがってんだ、このおかめ!」 「このひょっとこめ!」 って、そう云い返してやったんですよ。そしたら、向こうが 「般若っ!」 ってんでしょ。それからあたしが 「この外道ッ!」 って... |
旦那 | おいおい、今度は面づくしかい? お前さんちてぇものはどうしてそう妙な喧嘩ばかりするんだよ。まぁ、そんなことはどうでもいいけど、お前さんは今日はどういう気でやって来たんだい? |
女房 | えぇ、もう、今日という今日は、もうつくづく愛想が尽き果てましたから、旦那には仲人までしていただいて申し訳ないんですけれど、あたしゃ別れさせていただこうと思いまして... |
旦那 | あぁ、そうかい。いいだろう。そりゃぁいいや。別れたほうがいいよ。別れなさい。まぁ、本来から云えば、お前さんの亭主を世話したのはあたしなんだから、かばわなきゃいけないんだろうけれども、でもねぇ、かばえるものと、かばえないものとがある、と云うのは、お前さんの亭主についちゃぁ、あたしゃ気に入らないところがあるんだ。 つい、三、四日前だった。近所に用事があったんで、お前さんのうちへ寄ってみた。そのとき、そこへ出ていたお膳の上を見て、あたしゃムカッときたね。刺し身が一人前のっていた。まぁ、こりゃいいとして、その横に酒が一本乗ってるじゃないか。これがあたしの気に入らない。そうだろう? 女房のお前さんは外で油だらけンなって稼ぎまわってる最中だ。その留守に、いくら亭主だからって、真っ昼間から酒を飲んでるって法はあるまい? えぇ? そりゃぁ呑むなじゃないよ。でもさぁ、どうせ呑むンなら、お前さんが帰って来るのを待って、いっしょに呑んだらどうなんだい? 自分は遊んでて、女房が働いてるんだから、そのくらいの心遣いをするのが夫婦ってぇものじゃないのかい? ったく、それができないような亭主なら、もう縁が無いんだよ。別れたほうがいい。もう、遠慮なんかするこたぁないよ。別れちまいな! |
女房 | ......まあ、そう云えばそうですけど...なにも、うちの人が、お刺し身を百人前誂えたわけじゃなし、一斗樽からにしてひっくり返ってたってわけじゃあるまいし...お酒の一合や刺し身の一人前やったからって...他人の旦那がなにもそんなにおっしゃらなくたって... |
旦那 | おいおい、なんだよ、お前さん、うちへ何しに来たんだい? 愛想が尽き果てたから、別れたいって云って来たのはお前さんの方なんだよ。いったいどうするつもりなんだい? |
女房 | ど、どうするってェ...旦那、どうします? |
旦那 | それをあたしが聞いてるんじゃないか |
女房 | ええ、そりゃぁ、今日お宅へうかがうについちゃぁ、もう別れようと思ってのことなんですけどねぇ...好いて好かれて、好かれて好いていっしょンなったもンですからねぇ、そうおいそれとは別れられるもんじゃありませんよォ。ですけど、あたしゃ、あの人よりも七つも年上なんですから、いろいろと心配ンなっちまって...もしも、あたしがシワだらけのおばあさんになって、もうどうにもこうにも身体も利かなくなってから、あの人が若い女をこしらえたりしたら、悔しいじゃぁありませんか。その時ンなって、食いついてやろうと思っても、歯がみんな抜けちまって、土手ばかり... |
旦那 | おいおい、まったくよくしゃべるねぇ...あたしがひとことしゃべるうちに、お前さんは二十ことも三十こともしゃべってるんだから、驚くねぇ。それじゃぁ喧嘩になるわけだよ |
女房 | けどね......あんないい亭主はどこを探したっていやぁしない、と思うくらいに優しいときもあるんですよ... |
旦那 | こんどはのろけかい? いい加減にしなよ、お前さんは... |
女房 | そうかと思うと、今日みたいに憎ったらしいこともあるんですよ。もうあたしゃぁ、あの人の了見がわからないから、じれったくって... |
旦那 | まぁ、そうじれったがっても困るよ。あの男の了見がわからないっていうけど、お前さん、もうかれこれ八年もいっしょにいるんだろ、そのお前さんにわからないものが、あたしにわかるわけないじゃないか。しかし、まあ、そうやってお前さんがいつまでもくよくよしてるのも気の毒だから、ひとつあの男の心をためしてごらん。それについて、面白い話しがあるんだが、むかし、おとなりの唐土の国に孔子という学者がいた |
女房 | へー...それ、やっぱり幸四郎の弟子ですか? |
旦那 | 役者じゃないよ。学者だよ |
女房 | 学者...って、どんな商売です? |
旦那 | 商売じゃないよ...困った人だねぇ、学者も知らないのかい? 今で云えば、まあ、文学博士とでもいうような、たいそう学問のある立派なお方だ。この方が、お役所へ馬でお通いになっていた。二頭の馬を持ってらしたんだが、とくに白馬の方をお愛しになった |
女房 | へぇ、そうですかねぇ。いえね、うちの人もあれが好きなんですよ。ことに冬はあったまっていいなんていって... |
旦那 | お前さんの云ってるのは、それはどぶろくのことじゃないか? 違うよ。孔子様のお乗りになった白い馬のことだよ |
女房 | ああ、そうですか...それがどうかしました? |
旦那 | ある日、珍しく乗り換えの黒馬のほうへ乗ってお出かけになった。ところが、その留守にお厩から火事が出た。ふだん孔子様がご家来衆におっしゃるには、 「この白馬は、わたしの大事な馬だから、どうかとくに大切に扱っておくれ」 とのことなので、ご家来衆はおお慌てで、ご愛馬に怪我でもあっては大変、と、なんとかしてこの馬を引き出そうとしたのだが、名馬ほど火を恐れる、という言葉があるのだそうだがね、どうしても動こうとしない。ご家来衆も、自分達の命には代えられないから、戸板を破って逃れ出た。とうとう、白馬は焼け死んでしまった。 「家来のもの、一同に怪我は無かったか」 とお尋ねになった。 「家来一同無事でございます」 「ああ、それはめでたい」 とおっしゃったきり、馬のことはひとこともおっしゃらなかった。そこで、ご家来衆は 「ああ、ありがたい。あの馬を焼き殺したからどんな懲らしめを下されることになるかと思っていたが、馬のことをひとこともおっしゃらないで、われわれのことだけどご心配下された。まことに恐れ入ったことだ」 というので、このご主人のためにはもう命もいらない、と思って、一所懸命につくしたという。実にえらい話しじゃないか。また、これとあべこべの話しがある。 |
女房 | あらまぁ、珍しいじゃぁありませんか。毛が三本足りないなんてことを云いますけど、サルのお殿様がいたなんて... |
旦那 | なにを云ってるんだ? そんなことを云ってるからすぐに喧嘩になっちまうんだよ。サルが殿様になるわけがないだろう? 「さる殿様」ってのは名前が云えないから、それで、さる殿様と云うんだよ |
女房 | へーぇ、そんなもんですかねぇ...それで、そのさるの殿様がどうしました? |
旦那 | さるの、じゃなくて、さる殿様だよ。その殿様が、たいそう瀬戸物に凝っていらっしゃった... |
女房 | まぁ、そうですか。いいぇ、うちの人も瀬戸物に夢中なんですよ。このあいだもね、二円五十銭もだして、ひびの入った瀬戸物を買ってきて、掘り出し物だなんて云いましてね、桐の箱へ入れて、黄色い布で包んで、撫でたり、拭いたり、そりゃぁもうたいへんな熱の入れ様なんですよ |
旦那 | ほんとによくしゃべるねぇ...その殿様の瀬戸物は、おまえの亭主が買うような、そんな二円だの三円だのってぇ安物じゃないんだよ。ひとつで、何千円、何万円というような品物なんだよ |
女房 | まぁ、驚いた。そんな大きなお皿かどんぶり鉢があるんですか!? |
旦那 | おい、大福や焼きイモを買おうってんじゃないんだよ。なにも大きいから高いってぇものじゃないんた。どんなに小さくても、ものによっては何千円、何万円とするんだよ...で、あるとき珍客がおみえになった |
女房 | ふふっ、殿様がサルだから、お客は狆だ |
旦那 | そうじゃないよ。珍しいお客のことを珍客というんだよ |
女房 | へー...それじゃ、始終来る客のことはニャン客とでも云いましょうかねぇ |
旦那 | おい、少しは黙って人の話しを聞きなよ。なにしろ、ご自慢の瀬戸物をお客様にお見せしたんだよ。で、そのお客様がお帰りのあとのことだ。殿様が大切にしていらっしゃる品物のことだから、奉公人にこれを運ばせたりはしない。奥様が瀬戸物を持って二階から降りようとなさった。ところが、運の悪いときはしかたのないもので、足袋が新しい、廊下も階段もピカピカに磨き上げられている。足がツルッとすべったな。そのまんま、奥様、ドドドドドッ、と階段を下まで落っこちてしまった。すると、殿様が目の色を変えて跳んできて、 「瀬戸物を壊しゃぁしないか!? 皿を壊しゃぁしないか!?」 と三十六ぺんおっしゃった。奥様は、壊してはならないと身体でかばわれたから、いい案配に壊れはしなかった。 「いいえ、瀬戸物はなんともございません」 とお応えになった。すると、 「ああ、瀬戸物は無事だったか。それはよかった」 とそれだけだ。これが、この殿様の本心なんだな。すると、翌日になると、奥様が 「わたくし、実家に用事ができましたので、ちょっとお暇をいただきとうございます」 とおでかけになったが、まもなくご実家からご離縁を願います、という便りが来た。何事か、とお尋ねになると 「瀬戸物のことだけをお尋ねになって、身体のことは少しもお尋ねにならないところを見ると、お宅様では娘よりも、瀬戸物の方がお大事なのでございましょう。そのような不人情なところへかわいい娘をやってはおかれません。先々が案じられますので、ご離縁願います」 という返事。嫌でもない奥方をとうとう離縁することになっちまった。それからはその殿様は不人情だという評判がたって、とうとう生涯嫁の来手がなかったそうだ。 お前さんの亭主が瀬戸物を大事にしてるてぇのはもっけの幸いだ。これからうちへ帰って、亭主が一番大事にしてる瀬戸物を壊してご覧。もしもそのとき、おまえの亭主が瀬戸物のことばかり云ってたら、これはもう望みは無いから、諦めてしまいな。そのかわり、お前の指一本、爪一枚でも尋ねたらしめたもんだ。心のうちに真実があるてぇやつだ。お前の一生がかかってるんだから、思い切ってやってごらん |
女房 | えぇ、そりゃぁ旦那のおっしゃることですから、やってみますけどねぇ...いくらなんだって二円五十銭の瀬戸物とあたしのからだと、いっしょンなるわけないですからねぇ、そりゃぁどうしたってあたしのからだのことを聞いてくれると思いますよ |
旦那 | 思いますよって、だから、そこんところを試すんじゃないか |
女房 | へぇ、そういうもんですかねぇ...瀬戸物の方もずいぶんと大事にしてますからねぇ、まるっきり安心もできないかも知れないねぇ...うまく唐土の白馬ならようござんすけどねぇ、なんかの拍子に麹町のサルになっちゃったら困るしねぇ... じゃぁ旦那、こうして下さいな |
旦那 | なんだい? |
女房 | 一足先にうちへいって、うちの亭主に、瀬戸物のことを聞かずに、きっとからだのことを聞くようにって、云っといてくださいよ |
旦那 | おい、そんなインチキしたんじゃぁ本心が分からないじゃないか |
女房 | 旦那、取りあえず本心なんてどうでもよござんすから... |
旦那 | おいおい、どうもお前さんはまだまだ未練があっていけないねぇ。いいかい、うちへ帰ったらそーっと裏口から入るんだ。たぶん、亭主はまだ怒ってるだろうから、まず亭主によく謝って、すぐに食事のしたくをする、とか何とか云って、台所へ入るんだ。そのとき、ついでに洗っとこうと云って、亭主の大事にしている瀬戸物ってぇのを持ち出して、すべったふりをして壊しちまうんだ。どっちを聞くか、思い切ってやってごらん。もし何か困ったことができたら、また相談に乗ってあげるから |
女房 | ありがとうございます。じゃぁ、思い切ってやってみますから...あとで、またうかがいます。いろいろ、お世話様でした、御免下さいまし... あーぁ、旦那は本当に利口な人だねぇ、いいことを教えてくれたよ、まったく...でもうちの人が唐土の方ならいいんだけどねぇ...ただいま...お前さん、ゥン、まだ怒ってンのかい? ゥン、そンな恐い顔してさァ...エェ、怒ってるんだろ? |
亭主 | 怒ってやしねぇけど、お前みてぇにわがままじゃしょうがねぇよ。何か気に入らねぇことがあると、プイと飛び出したっきり何時間も帰ってこないんじゃねぇか...おれはね、いっしょに飯を食おうと思って、さっきからおめぇの帰りを待ってたんじゃねぇか |
女房 | あら、お前さん、あたしといっしょにご飯が食べたいかい? |
亭主 | あたりめぇじゃぁねぇか。夫婦じゃぁねぇか...朝だってそうだよ。おめぇは飯なんかろくすっぽ食わずに、起き抜けに仕事に出てっちまうし、昼飯だって外ですましちまうし、夫婦がいっしょに飯が食えるのは、晩だけのことじゃねぇか。日にいっぺんぐれぇは、ゆっくりと差しで飯が食いてぇや |
女房 | あーら、ちょぃと、お前さん、唐土だよ! |
亭主 | なんでぇ、そのモロコシってぇのは? |
女房 | ちょぃと嬉しくなってきちゃったねぇ...それじゃぁさっそく瀬戸物の方に取り掛かるよ |
亭主 | なんだか訳のわからねぇことばかり云うんじゃねぇよ。なんだい、その「瀬戸物に取り掛かる」ってぇのは? おいおい、それをどうするんだよ。汚れちゃいねぇよ。どっかへ貸してやるんなら他のにしてくれ |
女房 | いいじゃないか、たかが瀬戸物ぐらいのことにそんなに騒がなくても...お前さんのものはあたしのものなんだから... |
亭主 | そりゃぁそうだけども...おい、飯になるってのに、いまそんなもの出したってしょうがねぇじゃぁねぇか。壊しでもしたらどうするんだよ...おい、そいつぁなかなか手に入ンねぇもんなんだよ |
女房 | あれっ、あんなこと云って...だからお前さんってぇものは安心できないんだよ。いま唐土かと思ったらもう麹町ンなっちまうんだから... |
亭主 | なにをブツブツ云ってんだよ...おい、危ねぇじゃぁねぇか! なんだよ、その...台所でタタラ踏んで...あっ、アアァッ! おい! だから云わねぇこっちゃねぇ! 壊しちまった! ったく、余計なことをするからそういうことになるんだ。おめぇ、大丈夫か? どっか怪我はなかったか? 指をどっか痛めやしなかったか? ...おい、なにをぼんやりしてるんだよ、どっか痛いのか? え? いやぁ、瀬戸物なんざぁ、銭出しゃぁいくらでも買えるんだ。それよりも、おめぇ、どっかからだを怪我しなかったか? |
女房 | ......グスッ...あぁ、うれしいじゃないか...グスッ、お前さん、麹町のサルになるんじゃないかって、あたしゃどれだけ心配したことか...あたし、ほんとに嬉しいよ... |
亭主 | おい、何も泣くこたぁねぇやな |
女房 | これが泣かずにいられるもんかね...でも、お前さん、そんなにあたしのからだが大事かい? |
亭主 | おう、あたりめぇだ! おめぇに寝付かれてみねぇ、遊んでて酒が呑めねぇ! |
引用元:「東西落語特選」
http://www.niji.or.jp/home/dingo/rakugo2/
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